【七十七階層】第一ダンジョン攻略⑧
俺はトレント相手に、トレント限定の裏技を使った。
「トレントってさ、自分の攻撃範囲に入らないと初撃を出さないんだ。 だから広い洞窟タイプのダンジョンなら『そろ〜』て進めば襲われないかなって」
俺はみんなに説明する。
「いやいやいやいや、その発想おかしいだろ!? もし違ったらどうするのさ?」
「もちろん走って逃げるさ。だって俺んちにいるトレントなんか一般人の歩行速度より気持ち遅いよ」
「わたるさん、もしかして測ったんですか?」
「1分間で約60mだよ、ひかるちゃん」
「不動産屋計算でヒールを履いた女性より遅いですね」
「なにそれ? その人、地味に凄くない?」
「扉の前には多数のヒュージトレントがいるかもしれないのに、緊張感が足りないぞ」
「弥のせいだろ!!」
「わたるさんのせいです」
「弥さんが原因ですっ」
なんかひどくないか?
■□■□■□■□■□■□
気を取りなおして、作戦を伝える。
「トレントは火魔法に弱いから、俺がLV2とLV3の火弾を連発する。ダメージを受けたトレントはフローとフェイに任せる」
「にゃん」
「ニャッ」
「光太郎たちは、安全圏で走って逃げ回る。なるべくギリギリ安全圏で頼むな。作戦は以上だ」
「弥の作戦は異常だ」
「でも弥さん、楽しそうです」
「わたしたちは、トレントの間合いを把握したら、がんばって走りましょう」
この部屋にいたヒュージトレントは6体。
初撃は遠距離からの火弾LV2。
攻撃が着弾すると、手前の3体が俺を目指して動き出す。
モンスターが半分しか動かなかった理由は分からないけど、俺たちが有利になるだけだ。
遅い……一般男性の強歩程度の速度しかない。
光太郎、翠ちゃん、ひかるちゃんは俺たちから離れて逃げる準備をする。
「火弾LV2!」
しかし魔法は発動しなかった。
クールタイム内だったらしい。
「火弾LV2」
今度はちゃんと発動した。
せっかく3体しか動かないのだから、1人1体ずつ相手をする。
「火弾LV3!」
今度は余裕を持って、20秒近く待ってから魔法スキルを使う。
LV3の魔法攻撃になると、余裕でヒュージトレントを消滅させて、余波でフロー担当のトレントまで倒してしまった。
「フシャァァ!」
ごめんよフロー。
ここで、残りの3体が動き出した。
どちらかといえば、近距離にいる光太郎たちに向かっていった。
ほとんどのモンスターは距離の近い者に向かって移動する習性があるから、楽に誘導できる。
しかし微妙な差は感知しないと思われ、俺、フロー、フェイの場合、俺に向かって襲ってくる場合が多かった。
上手く光太郎たちがトレントを引き付けてくれる。
お陰で、もう一度LV3の攻撃魔法を使う時間が稼げた。
「火弾LV3!」
鈍いトレント相手に導線を重ねるように移動するのは簡単なことだった。
1体目を消滅させて、勢いの残ってる火弾は2体目を焼き焦がす。
今度は倒すことが出来なかったけど、ごっそり葉は抜け落ちていた。
だけど、トレントの回復機能が発動する。
くっ面倒くさい。
「おらぁ、木偶坊! こっちだこっちだっ」
光太郎の挑発が面白い、声掛けは関係ないはずだけど光太郎の方にトレントが移動する。
結果、次の攻撃魔法一発で2体まとめて始末した。
もちろん、フロー、フェイの2人がかりの戦いは楽勝で終わっていた。
「思ったより楽に倒せたな」
一対一の戦いであんなに苦労したのにな。
「ヒュージトレントが鈍いとか、火魔法が弱点とか色々あるけど、弥のMPが異常だからなし得る出来事だからな!」
「そうです、事前にマジックポーションで回復していたとはいえ、16ポイントも使ってます」
翠ちゃん、光太郎は、スキルや魔法をポイント換算して自分自身を把握している。
レベル1のスキルの消費量を『1』とすると、LV2は『2』LV3は『4』となるらしい。
で、翠ちゃんは『7』で光太郎が『6』ひかるちゃんが『4』フロー、フェイが『9』って計算したみたいだ。
たしかに、スキルはたくさん使えるな。
まだ余力はあるし、マジックポーションもまだ使用できる。
「弥! 次にヒュージトレントと遠距離から戦うときは、俺がスキルを撃ってからやってみな。たぶん上手くいくぞ」
「光太郎さんは、葉の量でHPの計算をすませたのですね」
「おうよ! だけどピッタリすぎてイマイチ自信がない」
「ふふっ、いいパーティですね」
「そんなひかるちゃんは、格闘技、成長度、可愛さがぶっちぎりなんですが」
「……」
光太郎のひかる褒めに無言ながらも、笑顔で返すひかるちゃん。
君たちいつの間にそんなに仲良くなったんですか?
