【三十八階層】アイテム紹介
誤字報告いつもありがとうございます。
軽戦士の力を実感し始めている。
転職したばかりの頃は、変化のなさに不信感を覚えたが、今はどんどん強くなってると分かる。
昨日計った探索者用の握力計では、300㎏近い数値を叩き出した。
あまりに順調なため、どこかで落とし穴があるんじゃないかと疑うほどだ。
今日は、武藤さんのアイテムショップに行くことになってる。
今回、アイテムショップに行く目的は、新商品の先行プロモーションを見学するためだ。
僕の他にも、探索者が来るって話だったから、武藤さんのお得意様か、お気に入りの探索者だろう。
なんか、そんな精鋭と思われる一団に混じると思うと、緊張するな。
開店前の武藤探索店に到着した。
店の中には、既に3人ほど探索者と思われる人たちがいた。
「おはようございます!」
普段より少しだけ元気に挨拶をする。
「ああ、おはよう……」
「おはようございます」
「おはよう、元気いいね。武藤店長、目玉商品って彼のことかい? 武藤店長が呼ぶくらいなら、実力もあるんだろ?」
「八寸さん、勘弁してください。彼にはちゃんとパーティがいるみたいなんですから」
なんか変な勘違いをされた。
それとも、からかわれたのかな?
「あと、三廻部君が来たら揃うから、もう少し待ってください」
えっ? 三廻部だって!?
そんな珍しい名前なんてそうそうないよな。
この名前に聞き覚えがある。
知り合いって程じゃないが、同窓会で1度聞いた名前だ。
「おはようございます」
「三廻部君、いらっしゃい。集まった人の紹介をしてから、説明を始めよう」
武藤さんが、チラッと俺を見る。
「六角橋です、よろしくお願いします」
「三廻部です……どうも……」
(六角橋……どこかで聞いたような……気のせいか)
全員の名前を言ったあと、武藤さんは新商品を見せてくれた。
自慢げに見せる代物は、ただのトランシーバーにしか見えない。
どんな物だろう?
「これは、ダンジョン専用通信機、トランシーバーだ」
全く凄くないんだが?
「おおっ」
「それは凄い」
「ついに民間に流れるか」
あれ? そんな凄いもなの?
この流れに付いていけない。
「で、武藤てんちょ、性能はどのくらいっすか?」
三廻部が眠そうなまま聞いてくる。
そういえば、同窓会でも似たような感じだったか。
「ふふっ、今のところは同層階全てを通信できるって説明だ。ただし近距離でも、閉じた扉や階層が違えば全く通じない。何より凄いのが、64チャンネルもあり、近づきすぎると反応する『ハウリング』機能付だ!」
パチパチパチパチ
パチパチパチパチ
パチパチパチパチ
みんな驚いたように拍手をしている。
俺も周囲の空気に流されて拍手する。
とりあえず、話をしっかり覚えて、翠ちゃんに聞いてみよう。
「続いて、この2種類の商品だ」
えっと、なんて言うか四角い形状の『大きな塊』が2つと『小さな塊』が1つと言えばいいのだろうか。
小さな塊はモバイルバッテリーで、大きな塊は蓄電池だろう。
なんでこんな物がアイテムショップに?
「これは、マテリアルバッテリー『F6000』だ。F級魔石をUSB電源として変換する機械だ」
大きさは50枚入る名刺ケースくらいで、確かにUSBの端子が2個ついてる。
武藤さんは自慢げに説明を続ける。
「F級魔石を1個分の容量は、5Vの6000mAh。スマホだけでなくタブレット端末の充電も可能で、魔石も1度に4個まで入れることができるんだ。しかも使い終わった魔石は消滅してゴミが残らない」
ざっくりだけど、F級魔石1個あたり、単3乾電池約10個分かな?
電池の物価が上がったとはいえ、魔石を売って乾電池を買った方が、エネルギーとしては得だ。
だけど……
「このゴミが出ないってのが良いな」
「それよりも、これだけ小さくて24000mAhは、凄いでしょ?」
「武藤さん、これの重さは?」
「魔石抜きで140グラムだ」
「ほう、軽いですね」
みんな、そう思うよな。
「値段は10万円だけど、探索者の減税には適用されない」
10万円か……余裕で買えるけど高いな、高いんだよな?
