【八十二階層】ひかるの保護者
思ったより家の用事で時間を取られた。
ざっくり話すと、ダンジョンでトレントを乱獲出来るって世間話したのが切っ掛けだった。
新居はオールトレントの木材を使うことに変更し、浮いた材料費は追加した職人の施工費に充てられ、急ピッチに建築作業が進む。
お礼に『完成式をモンスター肉(上)で、やりましょう、肉ならいくらでもありますよ』と言ったら、職人達がパワーアップした。
不動産屋さんと業者さんの底力をなめていたよ。
■□■□■□■□■□■□
ウノのダンジョンを攻略してから、半月ほど経過したある日。
俺たちはひかるちゃんの家の前にいた。
もちろん招待されたからだ。
郊外とはいえ、あまりのでかい家に驚くばかりだ。
ただ、表札には『五百羅漢』と書かれていたのが気になった。
ひかるちゃんとお手伝いさんと思われる2人に案内されて、長い廊下を歩く。
お手伝いさんが、ある部屋の前で立ち止まる。
「旦那様、お客様をお連れ致しました」
「うむ、通しなさい……」
スライド式の扉を開けると、小さな道場と和室を合わせたような部屋があり、貫禄のある高齢の男性が立っていた。
「みなさん、よく来てくれた。とりあえず座って下さい」
丁寧な言葉使いで迎えられたが、不思議な圧を感じる。
光太郎も緊張しているようだ。
手土産を光太郎が代表して、ひかるちゃんの親に渡す。
「ありがとう。飲み物は何にするか? 茶は良い物じゃが、コーヒーと紅茶はインスタントになるぞ」
「お父さん、わたしはお茶ね」
ひかるちゃんに倣ってみんなお茶にした。
「あっ、美味い……」
俺でも判るくらい美味しいお茶をい頂きながら、会話が始まる。
「呼びつけてすまんな、ひかるはもう成人して、しかも探索者となっているのだが、大事な娘なのじゃダンジョンに何日も泊まるという事なので、顔だけでも見ておきたいと、ひかるには我が儘を言ってしまった。過保護ですまんの。儂がひかるの父である五百羅漢政宗じゃ」
丁寧な言葉なのに、圧を感じる。
これが威厳というものなのか。
光太郎もブルってるくらい圧を感じてるようだが、翠ちゃんは普通にしてる。
まさかこの圧は人を選んでかけられるのか?
「お父さん」
ひかるちゃんが注意をするような口調で呼ぶ。
すると政宗さんは人差し指で自分のこめかみを掻きながら、
「おお、すまんすまん。少し早いがリビングで軽食を用意しよう。ひかる、友達をつれてリビングでくつろいでいなさい。弥君と光太郎君はここでもう少し話がある」
「ひぅっ」
光太郎が変な声をあげた。
こちらを気にしながら、いなくなっていく翠ちゃんとひかるちゃん。
すると、政宗さんから圧が急に消えた。
「先ずは光太郎君、ひかるの目を治してくれて、本当にありがとう」
深々と頭を下げる政宗さん。
今までの圧力はなんだったのだろう。
更には、ひかるちゃんのトラウマ解消にも丁寧なお礼を言ってくれた。
「ひかるも良い交際相手とめぐりあえたの」
どうやら、政宗さんのなかでは2人は付き合っている認識らしい。
嬉しそうに慌てる光太郎。
「して弥君、ご両親の六角橋夫妻のことは残念じゃったな」
「えっ、父さんと母さんを知ってるんですか?」
驚いた。
「一度挨拶をしただけなのだが、良い人達じゃったな。続きの話はみんなのところでしようか」
政宗さんは立ち上がり、板の間奥に行き刀を取り出した。
そして鞘を抜き振りかぶる。
ピッッ!
初めて聞いた風切音だった。
想像では『ヴォン』『ブンッ』とかだと思っていたからな。
政宗さんは、別の刀を持ち出して、
「素振りしてみないか?」
と言ってきた。
俺と光太郎は言われるがままに素振りをする。
ビュウッ! シャーン!
俺と光太郎では鳴る音が違ってた。
因みに俺が『ビュウッ』で光太郎が『シャーン』だった。
「うむ、樋があるとはいえ、光太郎君は筋が良いな。そして弥君は正しく振れていないのは音で判ったが、儂の目で追いきれないとは凄いの」
政宗さんに指導してもらい、十数分程で爽快な風切音を出すことが出来た。
「うむ、この型ならば申し分ないな、流石はひかるが選んだだけはあるな」
「そ、そうですか? へへへ……」
照れ歓びする光太郎。
「身体を軽く動かしたし、食事にしようか」
なんか、面接っぽいのを予想していたんだけどな。
翠ちゃんひかるちゃんと合流して、ダンジョン関係の雑談に花を咲かせた。
すると突然政宗さんが、真顔になった。
なんかやっちゃった?
