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It's a Another World 【旧題:まさか魔王と異世界転移】  作者: 東雲なおき
第一章 勇者と魔王と伝説ジュエル
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12話 独立自由都市リテラル

更新再開します。

「ハルト、いい加減起きなさい。」


 あぁ、これは夢だ。


 ハルトを優しく起こすその声を発した人は、自分を残して何処か遠くへと行ってしまった。どんなに望んでも今はもう会うことが出来ない。その事が、ハルトに、これは夢だと確信させた。


「うーん。師匠、何だってこんな早くに。まだ空も暗いじゃないか。」


 夢の中の自分は、窓から見える空の時分を見てもごもごと口を動かしている。


「久しぶりの休みなのよ。寝ていたら勿体ないじゃない。それと、今は家に居るんだから、ちゃん姉さんと呼びなさい。」


 最初はにこにこと、最後は口をへの字に曲げながら軽くハルトの頭を小突いた。


「分かったよ、姉さん。はい、これでいいでしょ。それじゃおやすみなさい。」


 そう言うと、幼い自分は布団を頭に被り直し、再度の眠りを試みる。


「ハルト、ハルト。」


「…なに?」


「足りないと思うの。」


 ゆさゆさとハルトを揺さぶり、何やら不満を口にしている。


「…ララ姉さん。」


 仕方なそうに、恥ずかしそうに、布団の中から声がする。


「えいっ。」


 バサッと布団が捲られ、続いてぼふっと軽い振動がハルトのベッドを揺らす。


「何してんの? 師匠。」


「嬉しくてつい。あと、師匠じゃありません。姉さんです。」


 コロコロと楽しげな声がハルトの背中から聞こえる。


「それより、見て。ハルト。」


「綺麗ね。」


 そこにあったのは、夜から朝へと変わる暁の空。その光と闇のコントラストはとても美しかった。


 さらりと、ハルトの顔にララの癖のない柔なから髪がかかる。視界に入るその金髪は、僅かに差し込む陽の光を反射してキラキラと輝いていた。


「本当だ。」


 あぁ、こんな事もあったな。


 ハルトは、そう昔を懐かしむと、自分の意識が覚醒していくのを感じ、ゆっくりと目をあける。


 後ろを振り返るも、やはりというべきか、其処に姉の姿はなかった。


 淡いピンクの髪に内側にくるりと曲がる角を覗かせる少女が、むにゃむにゃと眠りについているだけ。


「って…。なんじゃこりゃ~!」


「なに! っ痛い!」


 突然聴こえてきたハルトの叫び声にアズライールは飛び起き、ついでゴスっと後頭部に衝撃を感じた。


「いったい何が?」


 何かにぶつけた頭を擦りながら、アズライールは周囲を確認しようと、首を回そうとした。しかし、ガシッと捕まれた手により阻まれる。


「おはよう、魔王。」


「おはよう、勇者。あんた鼻と口から血が出てるわよ。起き抜けに不潔ね。」


「てめぇの、せいだろうが~!」


 ハルトは、アズライールの頭を掴むその手に、力を込めた。鼻と口の恨みここで晴らさんと。


「いたたたたっ! ざっけんじゃないわよ、そこにあんたの頭があったのが悪いでしょう!」


 アズライールはハルトの耳を両手で掴み、思い切り左右に引っ張り出す。


「あたたたたたっ! 耳が千切れたらどうするんだ! 離しやがれ!」


「あんたこそ、可愛い私の頭はぐしゃっとなりそうよ! セクハラしてんじゃないわよ!」


「だぁれが、てめぇなんぞに、セクハラなんぞするかぁ! ロリペタ魔王!」


「はんっ! 私の溢れる魅力が分からないなんて、だからあんたはツルペタなのよ!」


「「殺す!」」


 ハルトはアイアンクローからヘッドロックに移行しようとし、アズライールはそれを掻い潜り爪を立て猫のように爪を立てる。


 ハルトとアズライールはここが何処のベッドの上なのか気にもせず、とりあえず目の前の仇敵に一泡吹かせる事にした。


 しかし、ドアを乱暴に開ける音と、聴こえてきた怒鳴り声により醜い争いは中断させられる。


「うっさいわよ! 他所様のホームで何してんのっ!」


 腰まで伸ばした真っ直ぐ生えた赤髪を揺らしながら、目を吊り上げ怒鳴り混んできた美しい女性。


 アズマリアは自分が入ってきた事にも気付かず喧嘩をしている2人に更に目を吊り上げると、怒声とともに拳を下ろす。


「いい加減に…しろ!!」


 スイカで頭を殴られたような音が2人の頭から鳴る。


「ぐぉぉ!」


「うぅぅ!」


 2人は煙を発している頭を抱えながら、ベッドの上をゴロゴロと仲良く転がる。


「なにしやが…って、こんどは魔人かよ!」


 隣にも魔王がいるが、そんなことは気にせず、ハルトはさっと身構えた。


「あらっ、本当ね。こほん、良くやったぞ我が同胞。何故予まで一緒くたに殴られたのかは分からぬが、この勇者をお主のその拳で叩き伏せることで贖罪としてやろう。さぁやるがよい。」


