【三十二階層】翠ちゃんクッキング
寝坊した。
昨夜はなぜか寝付けなくて、深夜まで掃除をしてしまった。
お陰で、約束の時間まで後15分。
掃除と銭湯に行っておいてよかった。
着る服を考えてモタモタしていたら、来客を告げるチャイムが鳴る。
ぐわぁ、キッチリ5分前!
しっかりしすぎだよ。
待たせるわけにもいかないので、とにかく玄関のドアを開けて出迎えた。
「こんにちは………………」
『こんにちは』で止まった翠ちゃん。
今、翠ちゃんの頭では、俺の分析が始まっているのだろうか?
「それでは、モンスター肉のお礼としまして、モンスター肉料理を作りますね(その様子ですと全く緊張していないです。緊張したの私だけですか?)」
オシャレしたわけでない普段着なのに、ものすごく可愛い感じがする。
居間まで案内して、お茶を用意する。
さりげなく翠ちゃんの視線があちこちを向く。首ごと動かさないで、気づかれないように色々見ている感じだ。
俺の気配を感じると視線がこっちに向く。
「美味しいお茶ですが、煎れる人がたいしたことないから、期待しないでどうぞ」
「ふふ、はい頂きます…………んっ美味しい!」
翠ちゃんを驚かせたか、さすが四谷さん秘蔵の茶葉。
些細な世間話をした後、翠ちゃんが調理に入る。
「手伝わなくていいの?」
「はい、ゆっくりしててください(一緒に居られたら失敗するから)」
「翠ちゃん、少し庭に行くからいなくても気にしないでくれ」
「はぁい!(その方が料理に集中できます)」
小規模になった家庭菜園で、水をやりながら、手の掛からない野菜を考えていた。
世話も終わって、居間に戻ると翠ちゃんがフローとフェイによられていた。
「あっ、言い忘れてた。家には猫がいるんだ。ブラウンの娘がフローで、グレーの娘がフェイって言うんだ」
「はい、猫が居るってのは聞いてます。なんか肉を焼いていたら、やってきて」
誰から聞いたんだ? って光太郎しかいないか。
翠ちゃんと光太郎って、俺のことを色々話しているのか?
フローとフェイは俺を見つけると、こっちにきて
両側に陣取り、翠ちゃんをじっと見ている。
「な、なんか見られてる?」
「き、気にしないで翠ちゃん。そのうち慣れてくるから」
フローとフェイは翠ちゃんを警戒してはいないようだけど、じっと見つめることが多かった。
かまってほしいのかな?
それから、翠ちゃんが食事を運ぶ合間に、フローとフェイに話しかける。
「フロー、フェイ。後で肉をちゃんとあげるから、今は我慢な」
「なぁぁ」
「ニャァ」
どうやら、納得してくれたみたいだ。
俺もフローとフェイのことが、よく分かるようになったが、この娘らの理解力は物凄い。
フローとフェイも探索者になったからなのだろうか。
「お待たせしました」
翠ちゃんが出来上がった料理を運んできた。
俺はあわてて、飲み物を用意する。
「手の込んだ料理はひさしぶりだな。頂きます」
「はい……頂きます」
頂きますと言った翠ちゃんだが、僕が食べるのをじっと見ている。
緊張するんだけど。
翠ちゃんが作ったのは、肉料理のフルコース。
モンスター肉入りのサラダ。
モンスター肉が入ったスープ。
モンスター肉を薄く切って、ロースト風にして、玉ねぎとポン酢が添えてあるもの。
シソの上にモンスター肉のサイコロステーキがのせてある。
茶碗蒸しもあるけど、きっとモンスター肉が入っているのだろう。
そして、メインはモンスター肉のハンバーグだった。
順番に食べていく。
あまりに美味しいので、見つめられていることも忘れて食べた。
ふと気がつくと、翠ちゃんがすごく嬉しそうにしている。
なんでだろ?
どのメニューも、普通の店で出てる物より美味しく感じた。
これがモンスター肉の効果なのか。
だけど、モンスター肉をそのまま焼いた物より、感動が少ない。
だけど、モンスター肉は塩が一番相性が良かった。
そうふたつのメニューを除いて。
このサイコロステーキは、俺が食べていたモンスター肉(並)より美味しい。
シソだけで、こうも変わるのか?
いや、香りが違う。
シソに隠れているが、美味しさを引き出しているのがまだある。
「これは……ごま油?」
「正解です弥さん。色々試したんですけど、ごま油をごく少量、シソに垂らすことで美味しさを引き出せました。どうですか?」
「ああ、凄いよ翠ちゃん。うちに欲しいよ」
「えっ?」
俺は翠ちゃんの疑問符の意味に、気づかないで、ハンバーグをもう一度じっくりと食べる。
ハンバーグにはチーズが入っていた。
それが、この美味しさを実現させているのだろうか。
翠ちゃんも四谷さんと同じ仕事をしていたら、絶対に指名していただろう。
「ハ、ハンバーグの方は分かりましたか?」
そう聞くってことは、美味しさの秘密はチーズだけじゃなさそうだ。
だけど、いくら食べても判らない。
チーズの種類にこだわりがあるのだろうか?
「ゴメン、これはわからないや」
「これには、微塵切りにした茄子を混ぜているんです」
ビックリしたそんなことでモンスター肉を更に美味しくできるなんて。
「欲しい……」
「なぁ……」
「ニィ……」
翠ちゃんを半ば尊敬の眼差しでみていたら、目を逸らされた。
ちょっとじっくり見すぎたかな。
そこで、ある場所で翠ちゃんの視線が固定された。
「えっ……ス、ラ、イ、ム、ゼ、リー?」
えっ、なんだって!?
翠ちゃんはスライムゼリーを知っていたのか?
いや、今のは物を見て読んだ感覚と似ている。
俺が鑑定をして見たようにだ。
まさか翠ちゃんは『モンスター鑑定』の他に『アイテム鑑定』まで持っているのか?
ステータス
ネーム……六角橋 弥
レベル……18
ジョブ……一般人
ヒットポイント……394
ストレングス……53
デクスタリティ……71
マジックポイント……106
スキル……回復魔法3、火魔法2
パッシブスキル……早熟、アイテム鑑定、消費MP半減、転職
コレクション……孤児補正、双子補正、四兄弟補正