【四十七階層】地下7階へ
アイテムショップの武藤さんから話を聞いた。
3つの事柄。
『探索者資格の規制緩和』
『新人探索者に対する防具の無償貸出し』
『モンスターランク3までのモンスター攻略ガイドの発刊』
日本が大きく動き出したのが解る。
国の意図は俺だと理解できないが、新人探索者の死亡率はぐっと減るのは間違いない。
話に聞くと、通いやすいダンジョンの地下1階と2階は多くの探索者でごった返し、モンスターとの遭遇率は、さらに減っているらしい。
地下2階で狩りをしていた常連の探索者は、地下3階や4階に狩場を変え始めた。
まあ、全部武藤さんから教えてもらった知識だけどな。
地下6階のモンスター、トレントも脅威ではなく、新しい盾も買って防御力も上がったはずだ。
トレント相手に、新しい盾の使い心地を確認したら、地下7階に行ってみよう。
地下7階で、かなり強いモンスターが出現しても、スキルを惜しみなく使えば対処できるだろう。
既に、地下6階の探索2日目で、扉のある部屋を見つけてある。
「フロー、フェイ、今日は地下7階を見に行こう」
「にゃっ」
「ンニャ」
地下3階までは駆け足で進み、1時間と少しで地下4階まで降りる。
ここからは、普通に歩いて地下6階まで降りる。
ここまでで3時間弱の時間を費やす。
地下6階のモンスター、トレントは出現場所が、全く同じなので走って進んでいく。
予定の場所で、3体のトレントを見つける。
場所は同じだけど出現するトレントの数は1体から3体と変化がある。
トレントに近づき戦闘を開始する。
トレントのしなる枝攻撃を見極め、トレントシールドで防ぐ。
重たい衝撃が、盾越しにやってくるけど、盾は軋まないし、俺にもダメージはない。
この盾は扱いやすいうえに頑丈に作られている。
200万円を超える盾だけど、いい買い物をした。
トレントを倒して盾を確認すると、武藤さんに言われた通り、傷ひとつない。
トレントシールドの劣化は、木の部分の劣化で判別すると聞いていたんだ。
そして、劣化したら修理してもらい。
また新品同様に使えるのだと。
修理費用は10万円で、買った値段に比べたら格段に安い。
そして、門と言ってもさしつかえない、大きな扉の前まで、たどり着いた。
ここまでで使ったスキルはなし。
俺には若干の擦り傷はあるが、ほぼ被害なしでここまで来られるようになった。
トレントシールドのお陰なのか、精神的な疲労もない。
「フローとフェイ、トレントが5体以上なら魔法を1発使う。4体までならガチンコの戦闘だ」
「にゃん!」
「ニャンッ」
フローとフェイも好戦的だよな。
まるで、玩具を前にした子どもを連想させる。
見た目と違い、扉は軽く開いてしまう。
部屋の中は、学校の体育館くらい広い空間で、中には何もない。
このパターンは扉を閉めると、自動的に敵が出現するタイプだ。
扉を閉めようとしたけど、扉がゆっくりと勝手に閉まっていく。
「フローとフェイ、くるぞ!」
「ふーーっ!」
「フカァァ!」
扉がしまると同時に、地面から湧き出るようにトレントが出現する。
正面に1体、左右の斜め前に2体目と3体目左側で4、右側も入れて5体
左後ろと右後ろで6と7。
固まらずに散開した状態で、7体のトレントが出てきやがった。
動きが非常に鈍いトレントが散開していても、脅威になるはずがない。
少し以前の俺ならそう思っただろうが、下階に降りる場所で。
そんな甘い設定はないはずだ。
「火球LV1 フローとフェイ、伏兵に気を付けて戦え!」
「にゃん!」
「ニャンッ」
フローとフェイは左右に分かれてトレントに向かっていった。
トラップでもない限り、うちの娘に心配はいらない。
俺は慎重に……ん!
トレントの動きが速い。
人が歩く程度の速度だが、いままでのトレントとは違う動きを見せる。
挟まれるとやっかいになるけど、そこで焦るのは実力が足りない者だけだろう。
俺は広い空間を利用して『俺‐トレント‐トレント』になるように移動する。
この状態を維持しながら、トレントの攻撃を交いくぐり攻撃を与える。
トレントが移動して二面攻撃をしようとする前に、トレントが直線になるように動く。
こうしてトレントを有利にさせないように動いて戦う。
いつもより時間がかかったけど、2体のトレントは消滅した。
フローとフェイは……残り1体ずつか。
見ていて分かったけど、フローとフェイなら2体の同時の枝攻撃すら難なく避けている。
落ち行く葉の数を見ると、一撃の攻撃力は弱いけど、相手の攻撃が当たらないから結果圧倒している。
恐い娘たちだ。
結局7体のトレントも、火魔法を1発使っただけで殲滅させることができた。
ゴゴゴゴゴゴゴ
下階に行く階段が出現する。
スキルは殆ど使っていない、地下7階のモンスターが予想以上に強くても、対処はできるだろう。
「フロー、フェイ、もしモンスターが強すぎたら遠慮なくスキルを使っていいからな」
「にゃ」
「ニャ」
まあ、フローとフェイは確認するまでもなく、ここぞというタイミングでスキルを使ってくれるんだけどな。
長い階段を降りて、地下7階に到達した。
いつも通りの地下1階入口に転移する魔法陣を通りぬけ通路に向かうと、今度はタイル張りの床、壁、天井で張り巡らされていた。
計っていないから断言できないが、タイルの大きさは、ほぼ1メートル四方で、高さ幅ともに6枚のタイルが張られている。
洞窟を見たから、そんなに驚くことはないだろうと思ったけど、ここでもかなり驚かされた。
「索敵Ⅰ」
策敵のスキルを使用して、モンスターに備える。
5分ほど歩くと、2体のモンスター反応がある。
距離から考えると、ちょうど通路から広間になっている辺りだろう。
「フロー、フェイ2体だ。1体は俺がやるぞ」
「なぁ」
「ニィ」
……なんだ、この『仕方ないなぁ』みたいな返事の仕方は。
通路を抜け、広間にはいると見た目が醜悪な人形のモンスターが2体、大きなこん棒を握りしめて、俺たちを待っているように立っていた。
見た目は、ファンタジー物に登場するモンスター、ゴブリンだった。
ただ、大きさが俺の想像したゴブリンとは違った。
大きさは2.5メートルくらいあり、フロー、フェイや俺を見下ろすようにしている。
ゴブリンって、こんなに大きかったっけか?
コボルトの2.5倍は大きいぞ。
「ホブゴブゥゥゥ!!」
「ホブゴブゥァッ!!」
地下7階のモンスターは、デカゴブリンだった。
ステータス
ネーム……六角橋 弥
レベル……23
ジョブ……軽戦士
ヒットポイント……694
ストレングス……132
デクスタリティ……155
マジックポイント……172
スキル……回復魔法3、火魔法3、速力上昇2、索敵2
パッシブスキル……早熟、アイテム鑑定、消費MP半減、転職
コレクション……孤児補正、双子補正、四兄弟補正
光「回復ポーションを買うよりMP回復ポーションを買った方がすごくお得だ」
翠「三廻部さんの話だと、再生の方が面白いといっていましたが、それでは参考になりません」
光「MPの回復量はわからないけど、一番安いMP回復ポーションでも、完全回復してると思うぜ」
翠「回復系のスキルは反則です」
光「でも探索者って、怪我なら寝てれば治るじゃん」
翠「軽い怪我だけですからね」