【三十階層】ボクサーウサギ攻略戦
今日も自宅の地下4階を狩場にして探索している。
ようやくボクサーウサギを安定して倒せるようになったが、1対1って条件がある。
少しずつ、戦いが楽になってきている気はするけど、成長を感じられない。
木曜日、地下4階であちこち狩りをしていたら、入り口に似た建物を見つけた。
このような建物を見つけたのは、もう10回目になる。
今まで建物の中は、休憩に適した大部屋だった。
ここも同じだろうと思ったが、警戒しつつ進んで覗き見ると、ボクサーウサギが1、2、3……8体もいやがった。
その奥には、見える範囲では他の出入り口はない。
感じとしては下階に降りられる部屋に似てるけど、扉はない。
8体のボクサーウサギと戦うには、今の俺たちじゃ荷が重い。
俺たちは、スキルを使わないと4体以上のボクサーウサギと戦うのは厳しい。
今は諦めて地道に、強くなるのを待とう。
ボクサーウサギに気づかれないように、移動しようとした時、何かを叩く大きな音がした。
音の方を振り向くと、2体のボクサーウサギが樹を叩いて、音を出していた。
ドジった、部屋にいる相手に気づかれないように集中してたら、外から接近してきたボクサーウサギに気づかなかった。
音に反応した、部屋の中にいたボクサーウサギにも気づかれ、こちらに向かってきた。
まずい、逃げるか? でも半分囲まれてる。
フローとフェイならば余裕で逃げられるだろうが、俺はどうなんだろう。
スキルを使いまくって、凌ぐか……
だが、この迷いが俺の選択肢を狭める。
ボクサーウサギの包囲網が完成しつつある。
「ニャニャッ!(硬壁!)」
俺の盾を中心にピンクの防御壁が展開された。
俺全体じゃなく、盾にだ。
フェイは、こんなことも出来たんだ。
以前フェイが使ったのは、俺の周り全体を囲う壁。
森林コンビの片割れが使ったのは、トイレ扉を塞ぐ壁。
今のスキルは盾をスキルで大幅に強化したと考えていいだろう。
フェイは俺に戦えと訴えているんだ。
その考えに至った時には、フローとフェイは動き出していた。
「火球LV2」
先ずは1体仕留めた。
俺の方に来たのは3体、フローとフェイにも3体ずつ襲ってきてる。
初手の瞬発力は俺の方が上だ、ボクサーウサギの1体を剣で切りつけて、反撃を貰わないように全力で回避する。
盾を使うのはギリギリになってからだ。
しかし、集中力が増しても3体同時攻撃には、上手く対処できない。
盾での防御を余儀なくされる。
苦しい、もう一度攻撃魔法を使うか?
まだ使えるよな?
「にゃにゃん」
フローの鳴き声がしたので振り向くと、フローと戦っていたボクサーウサギが、フローと一緒に乱入してきた。
そしてボクサーウサギの攻撃を1人で受け持った。
防御スキルで、盾の防御範囲が強化されていたので、全ての攻撃を防ぎきることが出来た。
すると、フローは挑発するように4体のボクサーウサギに攻撃して、ヘイトを稼ぐ。
「ニャンニャ!」
今度はフェイだ。
フェイがボクサーウサギの攻撃を、俺に擦り付けてきた。
パリーン!!
ピンクの防御壁が砕けた。
だが、今の俺の前にはボクサーウサギが1体しかいない。
よく解らない展開だが、今がチャンスだ。
全力で目の前の1体を倒す!
少々無茶をしたから、2回ほど殴られたけど深刻なダメージにはなっていない、俺の耐久力は確実に上がっている。
「ニャニャっ! (硬壁!)」
ボクサーウサギを倒したところで、フェイが防御スキルを使いつつ、俺にボクサーウサギを押し付ける。
防御スキルによって、防御範囲の広がった盾で、ボクサーウサギ攻撃を全て防ぐ。
攻撃速度がリセットされると、フェイのネコパンチ乱舞だけが炸裂する一方的な展開になる。
もちろん、俺に1体残して離脱する。
「ににゃっ!」
フローもフェイと同様、ボクサーウサギを連れてきた。
相手の攻撃を防ぐと、1体残して俺から距離をおく。
あの娘ら、頭が良すぎないか?
