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【三十九階層】翠、弥の秘密に迫る。

 翠ちゃんは俺の家のちょっと手前で、ウロウロソワソワしていた。


「早く来すぎちゃった、どうしよう……あっ」


 聞いてはならない台詞を聞いた気がする。

 しかし、すぐに俺の存在を気づかれた。


 翠ちゃんの顔がみるみる赤く染まっていく。


 俺にはこの状況をフォローする言葉(ちから)はない。


 だが、男は強引であれ!


「翠ちゃん、ちょうどよかった。アイテムショップの新商品で、相談したいことがあるんだ、他に用事がなければ、早めに来てほしいんだ」


「えっ!? あ、はい……大丈夫です。 用事は全くない、あっ……大丈夫です……」


 こんなに慌てる翠ちゃん……レアだ。

 同窓会の日に、階段で転んだ時以来だ。



 翠ちゃんが何故こんなに早く来たのかをうやむやにして、家に上がらせる。


 けど、何か忘れてるような…………あっ、しまった、掃除してない。




 掃除はあきらめ、翠ちゃんに今朝聞いた商品の話をして、意見を求めた。


「弥さん、マテリアルバッテリーの性能や凄さは解りませんが、ダンジョン内での無線機使用は大変便利ですよ」


「そうなの?」


「ふう、弥さんってば……いいですか、ダンジョン内では無線を含む機械類のほとんどが使用できません。理由は分かりませんが、照明やインスタントカメラ、一部の生活家電が使えることから、原因は不明となっています。ダンジョン内で使える無線機はそれだけで、価値があると思います。弥さんが言ったように『ハウリング機能で拍手』があったことで想像できるのは、パーティの競合を避ける意味があると思います」


 ヤバイ、翠ちゃんの方が圧倒的にダンジョンに詳しい。


「で、競合ってなに?」


 翠ちゃんの目が見開いた。

 俺は翠ちゃんを、驚かすことに成功した。


「あの、弥さん5人を超える探索者がモンスターを倒すと経験値が入らない現象があることは、知ってますよね?」


「それは知ってる」

 翠ちゃんにバカにされた気がする。


「何メートル以内なのか分かりませんが、ハウリングがしない距離ならば、探索者が経験値を得られる安全距離になるんだと思います」



「おお……」

 パチパチパチパチ


 やっと、あの時の拍手の意味が解った。

 探索者がたくさんやってくる、駅近ダンジョンならば、ありがたいアイテムじゃないか。


 夕方にでも買いに行こうかな。


「弥さんって、本当に熟練の探索者なんですか?」


 俺が熟練者だとは1回も言ってないし、自覚もしてないが。


「いや、俺は初心者だぞ。スキルは便利なのを持ってるけどな」


「……たしかに回復スキルは、ものすごく重宝しますね」


「うん、あとは攻撃魔法もな、いざと言うときに何回も助けられたんだ。速力上昇のスキルは強くなった実感が得られないん……ん?」


 翠ちゃんが、びっくりしたようにこっちを見る。


「弥さん、たしか弥さんの使えるスキルは2つと聞いてましたが……攻撃魔法も持ってるんですか!? 驚きました」



 その後、翠ちゃんの作ってくれたモンスター肉を使った料理を食べたんだけど、たっぷりと尋問、じゃなくて質問されたから、細かい味を覚えていない。



 翠ちゃんのコボルトスパイスを使った料理は、うまくいかなかったって結論がでた。


 コボルトスパイスは調理前や調理中に使うと、隠し味程度の変化しかなかったと教えてくれた。


 おれも、それくらいは試した。

 コボルトスパイスは食べる前に振り掛けるのが一番効果的だった。



 翠ちゃんと会話していると、話のネタがダンジョンのことになった。


 俺が強すぎる話になり、俺の狩り場や、パーティの話題になっていった。


 まずい……下手な誤魔化しは、読心術の持ち主翠ちゃんには通用しない。


 こんな時は、あれだ!


