【八十八階層】動画配信サイトのゴールド探索者
風前の灯火みたいな投稿ペース……
光太郎に奨められた動画配信を見る。
『どうもこんにちは、Ａランク探索者の大雄山です。この動画配信では、探索者都市伝説の検証、独自の探索者理論を考え配信していく予定です。ですが私視点で重大な情報はメンバー登録された方が見れる情報なのでよろしくお願いします。 今回は【探索者はなぜダンジョンの外では弱いのか】を語ります』
タイミングよく十数秒の広告動画が流れる。
「実はさ、俺も前から知っていたんだけど、その時は興味がなくてさ、だけど例のランク判定が出来るようになってから興味が湧いたんだ。だって金のカードのＡランクだぜ？ テレビの中継も好評だったから、急遽第二回もやるって話だし……。 おっ、始まる」
光太郎が凄いって言うからには、コレじゃなくメンバー登録で見れる方だよな。
画面下側のテロップには【これは大雄山とその仲間の個人的な感想であり、事実と異なる場合があるので、危険を伴う真似はしないで下さい。あと大雄山は本名ではありませんｗｗｗ】
大雄山がふざけ半分で検証していた。
結果は攻撃行動が弱くなるだけで、他は探索者の能力を維持したままって話だった。
最後の方に流れた動画は竹刀をもった４人の大人が、大雄山に向かって叩きまくって、２つのフライパンを持った大雄山が器用に防いでいた映像だった。
【このフル動画を見たい方はメンバー登録お願いします】
とのテロップが流れていた。
「なっ興味あるだろ？」
確かに……動画じゃ判らんけど俺より強そうだったな。
「と、言うことで月額五千円のメンバーになったから、気になるやつ見ようぜ」
値段高すぎるだろ、でも鰻より安いか。
大陸産がなくなってから、鰻重は一万円が相場だからな。
メンバーが見れる動画は２０もなかったが、古いのと、最近のやつで気になる動画があった。
【寄生は寄生ではない！ 需要と供給だ！！】
【初期ブーストと後期ブーストとラックブースト】
「なあ、光太。この２つのは絶対見たい！ 今すぐ見たい！」
「弥、俺もブーストは興味ある。今の俺ってきっと後期ブーストだよな。俺の秘密が明らかになる時がキター！！」
後期ブーストだよな。俺の秘密が明らかになる時がキター！！」
「テロップに鵜呑みにするなって書いてあんぞ光太」
『こんにちは、検証系探索者の大雄山です！ 今回は寄生探索者をディスる書き込みを見たことに対して、物申す動画です。私個人としては寄生は寄生じゃないと力強く訴えたい！ 私は探索者になって半年近く固定メンバーを持っていませんでした。そして今は４人の固定メンバーと６人の補助メンバーがいます。４人の固定メンバーは探索者になる前からの知り合いで、命の危険を伴うことなく僕が育てました。ここでこの４人は寄生メンバーと呼ばれるかも知れませんが、この４人を仲間にしたことで、停滞していた階層を突破することになりました。なんと４人中２人が回復スキルを持っていたのです！ 他に条件のいいパーティーを探せばあるはずなのに、私の固定メンバーとなって大活躍中でございます』
テロップには【この御二方には、ちゃんといい報酬を上げていますwww】となっていた。
『では、証拠に彼女たちを紹介します。塚原さんと岩原です』
きつねのお面を被った２人がペコリと会釈して、下のテロップから本名じゃないのが分かった。
『この御二方抜きでは、ダンジョン探索が怖くてできないほどの活躍をみせてくれてます』
彼女たちが握力計を握った。
映し出された数値は800kgを超える驚愕する数値だった。
『次に、探索者は一定のレベルまで上がると必ず停滞します。その停滞した探索者が新人の探索者を育てる仕事もあるんです。なので世間的に言われいる【寄生】は寄生ではなく、金の卵を発掘したり、新たな仕事を発生させる探索者として素晴らしいことのひとつだと私は言いたいのです！ 私のグループでも１日１０万円から１人前になるまで育成をしています』
テロップには５日で１人前の探索者に仕上げますって流れていた。
５０万で１人前の探索者か……
金持ちならありなのか？
「前にも言ったと思うけど、１人前とはスキルを使えるようになって、初めて１人前と呼ぶからな」
今の俺たちにはもう関係ない話だけど、ふたりの握力計の数値が事実なら凄いことだよな。
