11話 脚長
GWにどっか行きたいけど、友達が少ない東雲です。今日も投稿できました。
よかったら読んで下さい。
意識を失った人間がこんなに重いとは。
アズライールは気を失ったハルトをほうぼうの体で洞窟まで担いでいく。
入口からは見えない位置までハルトを引き摺り運ぶと、アズライールもまた、倒れこむように座り込んだ。
「流石に疲れたわ。」
そう言うと額に浮かぶ汗をボロボロになったシャツで拭った。
しかし、まだここで止まるわけには行かない。何故ならまだ此処は洞窟の入口の近く。安全を確保する為にも、精神衛生的にも、もう少し奥まで進んだ方が良い。
アズライールは眉間に皺を寄せ、浅く呼吸している勇者を見る。
「仕方ないわね」
休憩もそこそこに、アズライールはハルトを背負い、洞窟のより深くを目指して歩き出す。足元は暗く、注意しなければ、何が起こるかは分からない。
アズライールは、壁に手を付きながら、一歩一歩確かめるように慎重に進んでいく。
どれほど進んだかは分からない。暗闇はアズライールから時間と距離の感覚を奪い去っていた。
「ひかり?」
そんなアズライールの視線の先に、ぼんやりと青緑色の光が見えた。
そろそろ、体力の限界が近付いている事を感じていたアズライールは、ゴブリン相手に暗闇で戦うのは避けたく、休めそうならそこで身を潜めようと考えた。
「…何なの? ここは?」
そこは、壁全体が青緑色に発光し、中を明るく照らす不思議な空間だった。そして何よりアズライールが分からなかったのは、その空間の奥にある開け放たれた巨大な門。
更に、人の出入りがある場所なのか、そこかしこに、人のものと思える足跡がその扉の奥へと続いていた。
追うべきか追わざるべきか、アズライールは少し悩んだが、ここに留まることを選択した。
それは、ここを通った者達に追い付けるかは賭けのようなものだし、ゴブリン以外にも魔物が存在する可能性だってある。
「これだけの人数が出入りする場所ならゴブリンも近づかないでしょうし。」
これこそが、アズライールがここに留まることを決めた一番の理由だ。
今のハルトやアズライールにとっては、ゴブリンは強力な相手だが、しかし、多くの者にとってゴブリンは刈る対象であり、少しでも自分に優位が認められないなら即座に逃げ出す臆病な種族でもあった。
「少し、寝ましょう…。」
そう言うと、アズライールはハルトの隣に腰を下ろし、壁を背にして瞳を閉じた。
日が出ている最中から、名も知れぬ土地を逃げ回ったアズライールは、疲労が貯まっていたのだろうスグに眠りに落ちる。
暫くすると、アズライールのくーくーという可愛らしい寝息が聞こえてくる。
仮眠のつもりであったが、深い眠りのなかに落ちたアズライールは、ずるすると壁をすり、ハルトと折り重なった。
アズライールが完全に眠りに落ちた時、扉より複数人の足跡と話し声が聴こえてきた。
「まったく、レンが欲張るからすっかり遅くなったじゃない。」
「いやぁ、ちょっとお金貯めたくてさ。申し訳ない。」
「稼ぐことは悪い事じゃないわい。ところで、帰ったら一杯どうだ?」
「はい、はーい。私行きたい。」
「僕も良ければご一緒したいなぁ。って皆さん方此方に!」
そういうと、明るい茶色の髪を持つ1人の小柄な青年が、壁際でひっそりと眠るハルトとアズライールを見付け駆け寄っていく。
「やっぱり、この子達怪我をしてる。」
彼の名は、パル。このパーティーの斥候役と補助者だ。
「それに、この男の子は呼吸が短いわ。ルルカ、悪いんだけどこの女の子、お願いね?」
「分かったよ、アズマリア。てわけで、手伝ってよね、ダルトン。」
「おう。」
そう言うと、1人の犬耳を頭から生やした快活そうな獣人の乙女が、ドワーフの男に声を掛け、ハルトに被さるように寝ているアズライールを優しく持ち上げ横に寝かした。
「こっちの女の子は、目立った外傷はないよ。昏睡のような深い眠り、多分魔力切れだね。」
「男の子の方は、多分毒ね。傷口の回りが赤く腫れ上がってるわ。レン、神聖魔術この子に使っても良い?」
「もちろん。ダンジョンは自己責任が基本だけど、この子達はまだ子供だ。しっかり治してあげてよ。」
リーダーであるレンの許可が出たところで、ハルトに詠唱を始めた。
「神聖魔術 ベガの涙」
ハルトの傷口に、キラキラ光る一滴が空から落ちる。その滴は滲み込むようにハルトに吸収され、浅い呼吸も落ち着き始めている。
それを見て、大丈夫そうだと判断しわこの眠りから目を覚ましそうにない二人をどうするか相談を始める。
「この子達、新人かな? 随分無茶をしたみたいだけど。」
「荒い傷口に、毒。やったのは多分ゴブリンね。」
「なるほど、通りで。」
そういうと、レンはアズライールのビリビリと引き裂かれたシャツの裾を見た。
「てことは、外は少し危険かも知れないですね。一応帰還石の準備をしてた方が良さそうかも。」