「あっ、ちょっと庭の手入れをしなきゃいけない時間だ。10分くらい待ってて」


 と一時凌ぎをしてみた。


 だがこの一時凌ぎが、とんでもない事態を引き起こした。




 ◇

 ◇

 ◇


 弥さんは、本当に不思議な男性です。


 何度私を持ち上げては、落とすのでしょう。



 最初に惹かれたのは、高校時代。


 他の同級生と比べて、キラキラした物がないおじさんみたいな印象だった。


 だけど、動物と遊んでるその笑顔を見た時、ギャップに胸が高鳴った。

 もちろん、これが恋じゃないのは解ってるけど『ああ、この人もこんな素敵な表情が出せるのね』と感じただけのはず。


 お互いの接点がないから、声をかける機会もなく卒業して、次に会ったのは、同窓会の日。


 階段で躓いた私を、さりげなく助けてくれた。


 下心のない、その姿に好感がもてた。

 私を見て、ゲスな表情を浮かべ近寄る男性は多い。


 思い返せば、光太郎さんとその友達は下卑た視線を私に向けたことはなかった。




 友達の光太郎さんを雑に扱う様を見て幻滅し、その後直ぐに友達思いな人だと、認識を改めた。


 人の表情を見るのが得意な私だけど、弥さんのことは、解らないことが多い。



 光太郎さんと3人で、ダンジョンに行くことになった時も、光太郎さんの彼女と勘違いするし、治癒のスキルを使えるほどの探索者なのに、ダンジョンのことは素人同然だし、訳が解らない。



 だけど、今の弥さんは生き生きとしている。


 そしてビックリするくらい強かった。


 今も変わらず動物が好きみたいで、2匹の猫を大切にしていた。


 でも、その猫にじっと視られている気がする。

 その視線は品物の査定をしている商人にも感じた……不気味です。



 そして、2度目の自宅訪問。

 何故か朝の5時に起きてしまい、することがなくなってしまい、予定より90分も早く来てしまった。


 弥さん絡みだと、調子が狂ってしまう。


 そして、恥ずかしい独り言まで聞かれてしまった。



 どうしていいか、パニックになった私を、強引に家まであげてくれた。


 顔をじっと見つめるけど、気を使ってくれたのか天然なのか、判別できない。



 弥さんと話していいると、疑問に浮かぶことが多い。



 弥さんは、ダンジョンに詳しくないのに、何故あれほど強いのか?

 どこのダンジョンに潜っているのか?

 どんな人とパーティを組んで探索しているのか?


 疑問をぶつけたら、情けない逃げ方をした。


 これで誤魔化せるつもりなのでしょうか?



 弥さんが、戻るのを待っていたら、例の猫ちゃんたちがやってきた。


「フローちゃんとフェイちゃんだっけ、弥さんって面白い人ね」


 つい、そんなことを口走ってしまった。


 もちろん近くに弥さんがいないのは知っている。



「にぃ」

「ナァ」


 この後、猫たちが恐ろしいまでの動きを見せた。



「えっ? えっ? うそっ!? ええっ?」


 猫たちが急に私を押し出したのだ。


 嫌われて追い出される?

 そんなことより、探索者となって強い力を得た私を押し込むってあり得ないことでした。


 そして、押された先は、どう見ても浴室らしき場所だった。


「ちょっと待って、なんで浴室!? ちょっと弥さん、猫ちゃんたちにどんな教育をしてるの! そんなつもりで来たわけじゃないって、猫に何を言って……えっ?」


 猫たちに、連れていかれた先は、地下に降りる階段だった。



 どう考えても、家の構造と階段の位置が合わない。


「にゃあ」

「ニャア」


 猫たちの鳴き声は、まるで『一緒に行こう』と、言ってるように聞こえた。














 ステータス


 ネーム……六角橋 弥

 レベル……15

 ジョブ……軽戦士

 ヒットポイント……454

 ストレングス……92

 デクスタリティ……107

 マジックポイント……124

 スキル……回復魔法3、火魔法3、速力上昇1、索敵0

 パッシブスキル……早熟、アイテム鑑定、消費MP半減、転職

 コレクション……孤児補正、双子補正、四兄弟補正







注:弥は『探索者用トランシーバー』の使い方を勘違いしています』

『探索者用トランシーバー』は6人以上のパーティにするとき、二組以上に別けてダンジョン攻略をする。

仲間内で使うアイテムです。




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― 新着の感想 ―
[一言] 一番下、二組以上に別けて、は普通に分けて、でOKだと思います。
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