 アズライールは一度咳払いをすると、無い胸を張り、尊大に命令を下す。


「アズマリア、何か凄い音がしたけど、子供達は大丈夫なの?」


 言いながら、ひょっこりドアから現れたのは、ハルトとアズライールを助けたパーティーのリーダー、レンだ。


 彼は癖の強い濃紺な前髪の隙間から、優しげな瞳を心配そう覗かせながら部屋に入る。


「って人間じゃない!」


 てっきり、自分の配下に助けられたと思っていたアズライールはひょっこり現れた人族の青年に臨戦態勢を取る。


「大丈夫、粛清中よ。」


「あぁ、通りで。」


 レンはアズライールとハルトの頭に出来た少々大きいたん瘤を確認すると、やれやれと首を振った。


「まぁ、君達も落ち着いて。別にとって食べたりしないよ。」


 どうどうと、暴れ馬を落ち着かせるように、両手を目の前に出し上下させ、困ったように笑いながらレンは言った。


「うっさい優男! そこの魔人、なんで人間が魔人と一緒にいるの! それだけの馬鹿力がありながら、裏切ったんじゃないでしょうね?」


「お前もだぞ優男! お前、そこのゴリラ魔人の腕力に怯えて従属したんじゃないだろうな!」


 現在進行形で、並び立ちレンとアズマリアに対して敵意を向けてる自分達の状況を棚に上げ、2人は憤慨してみせる。


「優男…。」


「馬鹿力…。ゴリラ……。」


 ハルトとアズライールには敵と思われる相手に対するデリカシーなんて存在しない。敵ならば、どんな相手だろうが噛みつく。


 2人にはそうするだけの力があったし、そうでなければ、勇者と魔王と呼ばれる程の力を手に入れることはなかった。


 レンはハルトとアズライールの優男という言葉にショックを受け、頬をひくひくさせている。若干目尻をキラキラさせながら。


 一方アズマリアはというと、ぶつぶつと何かを呟いていはいるが、顔を俯かせてており、その表情をうかがい知ることは出来ない。


 いまだ情けないだの、恥を知れなどキーキーと騒ぎ立てていたハルトとアズライールだが、顔を上げたアズマリアを見て、すっと押し黙った。


「「お、鬼…。」」


「遺言はそれで良いかしら? それじゃ、逝きなさい。クソガキ共。」


 ゴンゴンゴンと、ジャックフルーツで頭を叩きわられた音が聞こえた。そして、ハルトは計3つの、アズライールは2つのたん瘤を頭にこさえることになった。


 2人仲良くアズマリアに粛清され、4人は一階のリビングへと腰掛けている。


「なんで、俺だけ一回多いんだ。解せぬ。」


「ムカつく顔してるからじゃないの?」


「止めなさいっての!」


 アズマリアの言葉に、体をビクッと震わせると借りてきた猫のように、2人は大人しくなった。


「…私魔王なのに。」


 アズライールが何やら呟いているが、ハルトは気持ちを切り替えて、先程から気になっていることを聞くことにした。


「ところで、俺達はどうしてここに? まぁ助けて貰ったんだろうことは理解してるけど。」


 自分達はゴブリンに追われていた。自分に至っては途中で意識を失っていたせいで、どういう経緯で自分達がここに居るのか全く分からない。


「それは、僕から説明するよ。」


 レンはそう言いながら、4人分の紅茶を入れたカップを乗せた盆を引っくり返さないよう、慎重に歩を進め近づいてくる。


 何とか溢さずに、テーブルまで辿り着くと、それぞれの前にカップを置き、話を始めた。


「時々パーティーを組んでいるパルが、ダンジョンの入口で倒れているの君達を見付けてね。流石にほっとけないって事で、勝手ながらホームで保護させて貰ったんだよ。」


 ちなみに、君を治療したのはそこのアズマリアだよ。そうレンは微笑みながらハルトに伝えた。


 なぜ、魔人が人間を?


