【五十三階層】ネームドモンスター
モンスターがどこからやってきたのか、教えてもらった方角を進んでいく。
途中、モンスターと2体遭遇したけど、問題なく倒した。フローとフェイが。
ダンジョンでは実感が湧かなかったが、地上では『索敵』のスキルはかなり有用だ。
草や樹木に潜んでいるモンスターが、すぐに見つかるからだ。
ダンジョン内のモンスターと違って、スタンピードのモンスターは、遮蔽物があれば隠れる動きをする。
だけど、この索敵の裏をかくには、範囲外から真後ろに回り込むしかない。
でも、俺が後ろを見ればそれすら通用しない。
前に3体の反応を見つけた。
「フロー、フェイ、正面からちょい右に3体のモンスターがいる。行くぞ……えっ?」
モンスターもこっちに走ってきたせいか、直ぐに視認できた。
だけどその3体を直で見た時に、距離以外の文字が見えた。
『ネームドモンスター、トリフ』と表示がしてあった。
体長150センチくらいのキノコの化け物で、手足が短く不気味さより愛嬌を感じてしまう姿だ。
キノコの形をしてるのに手足と大きな口、小さい目がついている。
キノコの目は青く輝いている。
武藤さんに見せてもらったモンスターガイドにこいつの情報が載ってた。
このモンスターの名前は『大化物キノコ』
モンスターランク2の『化物キノコ』もいるが、大きさで簡単に判別できる。
『化物キノコ』体長100センチ程度って書いてあったから、今俺が見つけた奴は、モンスターランク3の『大化物キノコ』で間違いない。
口から小さいキノコの弾を出す、遠距離攻撃タイプだと。
至近距離からだと、体当たりしてから弾を出す攻撃手段もあると書いてあった。
それさえ分かれば、モンスターランク3のモンスターならそんなに恐くないだろう。
ただし、俺には武器と防具がない。
フローとフェイがいなかったら危ない状況だったかもしれない。
俺たちも大化物キノコに近づく、3体の内2体が弾を吐き出した。
ラージスライムの触手とほぼ変わらない速度の弾は、簡単に避けられる。
この程度なら、余程うまく隙を突かないと当たらないだろう。
えっ? 右側にモンスターの反応が3体見えた。
まずい、正面の3体以外にも右側注意しなければならなくなった。
そう思ったら、フローとフェイが右側の3体に向かって走り出した。
えっ!? てことは、俺がこの3体を独りで相手をするってことか?
装備なしで?
仕方ない……
「火球LV1」
俺の放った攻撃魔法で、キノコが1体が消滅した。
ほっ、一撃で仕留めた。
節約して正解だった。
だが、同じ外見で密集してるから、名前持ちは生き残っていた。
キノコの攻撃がきたから、サッと避ける。
その瞬間、もう1体から時間差で攻撃がきた。
しかも少し速い。
姿勢を崩したところで意外な攻撃を受けたから、弾に当たってしまった。
当たったといっても、深刻なダメージじゃない。
これなら10回程度当たっても、大したダメージにはならないだろう。
何度かキノコ弾攻撃を避けたあと、こっちもやり返す。
「火球LV1」
キノコがキノコを庇った?
だが、庇ったキノコは消滅した。
残りは名前持ち1体……ん?
まずい、ここで新たなモンスターがやってきた。
索敵の反応がでたところで、スキルの効果が切れた。
「索敵Ⅱ」
MPの残量が気になるが、この場所で戦うなら索敵は必要だ。
新たなモンスターは化物キノコ2体とGモールだ。
だけどその内1体には名前が見える。
『ネームドモンスター、コロコックル』
と。
まずい、モンスターの強さは大したことないが、数に問題がでてきた。
「加勢する。いくぞ!」
声のする方を見ると、あの兄妹たちが目に入った。
そして武器を投げてきた。
武器に気を取られたら、またキノコ弾を喰らった。
でも、ありがたい。
刃渡りの短い武器を手に取り、ネームドモンスター『トリフ』に接近戦を挑んだ。
モンスターランク3のモンスターにしては強い。
魔法を使うコボルト並みの身体能力を持っていた。
ただ魔法は使わないし剣技もない。
魔法を使うコボルトを倒せるなら、このネームドモンスターはボーナスみたいなものだ。
だけど、何回も攻撃を与えているけど、なかなか消滅しない。
これが『名前持ち』の特性なのだろうか。
フローとフェイを見る。
『ネームドモンスター、スラリン』
フローとフェイもネームドモンスターと戦ってる。
くっ、ボスクラスが3体もいるだと!?
