【四十二階層】別れと覚悟
誤字修正、すごく感謝しています。
翠ちゃんが、真剣な表情でやってきた。
さすがの俺でも、大事な話なのは分かる。
話の中身は予想できた……たった今だけど。
「弥さん」
「はい」
「弥さんとのダンジョン探索は、明日で終わりにしましょう」
真面目な話だったら、それくらいしか思いつかない。
昨日のダンジョン探索で、なにか失敗したのだろう。
「昨日の探索で解りました。私と光太郎さんは、弥さんとパーティを組むには早すぎます。いえ……弥さんと同じ目線でダンジョン探索するには、早すぎました」
早すぎる? 釣り合わないじゃなくて、早すぎる……か。
釣り合わない……そう言っただけなら、引き止めたんだけどな。
今度はしっかりと翠ちゃんを見つめる。
挑戦的な瞳だ。
昨日とは全く違う表情をしてる。
「わかった。光太には」
「すでに私から話してあります。一方的ですみませんが、今までありがとうございました」
それだけ伝えて翠ちゃんは、帰っていった。
なんか、ぽっかりと穴が空いたような気分だ。
「なぁ~」
「ニィ~」
フローとフェイが、やってくる。
まるで慰めてくれているみたいだ。
「フロー、フェイ、翠ちゃんは強くなって、ここに来ると思うか?」
「にゃあ」
「ンニャ」
「何言ってるか解らないな。だけど、翠ちゃんが俺の想像以上に強くなったとしよう。その時俺たちが今のままだったら、ガッカリするだろうな。『まだ魔法を使うコボルトに苦戦してるんですか?』なんて言われたらどうする?」
「ふかぁー!」
「フニャァ!」
「だよな、明日で一旦2人とはお別れだ」
光太郎も翠ちゃんも、あのダンジョンの2階までなら問題ない。
後は、2人で頑張ってもらおう。
◇
◇
◇
翌日、待ち合わせの場所に向かったら、光太郎は怒っていた。
「足手まといなら、言ってくれれば良かったじゃねぇか、一発殴らせろ」
そんなことは、全く思ってないんだが。
光太郎の成長は見ていて楽しかった。
……むしろお前の成長の速さに、少し焦ったんだぞ。
まあ、翠ちゃんがなんか言ったんだろう。
「翠ちゃんは来ない。俺は今から修行に行く。明日から頑張るじゃ、ニートのお前に勝てないからな」
ニートじゃねぇ!!
「探索者な?」
「ふっ見てろよ、お前から仲間になってくれって言わせるほど強くなってやる」
『仲間になってくれ』なら、今でも言えるんだがな。
俺は、翠ちゃんと会うことなく、駅近ダンジョンから去っていった。
◇
◇
◇
「…………これでいいのか、翠ちゃん?」
「はい、もう一度一緒にダンジョン探索したいなら、甘えは捨てなきゃ駄目です」
「って言っても別れの挨拶くらいしたら良いのに、無茶をすれば、死ぬかも知れないんだぞ?」
「確かに命を懸けて戦いましょうとは言いましたが、死にに行くつもりはありませんよ」
「それに、プライドも捨てるってどういうことなんだ翠ちゃん」
「言葉の意味そのままです。光太郎さんは最上さんとパーティを組めますか?」
「っ!? なんであんな奴と、それに最上烈と組むってことは……森林コンビも」
「理由は最上さんの強さを知って、追い抜くためです。最上さんを追い抜いて、ようやくスタートラインに立てると思うんです」
「くっ、弥はそんなに強かったのかよ……なにが……」
「はい、弥さんは生き生きと楽しそうにモンスターを倒していました。私と光太郎さんには見せなかった姿でした。弥さんはずっと保護者をしていたんです。弥さんと肩を並べるには、命を賭け金にしてダンジョンに潜る必要があります」
翠の光太郎を見つめる瞳は覚悟を決めた者の光を宿していた。
「そんなに、弥が好きなのか?」
「なななな、何を言ってるか解りません! い、良いですか光太郎さんっ、命を懸けても弥さんに近づくには足りないものが多すぎます。そこで光太郎さんを使わせてもらってもいいでしょうか?」
「俺を? 俺って意外に友達少ないんだぜ? 知り合いは3桁いくけど」
「違います、私のスキル『モンスター鑑定』と光太郎さんのスキル『限界突破』を餌に、パーティを募集します」
「うんうん、それで?」
「私のスキル『モンスター鑑定』は新しいモンスターと戦うのに便利だと解りました。弥さんの表情を見ても間違いないでしょう。光太郎さんのスキル『限界突破』は絶対に珍しいスキルです。その2つのスキルを餌に、強い探索者とのパイプを持ちます」
「……翠ちゃんって恐いな……でもお互い1度スキルを見せたら終わりなんじゃ」
「はい、その通りです。だから希少価値のある間に2人で強くなりましょう。弥さんの弱点は簡単に仲間を集められないことです。どう考えても5人パーティが一番効率がいいんです」
(そう、せめて弥さんの6割……いえ7割くらいは力をつけないと……)
「まぁ、弥は年のわりに老成した考えをしてっから、友達作り下手なんだよな」
「……そうですね」
(それもありますが、猫ちゃんの探索者なんて紹介できません……光太郎さんのスキルより珍しいはず)
光太郎と翠のところに、3人の男が近づいてきた。
「七瀬ぇ、来てやったぞ。ドロップアイテムは全部貰えるってことでいいんだな? げっ! 一関!?」
3人の男は、光太郎と翠の同級生『最上烈』と森林コンビこと『森』と『林』だった。
翠は昨日、光太郎に事情を話して『明日で弥との探索を中止にしよう』と持ちかけた。
理由を聞いた光太郎は『明日からでなく今から頑張ろう』と言ったことから、急遽仲間集めをしていたのだ。
そして、直ぐに捕まったのは、探索者以外の仕事をしていない最上烈とその仲間たちだった。
七瀬翠は、嫌がる森、林、光太郎を言葉巧みにあやつり、5人でダンジョンの中に入っていった。
ステータス
ネーム……一関 光太郎
レベル……10
ジョブ……一般人
ヒットポイント……200
ストレングス……20
デクスタリティ……30
マジックポイント……40
スキル……限界突破2、光魔法1、再生0
パッシブスキル……EXP補正2倍
コレクション……なし
ステータス
ネーム……七瀬 翠
レベル……8
ジョブ……農耕士
ヒットポイント……200
ストレングス……24
デクスタリティ……24
マジックポイント……40
スキル……攻撃力上昇1
パッシブスキル……農業、モンスター鑑定、EXP補正1.2倍
コレクション……なし
色々思うことがあるかと思いますが、こんな結果になりました。
翠、光太郎 推しの方々には申し訳ないですが、2人とは少しの間お別れです。
弥の心理としまして、最初はしょうがない、スキルを覚えるまでつき合ってやるか程度でしたが、
息抜きで友達と散歩するていどな、駅近ダンジョンで探索とは、違った楽しさを覚えました。
そのうち、成長する二人を見て、五人(匹)で探索することを頭の片隅で考えるようになりました。
そこで、フローとフェイのお茶目と、気合いを入れすぎた結果でこの結末となりました。
本作はここでひとくぎりとなりますが、続きは書いています。
ただ、5、6話くらい先で詰まっていまして、次回更新は週末くらいなるかもしれません。
ここで『もっと早く更新しやがれ!』
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素敵なアイデアや文章が、閃くかもしれません。
それではまた……