「武藤てんちょ、そのでかいのは?」
三廻部は、大きい方に興味が移っているようだ。
「これは、ダンジョン探索用蓄電池『DM2000』と『DM5000』だ」
大きさは俺が買った『マジックバッグ』でぴったりと、入るくらいのサイズで、薄型なのが『DM2000』で厚みがある方が『DM5000』だといいのだろう。
残念だが、蓄電池には詳しくないから、色々説明されても理解できない自信はある。
「性能を聞いて驚いてくれ。この『DM2000』は容量2000Whで、出力がなんと1000W、たったの4時間で充電が完了でき、重さはたったの7㎏だ」
やっぱり解らん、1つだけわかったのは合計電流が10Aの電化製品まで使用できるってことだな。
この中で詳しく理解してそうなのは、1人くらいだ。
「うちで、1台ポータブルバッテリーをレジャー用に買ったけど、それよりもこれの性能は倍くらいで大きさは半分くらいだ……凄いな」
「半間、それはいくらで買ったんだ?」
「えっと……6万円ちょいだったかな」
「で、武藤さんこれは?」
「うっ……よ、40万円だ。だけど小型の発電機並みの出力があって、これだけ軽いのは常識破りだよ。それにリチウムイオンのバッテリーより劣化が遅いとまでは判ってるんだ」
「マジックバッグを持ってれば、半間さんのやつ3台買った方が便利じゃないっすか?」
3人組の意見が辛辣だ。
「もともと、これは一般にも使えるよう開発された性能なんだ。本格的なダンジョン探索用のはこれだ!」
もう1つの蓄電池に手をかざし、自慢げな表情を作る武藤さん。
でも、一般用ならなおさら売れない気がするぞ。
「『DM5000』は容量5000Whで出力なんと3000W。重量は15㎏、弥くんが持っている中サイズのマジックバッグにすっぽり入る便利な設計になっているんだ。これ1つ持っていれば、ダンジョンの深層にだって安心して入っていける。現在自衛隊がもう一段階高性能のバッテリーがあるんだけど、アイテムショップに出回るのは、もう暫く先の話だ」
「ふぅん、凄いのは判るんだけど、どう凄いのかピンとこないですね、武藤てんちょ」
三廻部の言葉を待っていたかのように、武藤さんはメモを取りだし熱く語った。
「このダンジョン用蓄電池は、スマホ600台分もの充電能力をもち、IHクッキングヒーターで4時間の料理が可能だ。この大型LED電球(20W)を5個灯けっぱなしにても、50時間も持つんだ」
商品説明ってより、新商品の自慢に聞こえてきた。
武藤さんってこんなキャラだっけか?
「武藤さん、昔に戻ってるっすよ」
少なくとも、3人組の探索者は昔からの知り合いみたいだ。
「で、これの値段は150万だ。自衛隊はダンジョン用トランシーバーと『DM5000』より更に性能の良いバッテリーを用意してダンジョンに入ってるんだ」
3人組は、蓄電池を見ながら、腕を組んだり悩んだりしている。
「これがあれば、深層階の遠征も夢じゃないっすね」
「だが、役に立つメンバーが後3人は欲しいな」
3人組は、三廻部をチラッと見る。
三廻部も相当強い探索者ってことなのかな。
話だけ聞いていると、今は買わないけどいずれ買おうってことになったみたいだ。
俺は、マテリアルバッテリーを買ってみることにした。
最後は、国の方針で初期モンスターの攻略ガイドブックってのが、発刊されるかもって聞いた。
俺は試し刷りしてある一部を見せてもらったが、ダンジョンに潜る前に見せてほしかった情報だった。
説明会も終わり、解散することになったので
魔石を電力に変換する、マテリアルバッテリーだけ買って家に帰った。
昼頃に翠ちゃんがコボルトスパイスとモンスター肉を使った料理を作ってくれるから、掃除でもして待とう。
家の200メートル手前でウロウロしてる翠ちゃんを見つけた。
◇
◇
◇
時は少しもどり、弥が帰った直後の武藤探索店。
「三廻部くん、最後に覗いたろ? そうやってスカウトする探索者を探してるのだろうけど、もう趣味の域まで来てるね。で、彼は弥君はどうだった?」
「…………軽戦士、レベル15……名前を見て思い出した。あいつ同窓会の時の奴だ……あの字は『わたる』って読むのか」
「へぇ、じゃ同い年なのかい?」
「…………」
(はっきり覚えてないが、職業が軽戦士のやつなんていなかった……どういうことだ?)
「あれぇ三廻部君、聞いてる? 三廻部」
「…………」
(六角橋弥か、覚えておこう)
ステータス
ネーム……三廻部
レベル……22
ジョブ……治癒士
ヒットポイント……660
ストレングス……110
デクスタリティ……88
マジックポイント……220
スキル……回復魔法3、看破2、物理防御2、魔法防御1
パッシブスキル……なし
コレクション……なし
設定上、存在するけど、出場しない職業
魔法士……攻撃魔法2つ
魔法戦士……攻撃魔法2つ、剣技
大魔法士……攻撃魔法3つ、MP半減
勇者……剣技、物理防御、魔法防御、攻撃魔法(光)、限界突破
プロット作成時に、作りました。