14話 本質はそこじゃない
少し短いですが、よろしくお願いします。
自分達が異世界より転移したと聞かされても、ハルトとアズライールに、それを信じることは難しい。そもそも、突然そんな事を聞かされても信じる者は相当に頭がおかしいだろう。
「悪いが、とても信じられる訳がない。」
なので、ハルトがこう言っても無理はないとレンは考えていた。
「あぁ。僕もまだ君達がそうだと確信してるわけじゃないんだよ。だから可能性だと言ったんだ。」
「あんた、私達が異世界転移してきたっていう根拠は何?」
アズライールも勿論、そんな与太話を素直に受け入れる訳がない。ただ、この場所と目の前のレンとアズマリアの関係性は自分が知る常識とは大きく異なっていた。
「理由は2つ。1つは過去に異世界から転移してきたものが存在するということ。2つは、君達が使った技と魔法の性質が次元を越える条件に合致していることにあるんだ。」
「条件って?」
「まず、ハルト。君が使った技の性質は新しい生命を生み出すこと言えるよね。」
「あぁ、目的は違うが、確かに技の性質としてはその通りだ。」
ハルトが抜刀術 息吹を使う目的は、強大な敵を打ち倒す為である。しかし、その技の性質は肉体を魂と魔素へと転化させることにある。
「そして、アズライール。あなたが使った魔法の性質は、生命の消失。これで間違えないわよね?」
「ただしくは、輪廻へと返す事だけど合っているわ。でも、それが何だっていうの?」
アズライールが使った滅魔法 褥の性質は、存在する生命の輪廻への誘い。しかし、その事が条件とどう結び付くのか、アズライールは分からなかった。
「次元を越える条件。それは、生命を司る陽の力と、死を司る陰の力がとても強く混ざり合うことだとされているわ。」
「なるほど、俺達が使った技がその条件に合致するという訳か。とは言え…。」
そんな事が本当に起こるのだろうか。ハルトはそう考え言葉をつぐんだ。
「確信はない。だけど君達の話を聞くと、過去に異世界から来たとされる人達の話ととても似ているんだよ。悩ましいことにね。」
はぁ、とレンは溜め息をつくと、腕を組み話を始めた。
「さっき言った、至上守護者は人と魔人で対立していると言ったよね。これ、君達の状況とかなり近いと思わない?」
「確かに。」
「その通りね。正直、私にはその方が違和感がないもの。」
「人と魔人の至上守護者の始祖。彼等こそ、異世界からきた者達。彼等はお互いを勇者と魔王と呼び、争いを始めた。丁度君達が話をしている通りにね。」
「だからあんたは私達が至上守護者だと疑い、私達の話を聞いて異世界から転移してきた可能性があると言ったとうことね。」
「だけど、それだとおかしくないか? レンさんが言うには、勇者と魔王はこの世界を守る者の称号で職業なんだろ? 対立を起こしたってんなら、それは矛盾だ。」
レンが言ったこの世界の勇者と魔王の概念は、その始祖の勇者と魔王には結び付かない。
「至上主義者が語る勇者と魔王は、僕達のような一般的な価値観を持つ人々から認められてないさ。あまりに違う価値観。それも、始祖が異世界転移者だと裏付ける理由の一つ。だって彼等がそう名乗る前から、勇者と魔王はこの世界を守ってきたのだから。」
「次元を渡る条件、異世界転移者とさせる勇者と魔王の価値観、それと俺達の現状。それが俺達が異世界転移をしたっていう根拠か。」
「根拠というか、仮説。それと君達の表情だね。」
アズライールの慟哭とも言える叫びはレンの心に確かに響いていた。責任と懺悔と悔しさ、レンがアズライールの言葉から感じた感情だ。ただの子供にはとても出せるような物ではなかったと。
とはいえ、レンにとってこれは仮説。そしてそれは、彼等が此処にいる背景の推論でしかない。
「まぁ、君達が異世界から転移してきたかどうかは問題の本質ではないんだけど。」
「どういうことよ?」
異世界転移なぞ起こったとしたら、これ以上大変なことはあるのか。アズライールはその思いからレンに問いかけた。
「異世界かどうかはさておき。というよりそんな事は確かめようがないし。ただね、事実としてあるのは此処が君達が知る土地ではなく、僕達もまた君達の土地を知らない。」
「つまり?」
「君達、一体どうやって家に帰るつもりだい? 分かっているとは思うけど、リテラルには君達の言う大陸と国への交通手段はないよ。」
「大問題じゃない!」
「そんなのまだ序の口よ。もっと深刻な問題だってあるわ。」
レンの意図を引き継ぎ、アズマリアが会話を引き取る。
帰る場所が分からなくて起こる問題。ハルトは思い当たったのか、はっと口を開いた。
