【七十九階層】書庫の間
『ようこそ【悠久の迷宮】1界層を攻略した者よ。ここは初めて界層を攻略した者に開かれる【選択の間】だよ。君はここの扉を開けて【書庫の間】に入るんだ』
悠久の迷宮? 選択の間? 書庫の間? 何を言っているんだ!?
『言いたい事や聞きたいこと、色々あるだろうけど、ここは様々な質問や疑問に答える事ができる場所なんだ。だからここでのボクは君の思考を読むことが出来ない』
ここじゃなければ俺の考えてることを解かるみたいな言い方だな。
『さあ、時間と質問の答えは限られているんだ、書庫の間に入ろう。 さあ着いた、何が聞きたい?』
書庫の間と言っておきながら、このスペースには本棚が1つしかない。
これがあの手紙にあった『ダンジョン攻略せよ』との理由なのか?
「この部屋にはどうすると来られるんだ?」
人ではない何かが棚の本を取る。
そして、ただ青いだけの本を開く。
『君の理解できる範囲で説明すると、各界層のダンジョンを初めて攻略したときに知識欲の深さが一番深いと、この【書庫の間】に入れる』
各界層ってことは、もう一度別の界層を攻略すればまた入れるのか。
「他にはどんな部屋があるんですか?」
先と同じく青い本を取り出し、開いてから読む。
『ここ以外には【再強化の間】【覚醒の間】【収穫の間】そして最もレアな【渇望の間】がある』
覚醒の間の方が貴重な気がするんだけどな。
「渇望の間に行くにはどうすればいい?」
すると、取り出した本は黄色になっていた。
『この情報は機密度が高いよ。あと2回聞いたら終わりになるよ。【渇望の間】に入るには、他の4つの間に入る条件を満たさなかった場合に入る事が出来るよ』
全く役に立たない情報だ。
他の部屋に入る条件を聞いている場合じゃなさそうだ。
質問の種類を変えよう。
「俺は転職のスキルを持っていて、一度転職したんだけど、もう一度転職って出来るんですか?」
取り出した本は青色に戻っていた。
『可能だよ』
「もっと詳しく教えてくれないか?」
何かが同じ本を読み続ける。
『六角橋弥はあと5レベルで転職の条件を満たすよ。職業は【上級戦士】だよ』
よし!! さらに転職のできる道はあった。
しかも聞いたこともない職業だった。
「上級戦士の特別な能力とかありますか? 上級戦士からの転職は可能ですか?」
後で気づいたけど、ここらへんから敬語に変わっていった気がする。
『戦士と軽戦士の長所を兼ね備え、さらにスキルの使用限界値も他の職業に比べて高めとなっているよ。上級戦士への転職後、1レベルから再スタートして80レベルになると、上級職の扉が開かれるよ』
よし、俺はまだ2つも変身を残してる!
「その上級職はどんなのかわかっていますか?」
『六角橋弥の場合は、高い確率で【英雄】になれるよ。【英雄】は地球だけでなく、他の世界を含めてもめったに出現しない希少な職業なんだよ』
えっ、いま『地球』とか言わなかったか?
このダンジョンは地球……いやこの世界以外にもあるってことか。
地球以外にもあるか聞きたいけど、あるのは間違いない。
もっと別の質問をしよう。
「仲間の一人が急激にレベルアップしているんだけど、理由は分かりますか?」
『レベルに見合わないモンスターを倒せば、レベルアップは早くなる』
んー、分かったような、分からなかったような……
「何か分かりやすい例えとかで説明できますか?」
『レベル30の探索者が、1つレベルを上げる経験値の量はレベル15の探索者がレベルを10上げる経験値の量とほぼ等しい』
なっ、そんなになのか!? このダンジョンの仕組みっておかしくないか?
戦っていなくても、同じくパーティに居るだけでガンガンレベルが上がるってことだよな?
「同じパーティに居るだけで、同じ経験値を取得できるのですか?」
『違うよ。6人以内のパーティならば、討伐者に+10%の追加経験値が、7人以上のパーティなら討伐者に+200%の追加経験値が得られる。ただし他の探索者は得られる経験値が本来の5%にとどまる』
「目茶苦茶だよ!? どんなルールなのさ!」
一瞬でツッコミを入れるほどの不思議な経験値割合だった。
『これはダンジョンの創造主が決めたことだからね、こればかりは答えられないんだよ』
ダンジョンの創造主? やっぱりダンジョンは自然現象でなく、人意的に造られたのか。
俺は気になったことを質問する。
「このダンジョンはどんな目的で造られたんですか?」
すると黄色の本を取り出し、開いた。
かなり重要なことなのだろう。
『創造主が、200年以内に知的生命体が98%死滅すると予想した世界にダンジョンを生成し、世界の活性化を目的として造られたのだよ』
ダンジョン産の資源が食糧や魔石を始めとした都合の良いものばかりだというのが納得できた。
ただ、これを聞いてどうしても安心感より危機感を覚えてしまう。
「この世界……以外にもダンジョンがあるってことで聞きます。他の世界ではどの程度ダンジョンと共存してるのか、聞きたいです」
すると、何かが笑ったような気がした。
そして、赤い本を取り出した。
これが最後の質問だと理解した。
『とある世界では、モンスターの度重なるスタンピードに耐えかね滅んだ世界もあるよ。また食糧難を乗り越え半永続的に食糧をダンジョンから供給し刺激と安寧を得た世界もあるよ。国や人種で争った世界は、手を取り合うことでダンジョンモンスターに対抗出来うる技術を開発し1つとなってダンジョンと戦い続けている世界もあるよ。ただ、ダンジョンが生成されて、100年以内には半分を少し超える世界が完全なる滅びを迎えているよ』
やばい! やっぱりダンジョンはとんでもなく危険だ。
『これで質問の答えは終わりになるよ。覚醒の間と同様にここでの記憶は全て失われる。せっかくの情報だけど君は覚えていられないよ。まあ、知識欲を満たした満足感だけは残っているかもね。 では第二界層を制覇したときに、また会おう』
俺はここでのことを覚えていられないのか……
満足感なんてあるわけねーだろ!!
俺は意識を失った。
■□■□■□■□■□■□
『はははっ、凄い、凄いよ!? すごいsugoiスゴイ!! 一界層からこの答えに辿り着いたどころか、抜け道すら見つけただなんて、僕の担当では一人もいないよ!? あの人間、文字通り爪跡を残したよ! ああ、期待しちゃうなぁ。死なないで次の界層も制覇して欲しいなぁ、また会いたいなぁ。よし! 他の僕に自慢しよう! はははっ』
ステータス
ネーム……六角橋 弥
レベル……35
ジョブ……軽戦士
ヒットポイント……1084
ストレングス……207
デクスタリティ……242
マジックポイント……274
スキル……回復魔法3、火魔法3、速度上昇3、索敵3
パッシブスキル……早熟、アイテム鑑定、消費MP半減、転職
コレクション……孤児補正、双子補正、四兄弟補正、第一迷宮制覇補正