「弥さん、今回のヒュージトレントの戦いを見てて気になったのですが、攻撃前の動作に僅かに動きが感じられたんですが」
「ん? どういうことだ?」
翠ちゃんの言いたい事がちょっと解りづらい。
「弥に解りやすく言うとさ、攻撃前の予備動作があるじゃん。その予備動作の予備動作があるんだよ」
「なるほどです。わたるさんが察知しているのは予備動作の後半部分だと言うことですね」
「にゃっ」
「ウニャ」
その通りと言わんばかりにフローとフェイが返事をする。
なんか俺だけ理解出来なくて悔しい。
翠ちゃんに後でじっくり教えてと貰うとして、今は最終階層と言われる二十階層の探索だ。
時間的には微妙だけど、モンスターの種類次第では攻略しないで帰るつもりだ。
まさかこんな短時間で、ここまで来れるとは思わなかったな。
今回は様子見で来たのだから、本攻略のための足がかりにしよう。
■□■□■□■□■□■□
地下二十階層は、紫色の壁をした気温の低い階層だった。
このパターンはスケルトンの出現する階層だ。
モンスターランク10のスケルトン……どんな強さなのだろうか。
一直線の廊下を進んでいく、左右に分かれ道があるが、今回は真っ直ぐに進む。
2回目の分かれ道を直進して1分もしないうちにモンスターを見つけた。
「スケルトンナイト、モンスターランク10。刺突攻撃が効きにくく、光魔法に弱い。はい弥さん」
自宅ダンジョンに出てくる奴より良い装備をしたスケルトンが2体、ゆっくりとこちらに歩いてくる。
翠ちゃんがハンマーを渡してくるので、ありがたく借りることにする。
「フロー、フェイ。悪いけど1体貰うからな。高速」
「にゃん」
「ニャッ」
「弥、掩護するぜ光波レベル1!」
後ろから光太郎が掩護射撃をするが、スケルトンはこれを避ける。
「なっ!?」
光太郎が驚いているけど、俺だって余裕で避けられる程度の攻撃速度だ。
だけど援護にはなったぞ光太郎。
避けることで、バランスを少しだけ崩したスケルトンは、俺の攻撃を簡単に喰らう。
追撃はスケルトンの盾で防がれる。
「カカカッ 闇撃レベル1」
この攻撃は余裕で避けて、反撃に転じる。
このあとぎこちない動きを、したので追撃する。
「カカカッ 闇撃LV2」
さっきの魔法より大きく速い攻撃がやってきた。俺はなんとか避けたが、とても反撃できる余裕はなかった。
スケルトンの戦い方は巧い、身体能力で完全に勝ってるけど、ナメた攻撃をするとあの盾で防がれてしまう。
「カカカッ 高速剣」
いいタイミングで放たれた攻撃スキルは俺の左肩に命中する。
魔法以外で、久しぶりにいい攻撃を貰った。
痛みが左肩に広がるが、ダメージは何故か身体全体に浸透するように感じる。
最近受けた魔法攻撃と比較すると、痛みは魔法攻撃よりあるが、ダメージはLV2の魔法と比べると半分以下だ。
正確には判らないけど、半分以下なのは間違いない。
暫くスケルトンとの戦いに付き合う……攻撃、魔法LV1、ぎこちない動き、魔法LV2、攻撃、高速剣、とループしているみたいだ。
まるでコボルトジェネラルみたいな動きだ。
フローとフェイはスケルトンを倒したみたいだ。
俺もほどなくしてスケルトンを倒した。
今回は受けた攻撃は2回、高速剣はタイミングは分かるけど、おおげさに避けないとダメージを受けてしまう。
2回目のダメージは1回目よりも少なかったから、回復スキルを使うまでもないな。
「弥さん!」
「弥!」
「わたるさんっ」
3人が慌てるようにやってくる。
「みんな、このスケルトンはかなり強いが脅威じゃないのが解った。とりあえずMPが続く限り突き進んでみるか」
「斬られたとこは大丈夫なのか?」
「ああ、攻撃魔法に比べたら大したことはないかな。それに1対1なら、慣れればダメージは減らせるようになる。光太郎は5体以上のスケルトンが来たらLV2の魔法で対処してくれ」
「ああ、わかった」
ここからの俺たちは快進撃を始めた。
だけどこの行動は、ひかるちゃんに大きな変化をもたらした。
ネーム……千歳 ひかる
レベル……25
ジョブ……剣士
ヒットポイント……1024
ストレングス……162
デクスタリティ……162
マジックポイント……124
スキル……速度上昇3、剣技2、攻撃力上昇2、風魔法2、闇魔法0
パッシブスキル……エンペラーキラー、メタルキラー
コレクション……孤児補正、四兄弟補正
いつも誤字修正ありがとうございます。