「まさか。」
「そうよ。生活拠点と生活費。」
人である以上、必要不可欠な要素をアズマリアが上げていく。
「そのどれもが俺達には足りてないな。」
「ここでの一般常識もね。」
レンはハルトの発言を補足する。
「君達が異世界転移しようが、子供の姿になっていようが、そしてそれが真実かとうかはさておき、そこが問題じゃないことは理解できた?」
「そうね。私達にとって故郷に帰ることは必須。そしてそれには、手段と検討が必要。」
「でも、情報を得る為の時間を過ごす生活手段が俺達には無い。」
「大問題じゃない!」
アズライールは先程よりも大声で、先程と同じ言葉を口にした。
「分かってくれたみたいだね。まぁ僕も乗り掛かった船だから、突然君達を放り出すことはしないし、出来ることはフォローしようと思うけど。」
レンは優しく微笑みながら、ハルトとアズライールの顔を見た。そして、その言葉にハルトとアズライールは即座に飛び付く。
「レンさん! 恩にきるぜ!」
「あんた、人間の癖に小粋ね! 優男は嫌いだけど、あんたは良い優男よ!」
アズライールのよく分からない誉め言葉に眉を苦笑させつつ、少し表情を引き締めレンは手を前に出し、注目を向けさせる。
「君達には先ずここを知ってもらう必要がある。というわけで、この都市を案内しようと思うんだけどどうかな?」
「それは此方からお願いしたいところだな。」
「そうね。生活する環境を知るのはとても重要なことよ。」
その提案を2人は受け入れた。
「話が早くて助かるよ。良いよね、アズマリア?」
「ただ貴方達は注意してよ。さっきみたいに勇者だ、魔王だ、敵同士だの言うのは厳禁よ。外でそんな事を言えば間違いなく通報案件。約束出来るかしら?」
アズマリアは目をきりっと上げて二人に忠告を施した。
「分かってるわよ。イカれた至上主義者ってやつと間違われるからでしょ。そこまで察せられ無いほど馬鹿じゃないわ。」
少々プライドを刺激されたのか、アズライールは顔を背けて答えた。
「分かってるなら良いわよ。それじゃあ、レン。」
「うん。それじゃあ行こうか。」
レンが先導し、部屋を出て外へと繋がる通路を歩く。ハルトはアズライールに聞こえないようレンに話しかけた。
「なぁ、レンさん。一つ良いか?」
「何かな?」
「テラスでの話だ。俺もそうだが、特に魔王…アズライールの行動はあんた達の言う至上主義者ってのに近かったはずだ。なんで、違うと信じられた?」
レンはその言葉を受け、少し振り返りハルトの目を見る。その目は、敵意こそ無いものの此方を伺い知ろうと奥は鋭く光っていた。
「色々教えてくれて申し訳ないが、それでも俺達を信じられる根拠には足らないはずだ。」
「彼女はプライドが高そうだし、言うのは避けたんだけど簡単な話だよ。」
レンはハルトの耳に顔を寄せ、小声で伝えた。
「僕達が君達を見付けた時、彼女は君を守るように気を失っていた。至上主義者なら、そんな事はしないさ。」
ぽかんと顔を間抜けに呆けるハルトに、レンは器用に片目を瞑ると、ポンと肩を叩き外へと繋がる扉に手をかけた。
「さぁ、2人とも準備は良いかい? ここは独立自由都市リテラル。君達の知らない異世界の都市だ。」
そういうと、レンはにっこり笑ってドアを開く。後ろからハルトの肩を契機良く叩き、淡いピンクの髪がハルトの頬をくずぐり先を行く。
「何ぼさっとしてんのよ? さっさとしなさい。」
此方を小馬鹿にし、満足気に笑みを浮かべながら言う魔王を見て、ハルトはそっと呟いた。
「あいつが、俺を?」
「聞こえないの? 暖簾でも気取ってるのかしら、言っておくけど暖簾の方が上等よ。」
良く分からない。しかし、馬鹿にされている事だけは充分にアズライールの表情から伺えた。
「お前は大声のわりに、言うことが小うるさいんだよ!」
「あら、ならあんたは鼠と一緒ね。」
「おい、それはどういう意味だ?」
「ふっ、勉強なさい。」
流れるように自分を馬鹿にしているであろうアズライールは勝ち誇ったような笑みを浮かべている。その表情を見て、ハルトはこいつが俺を守ろうとしたなんて、やはり何かの間違いだと確信した。
「レンさん、あんた騙されてるよ。」
今回の勝負では、どうにもアズライールに勝てるビジョンが浮かばず、不満を溜め息で押し留める。そして、ハルトは先に扉を出て待つ3人の元へと歩を進めた。
今回も読んでくれてありがとうございます。
今後ともご贔屓に。
【作者土下座】
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