上には上がいるって思い知らされた気分だ。
２つめの動画を観る。
『こんにちは。Ａランク探索者の大雄山です。先日探索者ランク判定試験をしたので、これからはこの挨拶で行こうと思います。今回は世間で噂の初期ブーストを大雄山独自の見解で配信します』
大雄山の右側に猫のお面を被ったふたりが出てきた。
「光太、もしかして固定メンバーの残りの２人かな？」
「俺もそう思った」
『この２人は穴部君と足柄くんで、探索者になる前からの知り合いです。彼らが探索者になった瞬間、事件は起きたのです！ なんと、あれだけ苦労して倒したＧモールを武器なしで圧倒したのです』
それ、ものすごく思い当たるんだが。
『そして、その日のうちに地下３階まで行き、１人前の探索者となったのです。これが俗に言う【初期ブースト】と言われる現象なのでしょう。私の独自の見解から初期ブーストは金銭的に不自由な人ほど初期ブーストになりやすいと思います』
ブー！ それは外れだ。
俺は金銭的に困ったことがないし、むしろ同年代では稼いでいた方だぞ。
ひかるも裕福な人が親になってくれたしな。
『理由のひとつとして、この２人は双子で両親は不在、私と同じ施設出身なのでこの答えにたどり着きました』
親がいない？
共通点があった……
そういえばフロー、フェイも捨て猫で俺が育てたんだ。肉親に育てられていない事がキーワードなのか？
『これにより、お金がある者は財力でベテラン探索者を雇い成長する。ない者は初期ブーストで成長するバランスが取れた仕組みだと思いました』
『しかし、この反則と思われる能力にも弱点がありました。穴部君、足柄君より１か月遅れて参加した、塚原さんと岩原さんに握力測定で追いつかれ抜かれていったのです』
「わかる。俺、ひかるちゃんにあっさりと追いつかれたから」
『これが私が勝手に提唱している【後期ブースト】です』
「勝手にかよ！？ 聞いたことないわけだぁ」
あの光太郎を呆れさすとは大雄山……只者じゃないな。
『実は、コネとお金があれば、自分の力を知る手段があるのです。それで彼女たちは【治癒士】ということが判明しました。僕は【剣士】ですね。そして穴部君、足柄君は【無職】でした。後期ブーストの正体は職業なんです。どんなにスタートを有利に進めても、いずれ無職ではステータスは抜かされてしまいます』
その説は信じられるぞ。
俺、転職できて良かった！
『最後に、無職の穴部君と足柄君ですが固定メンバーから外す事はないでしょう。彼らにはまだまだ隠された成長の余地があるからです。まぁ成長しなくてもやる気があれば、ずっと同じパーティーですけど。探索者でもう一つ大事なのはスキルです。 これが良ければ職業の不利をないものと出来るからです。私の知ってるだけで、魔法スキル、回復スキルは物凄く貴重です。さらに身体強化や防御スキルも有用なので持っている探索者はラッキーですよ。なので、ラッキーブーストと呼びました。実はもっと良い名前が浮かんでいるのですが、それは次回の配信でお伝えします。どうもご視聴ありがとうございました』
「結局、光太の急成長は分からんかったな」
「…………」
「どうした光太？」
「……俺の限界突破は有用じゃないのかぁ！！」
叫ぶポイントじゃないだろ……
でも、俺たちもランク判定をやろうかなって思ってきたな。
「よし、光太。来月の頭に俺たちもランク判定をしにいこう」
「弥がやる気になってる！？ 興味ないふりしてたのか？」
初めて聞いたときの話だよそれは。
「でも、来月ってあと１週間もないけど予約とれるのか？」
「わからん。でも翠ちゃんとひかるにも聞いてみないとな」
「ああ、やるなら全員だな。今から弥の自宅ダンジョンで修行だ！」
だが、約束の２日前に大きなイベントと遭遇した。
それはダンジョン探索中の出来事だった。
『転職可能なレベルに達しました。【上級戦士】に転職できます。転職しますか？ 【yes】【no】』
と……
ステータス
ネーム……六角橋 弥
レベル……４０
ジョブ……軽戦士
ヒットポイント……１２８４
ストレングス……２３２
デクスタリティ……２7２
マジックポイント……３０４
スキル……回復魔法４、火魔法４、速度上昇４、索敵３
パッシブスキル……早熟、アイテム鑑定、消費MP半減、転職
コレクション……孤児補正、双子補正、四兄弟補正、第一迷宮制覇補正