そう言うと、パルは背負ってた鞄をごそごそとまさぐると、1つの魔石を取り出した。
「それ、結構高いんだけど仕方ないか。雌を追ってるゴブリンは、ドラゴンでさえ逃げ出すって言われる程だし。」
はぁ、と溜め息をつき、レンはいざとなったら
使うようパルに指示をだした。
「アズマリアは、皆に夜目の魔法をお願いね。ルルカとダルトンは、2人を宜しく。」
「了解だよ。リーダー。」
「酒を飲むのが遅くなりそうだわい。」
ルルカは体の調子を確かめるように、屈伸をはじめ、ダルトンは背負った片手斧を持つと、点検を始めた。
「それじゃ、行こうか。」
レンはそう言うと、先頭に立ち歩き始める。
すぐ後ろにはアズマリアが控え、少し距離を置いてパル。その後ろにハルトとアズライールを背負ったダルトンとルルカが続く。
程なくして、洞窟の出口まで来た一行にレンが止まるよう指示を出した。
「どうかな?」
レンは出来る限り声を控えてパルに話し掛けた。
「ちょっと待ってください。…居ますね、間違いなく。それもかなりの数ですよ。」
パルは地面にあてていた耳を離し、レンにそう報告した。
「出口の前でお出迎えとは、この子も随分と気に入られたものだね。」
「方針は?」
アズマリアがレンに尋ねる。
「逃げの一手。パルは閃光玉を、目を閉じるのを忘れないで。アズマリアは、洞窟を出たら散弾系統の魔法を使って。カウントいくよ。3、2、1、今!」
パルがその掛け声と同時に出口に向かって閃光玉を放り投げる。暗闇に眩しい光が破裂する。
外からゴブリンの叫び声が聞こえると、一行は猛然と走り出す。
「アズマリア!」
「風氷魔法 追尾する氷弾」
アズマリアはレンの声に素早く反応し、前方にいる、手で目を覆っていないゴブリンを把握すると、魔法を展開した。
ごっと硬い物が当たる音が響くと、被弾したゴブリンから悲鳴が聞こえた。
「突き抜けるよ!」
「了解!」
一行は、結果を確認することもなく、脇目も振らず駆け、ゴブリンの包囲網をあっという間に抜けていく。
「前方、居ます!」
油断なく周囲の索敵に専念していた、パルは進行方向に木の影に隠れ、此方を見ていた赤い瞳を捉え、レンに居場所を教える為、しゅっと手投げナイフを飛ばす。
「剣技 スラッシュ!」
レンより放たれたのは極大の一閃。それは、ゴブリンが居たと思われる木を周囲を巻き込み斬り倒す。
「ごあぁっ!」
一際大きな声が聞こえると、倒れゆく木の下を潜り抜け、此方に接近してくるゴブリンの姿があった。
「脚長!」
レンは通常よりも長い手足を持つゴブリンをそう呼んで迎えうつ。
レンが脚長と読んだゴブリンは瞬く間に接近すると、腕をしならせ頭上より棍棒を振り落とした。
「流石に、重い!」
レンは受け止めるが、その重い一撃に腕がビリビリと痺れた。
「おらぁ!」
「はっ!」
ダルトンとルルカがレンの背から左右へと躍り出て、斧と拳の一撃を脚長に放つ。
ダルトンの斧はかわされたが、ルルカの拳はゴブリンの左腕を掠めた。
「ぐぎゃあぁあぁ!」
掠めただけだというのに、脚長は耳を貫く程の大声で悲鳴を上げた。
「あいつ、腕が折れてる。」
見てみると、片腕があり得ない方向に曲がり、一目で折れておる事が分かった。
脚長は痛みで騒ぎながらも、目だけは此方を捉えてはなさい。その目が見ている先はルルカ。いや、恐らくルルカが背負う少女だ。
何ていう執着。
勝てないとは思わない。しかし、狂喜を孕んだその目は、レンに帰還石を使わせた。
「パル! 使って!」
「はい!」
脚長は、パルが持つ石を視界に捉えるとさせるものかと猛然と此方に迫りくる。
脚長はそれが何なのか知っていた。それはあと少しで捕まえられると思った獲物達に、石を使って逃げられた経験が何度もあるからだ。
故に、脚長は長い腕を活かし、棍棒を石を持つ男に向かって思い切り投げつけた。
「パル!」
帰還石を使おうと、準備に入っていたパルにその投擲は避けられない。あわや、その棍棒を額に受ける寸前、パルの顔すれすれを透明な拳が掠め、ゴブリンの棍棒を打ち落とした。
「ぷるー!」
「今だ!」
「解放」
パルは、手に魔力を込めると、帰還石に込められた魔術を使用するための言葉を口した。
帰還石から発せられた複雑な呪文が、半円を形成し、レン一行を覆い包むと、パルは魔術を起動させる。
「起動」
そして、レン一行は脚長の前より一瞬で消えた。
「ご、ごぶ、ごきゃあがぁ!」
獲物を失い、悲嘆にくれるゴブリンの鳴き声が夜の帳を揺らす。その目は、アズライールが消え去った場所を女々しく猛々しく狂々と見詰めていた。
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【作者土下座】
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