【隠し階層3】ガルシア・アレハンドロ
閑話です。
ストーリーには影響ありません。
なので、翌日にも1話更新したいです。
今回、定例の会合場所で、ガルシア・アレハンドロという名の探索者が、講義をするために参加した。
「皆サン初メマシテ、私ガ『ガルシア・アレハンドロ』デス。今日ハ世界各国ニ出現シタ『ダンジョン』ニツイテ私ノ見解ヲ発表シマス」
多少聞き取りにくい日本語であるが、気にならないほどには巧く話している。
「単刀直入ニ言イマス。『ダンジョン』とは、意志アル者カラノ贈リ物デ間違アイアリマセン」
この発言に、何名かの参加者が言い返す。
「贈り物だと!? ふざけるなっ! いったいあの『ダンジョン』のせいで何れだけの被害が出たと思うんだ!!」
「そうだ! 世界中にあるダンジョンのせいで、25億人以上の人々が死んだのだぞ!」
「それに意志ある者とは、どういう意味だ?」
口々に罵声を浴びせられる、ガルシアだが、まるで意に介していない様子だ。
「良カッタジャナイデスカ。人類ガ悪役ニナラズニ済ミマシタネ。コノママ人口ガ増エ続ケレバ、イズレ人類ハ滅ブカ、共食イノ道ヲ歩ンデイタコトデショウ。ソレニ『ダンジョン』ハ意志アル者ガ創造シタコトハ明白デス」
「どういう事だ?」
ガルシアはこの説明をするのは、日本以外の国での話だが、5度目だった。
また、この説明をするのか、なぜ国のトップが無能揃いなのか半分呆れていた。
「『ダンジョン』ノ出現場所ヲ考エレバ一目瞭然ナノニ何故解ラナイノデスカ? 先ズ『ダンジョン』ハ『中国』ト『インド』ニ現レタ。次ニ『インドネシア』『ブラジル』『アメリカ』ニ出現シマシタネ。ナニカワカッタコトハ?」
ガルシアの挑発に一部の人間があっさり乗ってしまう。
「馬鹿にしてるのか、我々は名のある大学のトップクラスで卒業した者ばかりだ!」
「そうだ! 今の世界人口の多い国順に言っているだけだろ。その後は、パキスタン、ナイジェリア、バングラディシュ、ロシア、日本、メキシコ、フィリピンにダンジョンは出現した」
「人口の多い国にダンジョンが出現したのが、何故意志あることになるんだ?」
ガルシアは教養と知恵は別物だなと、改めて認識しつつ説明をする。
「人口密度デ『ダンジョン』ガ出現スルノナラバ、コンナコトハ言イマセン。自然発生ノ可能性モ捨テキレマセンガ『ダンジョン』ハ人口ノ多イ国順ニ出現シタノデス。スナワチ『国境』ヲ把握シテイルトイウコトデス」
「あっ」
「なっ」
「つっ」
「……」
ここにいる者はみな、日本の南端にある無人島に出現したダンジョンを思い出していた。
「解ッテイタダケマシタカ? ナノデ『ダンジョン』ハ意志アル者ノ贈リ物ダト、考エタノデス」
ここに集まった者全てが、沈黙してしまった。
この後も、ガルシアは独創的な説を発表していた。
「………………以上デスガ何カ質問ハ?」
「ならば聞こう、意志ある者からの贈り物だとすると、ダンジョンをこれからどうすれば良いのか解るか?」
ガルシアは笑いながら答えた。
「ククク、ソレハ神ニデモ聞イテクダサイ。タダシ、全テノダンジョンヲ制覇スレバ、ヒントクライハ分カルカモシレマセンネ」
ガルシアの意地悪な講義は終了して、一転まともな講義を始めた。
それは、スキルで解明されていなかった部分に触れていた。
噂で語られていた『パッシブスキル』の実証や、謎の補正値についても語っていた。
「最後ニモンスター肉ニツイテ私ガ独自ニ調ベタ結果ヲ報告スル」
その話に一同は少なからず落胆をした。
何故なら、アメリカに次いで二番目を争うほど、日本のダンジョン研究は進んでいたからだ。
「モンスター肉ハ、美容、長寿、健康ニ役立ツガ、タッタヒトツダケ大キナ副作用ガアル。ソレハ急激ナ『レベルアップ』ニヨル肉体ノ破壊デス」
「…………」
「…………」
「…………」
その程度のことは日本でも、予想はしていた。
ただ、証明できなかっただけなので、ガルシアの言葉に沈黙で答えた。
「検証ノ結果、一度ニレベルガ2ツ以上、上昇スルト、肉体ヤ精神ノ破壊ガ確認デキマシタ。探索者デナイ者ハ『レベル0』ト仮定シテイマス」
この話を聞いて、このガルシアという男は何人の人体実験を繰り返したのだ? 聞きたかったが、話の続きを聞くために我慢した。
「不思議ナ事ニ、探索者デナイ者モ肉体ト精神ヲ鍛エテイレバ、死ナズニスミマシタ。不思議ナ実験結果デシタ。シカモ低レベルノ探索者ニ『モンスター肉(最上)』ヲ与エテモ死亡シマス。知ッテマシタカ?」
「アア私モ直ニ見タカッタ……レベルガ上ガリナガラ死ンデイクソノ姿ヲ。アッ、興味ガアルナラ『ステータス看破』ノスキル持チナラダレデモ見レマスヨ『レベルガ上ガリナガラ死ヌ』ソノ瞬間ヲネ。私ハ別ノ仕事デイマセンデシタガ……」
「ガルシアァ! お前はいったいどれだけの人を犠牲にしたんだ!」
この中で、正義感に強い者が怒鳴りだす。
それを聞いてもガルシアは怯むどころか、別の意味で驚きをみせる。
「日本トハ素晴ラシイ国デス。ダンジョンガ出来タ国家デ、コレダケ人権ヲ語ル国ハナイデショウ。ヨホド探索者ノ選定ニ力ヲ入レタノカ……次ハ日本人ヲ研究シテミルカ……」
(探索者の犯罪が世界一少ない国『平和ボケの日本』なのに対ダンジョンの科学力は二位、探索者の強さも世界第三位と聞く……絶対に裏で何かしているな。やはり侮れない)
……
…………
ガルシアが講義を終えて退室した後も、議論がなされていた。
「まさか、A鑑定の正体は『アイテム、モンスター、文字、自分のステータス』が見れるとは……」
「そのガルシアのステータスに『双子補正』があったとは」
「ガルシアが嘘を言っている可能性は?」
「それはないだろう。現に、強いとされる『一般人』の探索者は、特殊な家庭環境の者も多いのだ。我々も分析すれば補正値の秘密を知ることが出来るだろう」
「お前たち、何を言ってる!? 重要なのは他国では、人体実験を行なっている事実が確認された事なんだぞ! このままでは日本は取り残されてしまう」
そこで、いままで一言も発していなかった、人物が声を出した。
「君、これ以上の発言はまずいな。ここは日本なのだよ? ダンジョンの出現国で一番治安が安定してる、誇るべき国なのだ。問題発言は控えて欲しいものだ」
(この男は、アメリカで非公式に研究を任せているチームの指揮を任せよう。丁度前任者がストレスで倒れたところだ……タイミングがいいな)
「諸君、私は忙しい。後の議論は任せた」
(早速、行動に移そう)
そう言って、この男はこの場を去ったが、足取りは軽やかだった。