 ハルトは疑問に感じたが、確かに怪我も見当たらないし、毒も完全に抜けている。先程の拳骨は相当効いたが、命を助けて貰ったことは確かなようだ。


「そうか、えーと…。」


「レンだよ。」


「レンさん、見ず知らずの俺を助けてくれた事に感謝を。俺の名前はハルト。先程は、失礼なことを言って申し訳なかった。」


 そう言うと、ハルトは素直に頭を下げた。流石に命を救ってくれた人達に対して礼節を尽くす節操はある。


 ついで、ハルトはアズマリアに視線を向ける。


「アズマリアさんも、魔人であるのにも関わらず、人間の俺を助けてくれてありがとう。あなたが居なければ俺はあそこで死んでいたかもしれない。」


 ハルトは魔人であるアズマリアにも丁寧に頭を下げた。それをアズライールは憎々しげに見ている。


「ふん、あんただけ善人振るんじゃないわよ。」


「こほん。レンよ、私の名はアズライール。人間の癖に魔王を助けるとは、中々酔狂な男だ。貴様は優男ではない。天下一の傾奇者を名乗る事を許そう。」


 なにそれ、ださい。


 ハルトはそう思ったが、許させたレンも中々に困った表情をしていて面白かったので黙っていることにした。


「魔人アズライール。此度は大変大義であった。そなたの働き、そしてその豪腕を評し、我が直属の配下となることを許そう。」


 この魔王はアホだな。俺達が知ってる魔人と人間の関係じゃないことは、2人の距離感を見れば察せられるだろうに。


「え? 嫌よ。」


「なっなぜ? とても名誉なことなのに。」


 あっさり、アズライールは断られていた。


 ほれ見たことか、とハルトは内心で舌を出していたが、話が進まなくなりそうなので、馬鹿にするのは次の機会にしようと我慢することにした。


「で、アズマリアさん。一つ聞きたいんだが、あんたは俺の名前に聞き覚えはあるか?」


「随分と自意識過剰ね。あるわけ無いでしょ。」


 やっぱり、とハルトは思った。


「そうか、じゃあ改めて名乗らせてもらうよ。俺の名前はハルト。勇者ハルトだ。あんたら魔人の…敵だ。」


「えっ?」


 ハルトの名乗りに、アズマリアは驚いたように目を見開いた。


 やはり俺が勇者だとは気付いてなかったようだ。それもそのはず、今の俺は子供の姿なはず。結び付かないのも仕方がない。そうハルトは申し訳なく思った。


「そして、私は魔王。魔王アズライールよ。人間を滅ぼし、世界の全てを手にする者よ!」


 張り合うようにアズライールも声高らかにいい放つ。


 今度はアズマリアだけでなく、黙ってきいていたレンでさえも、呆けたように此方を見ている。


 ふん。やはり分からなかっただけね。まぁ仕方ないわ。人前に出るときは大抵闇の衣を纏っていたしね。それに今の私って子供の姿だもの。


「レン、この子達は。」


「あぁ、アズマリア。これは僕達じゃ到底手に負えないよ。」


 見れば、レンとアズマリアの2人はあわあわと慌てている。それもそうだ。世界を賭けて争った頂点である勇者と魔王。それが揃って目の前にいるのだ。


「これは、恐怖のあまり精神がおかしくなってしまったのかも。」


「あぁ、なんてこと。私が強く叩きすぎたのかしら。こんな子供なのに可哀想に。私、精神治療は専門外で。」


「ん?」


「え?」


 あまりにも、予想と違う反応に、ハルトとアズライールは戸惑いの声を上げる。


「いや、ちょっと待ってくれ。確かにこんな姿だが、俺達は。」


「そうよ、私達は本当に魔王と勇者。断じて頭がおかしいわけではないのよ!」


「いや、君達はきっと恐怖に駆られて、自分達を強い存在と思い込んでるだけなんだ。」


「そんなことはっ!」


 言い返そうとしたハルトをレンが手を前にだしてそれを制した。


「付いてきて。」


「一体何を?」


「見た方が早いと思うから。」


 そう言うと、レンはアズマリアと共にリビングを抜け2階へと上がり、廊下の奥にあるテラスへと出る。


「君達は、魔人と人間が敵対していると、そう言ったね?」


「事実だろ。」


「理由は知らないけど、あなた達が特別なだけよ。私達は常に生存を賭けて争ってきたんだから。」


「これを見ても、それが言える?」


 悲しそうに目を伏せ、レンはハルトとアズライールをテラスへと招き、眼下に拡がる光景を見せた。


「なんだ、これ?」


「嘘よ、こんなの。」


 ハルトとアズライールはその光景を見て、愕然とした表情を見せる。


「ここは、独立自由都市リテラル。世界ユグドシアルにある数多の国々、種族が集う都市。君達には悪いけど、魔人と人間が敵対関係だなんて話、僕は聞いたことがない。」


 眼下に拡がるのは、都市の商店街の通り道。そこには、野菜を売ってる獣人がいて、それを買っているエルフがいて、酒を飲むドワーフが居た。


 そして、ハルトとアズライールの前には、アズマリアの肩に手を置き、此方を見詰めているレンの姿が、人間と魔人の姿があった。

今回も読んでくれてありがとうございます。

今後ともご贔屓に。


【作者土下座】

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