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【隠し階層5】モンスターの強さ

大変お待たせいたしました。



 日本で新たに発足された部署『ダンジョン対策庁』で、様々な研究結果の報告や、ダンジョン関連の法案や対策などを取り仕切っていた。


 今回はモンスターの耐久性について、新たな報告がされる予定だった。


 既にアメリカからの情報提供により、ある程度の知識はあるのだが、あの国が全ての情報を開示するわけがないと、日本独自でも研究や検証を行っていた。



 そして、報告者が用意されたスクリーンの脇でマイクを持って話し始めた。


「今回は、モンスターが何故脅威であるのか、何故探索者がモンスターに対して有効なのかを検証しました。今回その検証結果を報告致します」


 スクリーンに明かりが灯り、それに伴い部屋の照明が暗くなっていく。



 ダンジョン内及びスタンピードが発生した範囲内では、一部の電子機器が使用不能になるのは常識だった。

 スクリーンから写し出されるであろう映像は、モンスターとの戦いではないことは皆解っていた。




「この映像を見ながら、ダンジョンのモンスターが、どれだけ通常兵器に耐えられたのか、消滅させるまでの平均銃弾使用を報告いたします。なお銃弾は89式の5.56mm弾に統一してあります」


 案の定、スクリーンにアニメチックなモンスターのCGと、モンスターが平均何発で消滅したのかが、グラフになって記されていた。



「モンスターランク1となっている『Gモール』は5発、Gバットは4発でした」



 次の映像は、コボルトとスライムに銃弾を、浴びせているCGだ。

 CGの完成度を見ると、モンスターの名前と銃弾の数だけグラフにすれば良いと、大部分の参加者が感じたことだろう。


「次はモンスターランク2のコボルトとスライムです。コボルトは消滅まで平均7発、スライムは平均12発の銃弾を使用しました」


 モンスターは銃弾の前になすすべもなく消滅させられていたことをCGに沿って解説する。


 説明を聞く限り、探索者の有用性に疑問を持つだろう。





 次のCGによる説明は、先程のスライムより一回り大きなスライムだった。


「モンスターランク3のラージスライムは、25発もの銃弾を必要としました」






 それからしばらくの間解説が続いた。





「モンスターランク6のゴブリンです。このモンスターは銃弾を受けても、ものともせず向かってくる恐ろしい個体です。さらにいくつかの銃弾が、避けられていますが有効な弾を数えると、消滅させるまで60発近くの銃弾を使用しました。次はモンスターランク7の大型ゴブリン……ホブゴブリンと、モンスターランク8のラージトレントです」



 グラフを見る限りではモンスターを倒すために必要なコストがうなぎ登りになっているのが判る。


 しかも、有効弾数を報告してあるので、実際は、それ以上の銃撃をしているのだ。





「ホブゴブリンは、有効実弾数100超えで、鈍重な動きをするラージトレントは全弾命中しましたが、消滅までには200発を超える銃弾が必要でした」



 このCGとグラフ見ていた何人かが呟く。


「なるほど、モンスターが高ランクになると通常兵器は効きにくくなるということか」

「確かに赤字となるが、探索者に頼ることを、いささか疑問に感じるが……」

「そうだな、もっと強力な兵器を使えば、通常の軍隊だけでなんとかなるのでは?」


 今のセリフに頭を痛める者がいた。


(なんで、こんな無知なジジィがこんなところに居るんだよ!? 軍隊だけですむなら、中国やインドは滅んでないし、アメリカも探索者に力を入れるわけないだろ! よく考えてみやがれ!!)


 実際に怒鳴れないのがもどかしいが、最後まで説明を聞いていれば、さすがに解るだろうと考えた。





「ダンジョン内で戦ったモンスターランク9のゾンビですが、600発以上の銃弾を撃ち込んだと報告があります。しかも我々が想像してたゾンビと違い、銃で狙いを定めるのに苦労するほど動きが俊敏で、探索者を含む50名の自衛官を使って検証いたしました」


 実際に倒すだけなら、自衛隊探索者を2名用意すれば安定して倒せるのだが、検証には多くの人員が必要となった。



「たった1体に50もの人員を使うか……」

「これではスタンピードで、このゾンビが出現した場合、我が国は……日本はどうなるのだ?」



「そのための研究と探索者の育成です。しかもモンスターランク10からは、いかなる通常兵器も通用しなくなっていました。これに対抗できるのは、相応の武器やスキルを所持した探索者だけです」


