【六十二階層】スタンピード『ドス』
遅れました。事情により感想欄は活用していませんが、閉じることはしません。
ダンジョンの受付をしている彼女は、いつも通りの仕事の少なさに、頬杖をついていた。
ここのダンジョンは、管理システム上いつでも出ることが出来るが、入る時間は決められていた。
単純に管理者の数が問題なのだが、そのことが原因でトラブルになったことはない。
ここで忙しいのは、朝のほんの1時間程度なのだ。
その繁忙時間が過ぎると、1時間あたり1パーティがくればいい方なのだ。
出口は一方通行の扉を使うので監視の義務はない。
しかし長時間持ち場を離れることも出来ない。
「あぁ、暇だなあ……自衛隊さんが来るのも明日の昼ごろだって言うし」
彼女はそのスマホを弄りながら、暇な時間を潰していたが、ふと怪訝な表情を浮かべる。
「あれっ、繋がらなくった? 緊急メンテナンス?」
彼女は1度アプリを落として、別のアプリをタップする。
「……ここもだめ あれっ? 圏外!?」
まもなく彼女は、サイトに繋がらない原因が電波が届いていないことに気づいた。
それは一度だけ体験していた出来事だった。
彼女は、管理者として登録する前の、ダンジョンが見つかったばかりの事件を思い出す。
「えっ、えっ? 嘘でしょ父さんも母さんも留守なのに、それにアレは早くても明後日のはずじゃ……」
動揺した彼女は、初動が遅かった。
その遅れはこれから起きる事態を引き起こした。
「ええっと、とりあえず連絡が取れる場所まで避難して、それとそれと……あとなんだっけ?」
ガダッ!
「え?……あっ!」
慌てて正常な判断が出来ずにいた彼女の視界には、ダンジョンのモンスターであるゴブリンとスケルトンの姿が映っていた。
◆◇◆
「フロー、フェイ。ここに来るのも7回目だけど、1回もお前たちに気づいてないな」
「なぁ」
「ニィ」
まあ、そのうちの1回は、年配の男性だったけどな。
今日も『ドス』のダンジョンに足を運ぶ。
この時間帯は他の探索者と合うことがないから、フローとフェイを連れて行くには絶好の時間帯なんだ。
「ん?」
ダンジョン入口の建物が見える距離まで近づいたら、周囲の空気が変化したような……
「いや、確実に変化した。これは……まさか」
この変化には覚えがある。
そう、南の島に出かけたあの時に感じた……
「スタンピードだ!!」
自衛隊がここに来るのは3日後じゃなかったのかよ!
予想外ってことは、管理者の彼女と年配の男性が避難していない可能性がある。
「にゃにゃにゃ」
「ニャニャニャ」
フローとフェイは、既に戦闘準備に入っていた。
俺のゴーサインを待っている鳴き声だった。
「フローとフェイはゆっくりな『加速』行こう!」
速度上昇スキルを使ったところで、本気の2人には勝てないからな。
だけど、狩りの予感に興奮した2人は、俺の話を理解してるはずなのに、猛然とダッシュする。
「あっ、こら待てっ…………ん?」
全速力でフローとフェイを追いかけたが、想像以上に離されない。
どうやら俺もレベルアップで移動速度が上がっているらしい。
まあ、速度上昇スキルの二段階目を使ってやっと互角だけどな。
移動して、直ぐに建物まで近づいたが、すでに女性が1人襲われていた。
女性は受付をしていた人で、今にもスケルトンの攻撃が始まるところだった。
そのスケルトンの後ろにも2体のホブゴブリンがいる。
普通に考えれば絶対絶命の場面だった。
だが、フローとフェイなら余裕で間に合う。
そうだよな? フロー、フェイ。
「えっ」
フローとフェイはスケルトンに向かわないで、すぐ後ろにいるホブゴブリンに狙いを定めた。
人助けより、強敵優先かよ!
「くっ」
俺は限界まで走り、攻撃途中のスケルトンに体当たりして、彼女を守った。
痛てて、スケルトンと女性の距離を置くにことに成功したけど、頭に傷を負ってしまった。
「火球Lv2」
状況把握のため、スケルトンには魔法一発で退場してもらった。
レベル2の攻撃魔法をつかったので、少し時間を置いてからスキルを使う。
「索敵Lv2」
モンスターの反応はもう1つの出口付近に3つ、建物の中に多数ある。
わかる範囲では、外側にほとんどモンスターはいない。
「君、大丈夫か? 動けるなら急いで避難してくれ」
どうやら足腰に力が入らないみたいだけど、動けない程ではなく、ヨロヨロと移動しだした。
彼女に注意を向けるのはここまでだ。
新たなモンスターの反応が2つこっちに来ている。
フローとフェイはホブゴブリンを圧倒してるが倒しきるのはもう少し先だろう。
2人が倒すまでモンスターを通さない戦いをしないと。
新たに出てきたモンスターはガルガンスライムとスケルトン。
スライムは魔法一発で消滅させ、スケルトンと戦う。
スケルトンは、家のダンジョンより弱いが、瞬殺できる訳でなく、倒しきる前に次々とモンスターが湧いてくる。
目の前のモンスターに集中すると、遠くからスライムの触手が顔面に飛んできた。
ここのモンスター相手に、多対一は無謀だった。
「にゃ!」
「ニャッ」
フローとフェイがホブゴブリンを倒したようだ。
少し下がって、3人でモンスターの相手をする。
モンスターは次々と出現して2体倒すと三体出でくるような感じで増えていく。
フローの防御スキルまで使って戦い、ガルガンスライムには惜しみなく魔法も使った。
しばらく戦って気づいたけど、ここで戦ったモンスターはスケルトン、ゴブリン、ホブゴブリン、ガルガンスライムの4種だ。
聞いた話だと、スタンピードは一階層から五階層までの5種類のはずだ。
理由は分からないが、五階層で出てくるはずのトレントは出口専用ゲートに向かって移動してるみたいだ。
2回目の索敵が切れたころ、こちらに来ているモンスターが途切れた。
スキルの効果が切れる直前まで、向こうにモンスターが8体くらいいたのは確認できた。
恐らく向こうの出口専用ゲートでは、手練の探索者が迎撃しているのだろう。
一息ついて、ふと後ろを向くと受付の彼女が逃げないで隠れながら僕らを覗いていた。
「つっ!? なんで逃げてないんだ!」
「えっ? あのう、その……こ、腰に力が……」
少し赤みがかった頬に潤んだ瞳、怖かっただろうに。
「ニニャ!!(石城壁!!)」
フェイの鳴き声がしたので、フェイを見たら、俺の前にピンク色の壁があった。
ガン!!
フェイの出した壁に凄い衝撃が襲ってきた。
不意を突かれたとはいえ、攻撃が見えなかったなんて……
だけど、驚きは納得に変わり、覚悟にかわった。
今、俺の視界にあるのは6体のモンスター、しかもそのうち2体には名前が付いていた。
『ネームドモンスター ケイト』
『ネームドモンスター カエデ』
前にはスケルトン3体と、トレントが3体で、そのうちネームドモンスター2体
後ろには逃げ遅れた女性の管理人が1人、厳しい戦いの予感がした。
ネームドモンスター ケイト→軽人 スケルトン
ネームドモンスター カエデ→楓 トレント