うおっ、危ない!
気を抜くと、キノコ弾を喰らってしまう。
格下相手だけど、よそ見をしている場合じゃないか。
俺は、化物キノコに集中して戦うことになった。
化物キノコをやっと倒した時は、応援に来てくれた2人も、Gモールのネームドモンスターは倒していたようで、索敵の反応はない。
フローとフェイもネームドモンスターと戦っている。
戦いでは、スライムを圧倒しているけど中々消滅しないようで、俺より少し遅れて倒した。
「フロー、フェイよくやった」
「んにゃ」
「ニャア」
あっ、あの2人に加勢と武器を貸してくれたお礼を言わなくては……
俺は自分に治癒をかけてから、2人に向かって歩いた。
「助けてくれてありがとうございます」
すると男の方が、意外なセリフを言い出した。
「いいのだ同志よ。よもやこんなところで同志を見つけるとは」
ん? 『どうし』って探索者同士ってこと?
「速力上昇、索敵、火魔法、治癒、恐らく消費MP半減とテイマーもある。間違いなく同志」
食事中には一言も喋らなかった女の方まで『どうし』と言う。
それに、消費MP半減とテイマーは初めて聞いたぞ?
昼とは極端に変わってフレンドリーな2人に戸惑う。
「むっ! レベルが上がった……最近はなかなかレベルが上がらなかったが、たまたまなのか、ボスモンスターの経験値がすごいのか」
「同志北斗、ボクもレベルが上がった……同志は?」
俺のことを言ってるのだろうか?
でも、どうやってレベルが上がったのが、判るんだ?
「えっと、どうやったらレベルが判るんですか?」
「えっ!?」
「えっ!?」
2人はギョッとして俺を見つめる。
なんかまずいこと言った?
「まさか、同志ではないの!?」
「いや同志南よ、あのスキルを見ただろ。きっと同志は覚醒しきってないと見た」
「覚醒前の同志……そうね、それなら説明がつく」
日本語で話しているはずなのに、言葉の意味が理解できない!
「あのう、俺にも解るように話してくれませんか?」
「同志よ、覚醒していないとは言え、その言葉遣いは水臭い」
「その通りだ同志よ、僕の名は七星北斗。『同志北斗』と呼んでくれ」
「ボクの名前は、七星南。『同志南』でいい」
「俺は六角橋弥。呼び方は委せます」
「同志弥よ、他人行儀すぎるな」
「これが未覚醒の要因かもしれない、同志弥」
委せなきゃよかった。
このまま、意味の解らない話が続いたが、彼らは自分のステータスを見れるスキルを持っているんだと。
で、俺を同志と呼んでいるが、自己鑑定ができないことから『未覚醒』の仲間だと思い込んでいる。
今回はとても助かったけど、彼らとあまり関わりたくないと感じる。
なんでだろう?
それより、モンスターはこれ以上出てこないのかな。
「あっ、電波が繋がった」
「恐らくスタンピードが終わったのだろう。なら、武器はしまおう同志南」
北斗と南は背負っているリュックを、地面に置く。
リュックの口元がぐにっと拡がる。
拡がった口元に手を突っ込むと、ウェポンケースが出てきた。
あっ、そんな方法があったのか。
ウェポンケースが入るサイズのマジックバッグを買えば、武器の運搬が楽になる。
「ん? ああ、これね。便利でしょ。可愛いデザインでこの武器庫を入れられるのは、中々見つからなかったんだよ」
「デザインより、機能性を重視だ同志南。しかも同じ性能で僕の方が安く買えた。話は変わるが、電波が通じた理由は、おそらくスタンピードが終わったのだろう。ところで同志弥、頼みがあるのだが」
嫌な予感しかしない。
「ここのスタンピードを鎮圧したと騒ぎになったら、リーダーを同志弥に任せたい」
「えっ、なんで?」
「苦手なのだ。僕は知らない人との会話は苦手でな、居るだけならできるが、同志南の人見知りは僕以上だ」
「ボクは、必要のない人間と話すことはないだろう」
そう言えば、南さんはずっと人の後ろで隠れていた気がする。
「だから、自衛隊が来たら任せた」
「任せた、同志弥」
嫌な予感は的中した。
ステータス
ネーム……六角橋 弥
レベル……24
ジョブ……軽戦士
ヒットポイント……754
ストレングス……137
デクスタリティ……161
マジックポイント……178
スキル……回復魔法3、火魔法3、速度上昇3、索敵2
パッシブスキル……早熟、アイテム鑑定、消費MP半減、転職
コレクション……孤児補正、双子補正、四兄弟補正