 さらに説明は続く。


「経験値の入る仕組みは、想像の範囲ですが、パーティで経験値を100を手に入れたとします。そして個人に入る経験値は約100となります」


「そんなバカな話があるのか?」


「だが、ダンジョンの存在自体が、ありえない事象だ……受け止めるしかあるまい」


「我が国の自衛官は優秀です。同じ階層、同じ種類のモンスター、ほぼ同じ数のモンスターを倒して検証した結果、レベルの上がり方にほとんど変化はありませんでした。ただ……」



「ただ、なんなのだ?」


「同じパーティの探索者でも、レベルの上がり方に若干の誤差がありまして、原因はまだ解っておりません」


 その話がでてから、色々な憶測が飛び交う。


「個人の資質で、得られる経験値に誤差があるのでは?」

「与えたダメージによって違いが出るじゃないのか?」

「いや、それなら単独行動した探索者のレベルが先に上がるだろう。そんな報告はなかった」

「レベルを上げるための必要経験値が個人で若干違うのかも知れないな」










 報告は進み、探索者資格の規制緩和された状況を報告していた。



「…………ということで、探索者が大幅に増え、F級魔石の収穫高も二桁%の上昇、それに押し上げられるように、E級魔石も一桁後半の上昇と好調で、新人探索者の死亡者はこの2ヶ月で1名となっています」




「探索者の規制緩和だけでそれほどの成果が!?」



「いえっ、この数値の背景には、年々増加させている自衛官探索者や、消防士、警察官、各役所でも探索者の育成に力を入れているからです。さらに日本では敬遠されがちだった低レベルの底上げ探索などの影響もあったようです」


「ああ、民間の一部では『寄生』と言っている手法か」



 特に警察関係の探索者の増加が、規制緩和を促したのは周知の事実だ。


 低レベル者の底上げは、実働2週間もあれば一定の強さを得てしまう。


 だが、そうなってしまうと、民間で魔石を売ったほうが収入が良くなってしまうので、公務員の探索者は、厳しい条件をつけられ、誓約書まで書かなければならない。


 ただ、3月の決算賞与は、外に洩らせないほど高額になる場合がある。









 報告会の最後議題は、スタンピードの兆候についてだった。


「今回のスタンピード発生予想箇所は、以上になります」


 あらかたの報告に一区切りついたところだ。


「数ヶ月前の予測より多いですな」

「この数だと、全て未然に防ぐのは難しいのでは?」

「海外に遠征に行ってる者たちを、呼び戻してはどうか?」


「『ドス』と『トレス』のダンジョン……特に『トレス』のダンジョンではスタンピードを発生させてはならない。アメリカに遠征に行ってる者らを頼らずに、成し遂げなければいけない。自衛官は『トレス』のダンジョンにおけるスタンピードを防ぐのに力を入れる。『ドス』については、各部署と一部の民間探索者に応援を要請しておけ。それで余裕が出た場合『ウノ』のダンジョンに行けば良いだろう」



 スタンピードの発生時の兆候は、瞳の色が赤から紫に変化する。

 そこから、一定期間を経て青色に変化してスタンピードが発生する。


 しかし、発生前に多くのモンスターを始末すると、スタンピードが発生する前にダンジョンモンスターの瞳の色が赤にもどり、暫くの間、スタンピードの兆候がなくなるのだ。



「自衛官なら、スタンピードを発生させてから、対処に向かった方が、必要人員の削減になるのだったか?」


「モンスターの対処についてはそうなるが、市街地だと、避難させる手間がかかりすぎる。それにスタンピードの特性をあまり知られたくない」


「ユニークモンスターの存在ですか……」

「たしか自衛官たちの話では、ネームドモンスターとかレイドボスと言われてる、アイテムを落とすことのない外れモンスターだよな? なぜそう呼ばれているのか不思議ではあるが」



 スタンピード時に発生する、ユニークモンスターは、探索者にだけ見える名前が表示されていて、6人までという『経験値取得制限』がないのだ。


 ここで『不思議ではあるが』と言った者は、この集まりの中で無知な部類に入る男だった。



「では、スタンピード対策は『トレス』を最優先に『ドス』まで力をいれ『ウノ』については後回しにし、後日臨機応変に対処するでいこう」





 後日、この施策が原因で、ある離島で民間人に死者が発生することになる。





不人気の閑話ですので、次回は明日投稿予定です。

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