【五十一階層】南の島
今回も弥くんはドジです。
八丈島から少しだけ南下した、とある小島……
そのさらに南下した島は、秘境と言われてる観光名所だ。
ただそこは、船の欠航率が高く、安定した日程での旅をしたいなら、ヘリコプターを使うしかない。
この小島は、南北にある島と比較すれば、なんの際立ったもののない、観光スポットもない島。
ただ、海岸線の形状が影響して波が安定しやすく、船の欠航率は2割程度で、天候のせいで秘境に行けなかった者が、立ち寄るだけの島だった。
その島は、人口300人を少し超える程度で、3軒の民宿があり、どこも栄えてるとは言えなかった。
その内、1軒がペットが泊まれる宿をうりに宣伝したが、効果はあまりなかった。
そこへ、ペットを2匹連れて1人の男がやってきた。
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「ふいぃ……やっとついたぁ。フロー、フェイお疲れさま」
「ふにゃぁぁぁ」
「ンニャァァァ」
フローとフェイは、キョロキョロと辺りを見たあと、思いきり伸びをした。
特に動くでもなく、俺の左右に位置取ってお尻を向ける。
2泊3日といっても、夜に東京の港を出発して朝にたどり着いたから、実質4日だよな。
帰りは朝に出発するから、まる二日間この島でゆっくりすることになる。
フローとフェイも初の船は窮屈だったろう。
せっかくだから外で思いきり遊んでもらおう。
なんて思ったが、フローとフェイはダンジョンの低層階なら、遊びのようなものだけどな。
民宿は最近改装したのか、綺麗な外観で、小さな旅館と言っても良いくらいだ。
やってきた民宿には、ちょうど3組の宿泊客がいて、平日なのにわりと利用者がいるんだなぁ、と思った。
宿に荷物を預けて、外に出る。
昼御飯は、庭でバーベキューをするって聞いたから、それまでは外で自由に動き回ろう。
家猫だと思っていたフローとフェイも、外遊びが楽しいらしく、走り回ったり跳ねたりして遊んでいた。
それにしても、なんて速さだ。
遊んでいても速すぎる。
ん? たまに急に失速するけど、どうしたんだろう。
目を凝らすと、飛んでいる小さな虫を叩き落としていた。
なるほど……虫に対して攻撃行動をとっていたから失速したのか。
だけど、失速したとはいえ他の野良猫より、速いよな?
テレビやネットの情報とは、ちょっと違いがあるような……
観光情報だと、この島の外周は約14㎞、歩ける道でちょうど10㎞の遊歩道があるらしい。
ちょっと散歩のついでに、運動でもしていこうと思う。
この距離を走るのは、学生時代以来だけど、探索者になったから、そうきつくはないはずだ。
フローとフェイも長距離は苦手だろうが、どこまで走れるのか知りたい。
俺は旅行カバンの代わりに、マジックバッグを2つを持ってきている。
まあ、俺の持っているマジックバッグは2つとも、中サイズで容量5倍と10倍だから、大きさ、物量ともに限界がある。
だから、ダンジョンがあるわけでもないし、武器や防具は持ってきてない。
が…………モンスター肉はたくさん詰め込んでいる。
フロー、フェイとモンスター肉をおやつにして食べてから、外周のハイキングコースを海を眺めながら、走る。
そこそこ走ったんだけど、疲れがこない。
フローとフェイもダッシュ&お座りを繰り返してるが、疲れた様子を見せない。
瞬発力では猫相手だと遥かに及ばないが、持久力では人間がトップクラスのはずだ。
もう少しだけ頑張ってはしるか……
あれ? なんか見たような景色にであった。
まあ、この島だからにたような景色があるのかも知れないな。
「フロー、フェイまだ大丈夫か?」
「ふにゃん?」
「ニャニャ?」
なんか、逆に俺が心配された気がする。
『弥こそ大丈夫?』
『弥遅くないか?』
と言われてる気がした。
「ようし、軽戦士の実力を見せてやろう、加速」
それでもフローとフェイの瞬発力には敵わなかった。
だが、フローとフェイも脅威の瞬発力は持続できなくて、俺が追い付くまでは休んでいる。
そして追い付くと、また猛ダッシュをする。
夢中で走っていたら、元の場所に戻っていた。
時計を見ると30分近く経過していた。
う~ん、10㎞でおよそ30分か……
常識で考えればかなり速いけど、探索者だから大したことないな……
かなり強いモンスターと戦えていたから、もっと超人みたいになってると思ってたけどな。
昼は、宿泊客を交えたバーベキュー。
60前後の夫婦、犬を2匹連れた50代の男性、家族4人でいるグループは親は40代後半だろうか、年齢の判別がむずかしい。
ただ、子の方は大きく20歳くらいに見える。
新鮮な海の幸を堪能し、世間話をしている。
2人を除けばみんな社交的で、会話がもりあがっていた。
その会話のなかで、本島の八丈島で自衛隊が来ていると話がでていた。
なんの用事で来ているのだろうか。
「そういえば、七曲さんの犬はおとなしいですね」
「いや、いい子なんだけど普段はもっとやんちゃなんだけどなぁ? 昼になってから急におとなしくなったんだよ。人見知りでもしちゃったかな」
そういえば2匹の犬は妙におとなしい。
フローとフェイや俺を見ると、目をそらす。
そして若者2人を見ても目をそらす。
もしかしたら、若い人間が苦手なのかもな。
その若い男女以外とはそこそこ世間話をして、昼は解散になった。
そして、このあと俺の運命が大きく動き出す。
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同日、PM2:50
八丈島の2つの地点では、戒厳令が敷かれていた。
ある地点から半径200メートルの狭い範囲でだが、その範囲内に島民はいない。
ごく少数の自衛隊の人間がいるだけだ。
八丈島に大小2つのダンジョンの入口があり、
物理的には繋がっていないが、別の意味ではつながっている。
これは、同じ地区の同じ難易度のダンジョンなら他の場所でも同様となる。
今回動員された自衛隊の中には、探索者が10名動員されていて、大きな入口には7名、小さな入口には3名配置されている。
ダンジョン先進国では、住民の避難が容易に可能で、かつ弱いモンスターのダンジョンでならば、スタンピードをわざと起こさせて入口で叩いた方が、効率が良いと確認されていた。
そして……
「無線、繋がらなくなりました! スタンピード発生しましたっ!!」
今、八丈島の4分の1が『ウノ』のダンジョンの影響下に入った。
「モンスター、出現します!」
青い瞳に変化したダンジョンモンスターが地上にやってきた。
ステータス
ネーム……六角橋 弥
レベル……24
ジョブ……軽戦士
ヒットポイント……754
ストレングス……137
デクスタリティ……161
マジックポイント……178
スキル……回復魔法3、火魔法3、速度上昇3、索敵2
パッシブスキル……早熟、アイテム鑑定、消費MP半減、転職
コレクション……孤児補正、双子補正、四兄弟補正