「最後に大事な話がある。先程も言ったが、ひかるの心身を救ってくれて本当にありがとう。それでな実はひかるから相談事をうけてな、ひかると弥君に届いた手紙を調べてたんじゃが」
「えっ!?」
ひかるちゃん、そんな事をたのんでいたのか?
しかも、そんな無茶を調べられる力が政宗さんにはあるのか?
「結果は不明じゃった。アメリカ軍部にたどり着くかと予想したがハズレじゃったわ」
「お父さん、それなら」
「わかった事実は、一般人じゃない一般人じゃな。監視対象である向こうの探索者なら儂でも伝手があるのだが、無関係のようだ。お前たちの肉親の手がかりかと思って気合いを入れたが空振りじゃったわ」
えっ、政宗さんの言葉の意味が解らない。
「お父さん!? やっぱり!」
「ひかる、お前の話を受けてからそれはすぐに分かったんだが、今日まで温めておいた。弥君、光太郎君、翠さん。もう解っているとは思うが、ひかるは養女だ、しかも戸籍も分かれている。ひかるはあのニューヨークの大事故の数少ない生存者だったんだ。あの頃は大変でな……千歳(Titose)と千歳(Senzai)の共通点に気づいた時は、ひかるを引き取ってから半年以上経っていたわ」
そうか、そういうことか!
父さんと母さんが大好きで、忘れてもいいと思っていた俺の旧姓、子供のころ一度だけ耳にしたあの名字。
『せんざい』……今かん考えると『千歳』と書ける。
「事故のドタバタとずさんな引き継ぎで『ちとせ』と『せんざい』になっていたから2人まとめて引き取ることが出来なかった…………。翠さん、ひかるの友達として。光太郎君、ひかるの交際相手として。弥君、ひかるの兄として、これからも気軽に遊びにきなさい」
■□■□■□■□■□■□
政宗邸を後にして、みんなで最寄りの駅まで歩く。
「最悪、圧迫面接を覚悟してたから拍子抜けしたな」
それな。
「しかし、光太いつの間にひかるちゃんと付き合ってたの?」
ひかるのちゃんは少し照れている様だけど、光太郎は違った。
「それなんだか、軽いアタックは何度もしてたんだけど『マテ』としか回答がなかったんですが?」
光太郎は?マークを頭に浮かべている。
「もう、じっくり考える時間があってもいいですよね、みどりさん?」
「えっ!? 私に振る?」
「順序がおかしな事になったけど、いいですよ光太郎さん。二言三言、文句を言うかと思ったお父さんも何故か大絶賛だし」
「やった、やったぁ!! 一関光太郎、春来たる!!!」
飛び跳ねて喜ぶ光太郎、そのジャンブは高すぎて目立つから早く止めてね。
光太郎が落ち着いてから、ひかるちゃんに疑問を投げかける。
「いやぁ、実はひかるちゃんは弥に気があるのかと思ってたんだけど、兄妹だって知ってたんだ。いつから?」
少しの間を置いて、ひかるちゃんが口を開く。
「ん〜〜、実は光太郎さんよりも、お…弥さんの方が好きだったんですが、他の人と違って『男性』を感じなかったんです。感覚的にお父さんを友達に変えたような……でお父さんは色々と出来る人なので、同じ手紙が届いた事を含めて聞いてみたんです。でもお父さんに答えをもらう前に、そうかなって確信はしてました」
「そうか、ちょっと複雑だけど結果オーライ!」
「ふふふ、なので今日から2人のことを『光太さん』と『兄さん』と呼んじゃいますね」
うん、むず痒いけどキャラが被らないからいいと思う。
それにしても妹とか…………ん?
「でも光太さん、わたしを彼女にするなら覚悟して下さいね? 義兄さんって呼ぶんですよ?」
チロッと舌を出して、ニヤケ顔をするひかるちゃん。
「ぐはぁぁぁぁぁぁぁ!? 恐ろしい障害があったぁ!!」
悶え暴れる光太郎に、
「絶対に『兄』なんて呼ぶなよ」
と念を押しながら家に帰った。
ステータス
ネーム……フロー
レベル……35
ジョブ……ネコ
ヒットポイント……736
ストレングス……91
デクスタリティ……298
マジックポイント……182
スキル……魔法防御3
パッシブスキル……悪食、成長補正2倍、ドロップ確率2倍
コレクション……孤児補正、五つ子補正、五兄弟補正、ネコ補正、第一迷宮制覇補正
ネーム……フェイ
レベル……35
ジョブ……ネコ
ヒットポイント……736
ストレングス……91
デクスタリティ……298
マジックポイント……182
スキル……物理防御3
パッシブスキル……悪食、成長補正2倍、モンスター遭遇率2倍
コレクション……孤児補正、五つ子補正、五兄弟補正、ネコ補正、第一迷宮制覇補正