俺が盾役をするように、自ら動いて戦法を変えたのに、以前よりずっと効率的な戦い方を実践してくれた。
「火球LV1」
少しでもダメージを受けていれば、火球LV1の攻撃でボクサーウサギは消滅する。
気が付けば、ボクサーウサギは半分に数を減らしていた。
2回目の防御スキルも消えたけど、かろうじて対処できる。
フェイもそれを知ってか、3回目の防御スキルは使わない。
もしかしたら使用限界なのかもしれないが。
ボクサーウサギも徐々に数を減らしていく。
だが、ボクサーウサギは怯えたり怯んだりしない。
感情もないし、死体も残らない。
意思のある生命体とはかけ離れてる気がする。
証拠に残り1体となっても、モンスターの行動は変わらない。
最後はフローとフェイがボクサーウサギの首に噛みついて消滅した。
た、倒した。
10体のボクサーウサギをなんとか倒した。
ゴゴゴゴゴゴ……
扉のない部屋だったのに、下階に降りる階段が出現した。
扉がある部屋だけとは限らないのか。
使ったスキルは、火魔法LV1とLV2が1回ずつ
で、回復スキルは治癒(小)と(微)で済んだ。
おそらく、もう一度同じことが出来る。
「フェイ、今と同じスキルをもう一度使えるか?」
「にゃぁにゃっ」
どうやらもう使えないらしい。
それじゃ、今日のところは帰るか。
それ以降、ボクサーウサギとの集団戦が劇的に楽になった。
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金曜日は買い出しの日だ。
今日は探索者用の握力計を、探してみようと思う。
いつもの『武藤探索店』に行くと、品揃えが先週よりも多かった。
そういえば少しずつ拡大中って言ってたような。
「こんにちは、ここに探索者専用の握力計とかはありますか?」
「いらっしゃい、握力計かい? ちょうど3日前に高性能な握力計が入荷したところだ」
高性能? 握力計に性能の違いなんて物があるのか?
そういえば、ホームセンターでも値段の違いが凄かったような。
いや、今は目の前の握力計だ。
「はい、握力計を買わせてください」
武藤さんは、奥に行ったと思ったら、握力計を持って直ぐに戻ってきた。
「弥くん、この計測器は誤差が大きくてね、握力が50㎏以下の人は数値が計れない。力が弱すぎるからね」
握力50㎏で弱すぎって、さすが探索者用だな。
「後は、最低メモリが5㎏だから、正確な数値は測定できない。で、この10万円の握力計が1000㎏まで計れて、先日入荷したこれは、2000㎏まで計れる握力計で50万円もする」
握力計に10万や50万とか、いい加減おかしいだろ。
「武藤さん、50万円の握力計なんて需要あるんですか? 握力1000超えなんてあり得ないでしょ?」
武藤さんは、ふっと軽く微笑んでから説明してくれた。
「弥くん、自衛官でもトップレベルの探索者は1000㎏を超えるんだよ。素手で野生の動物より遥かに上を行くんだ」
自衛隊って滅茶苦茶だな。
その手の人たちには、扱いに気を付けよう。
「じゃ、その10万円の握力計を下さい」
「毎度。…………そうだ弥くん、1つ良い知識を教えるから、ここで握力を計ってくれないか?」
俺は、ここで握力を測定することにした。
べつに武藤さんに頼まれれば、交換条件なんていらなかったけどね。
何か、店に来ていた他の人も、気になったみたいで、チラチラとこっちを見る。
「測定結果、見ます? 俺の数値は期待しないでほしいんだけど」
わりとフレンドリーに話して、手招きする。
面倒だけど、嫌な視線から、普通に見られてる感じに変わった。
頑丈な感じの握力計を握りしめ、思いきり力を入れる。
デジタルメーターの数値がガンガン上がって、ある数値で止まった。
その数値は『220㎏』となっていた。
すげぇ、光太郎の言っていた180㎏オーバーは間違いじゃなかった。
「凄いね弥くん。その域に達すると市販の物じゃ計れないかな」
このあと、他の人にも握力計を使ってみてもらい、2人が買っていった。
「まいどぉ」
あれ、武藤さんの作戦勝ちか?
武藤さんには、自衛隊の人たちは普通の探索者と違って『軽戦士』って職業があるって話を聞いた。
数年間特殊な訓練を経た後、探索者になると特殊な『職業』が備わるって話だった。
武藤さんの知識だと『一般人』『軽戦士』『戦士』『農耕士』『学士』『鍛治士』『治癒士』の職業があるって話だった。
俺は治癒士なのかと思ったが、そんな経歴はないので『一般人』なのだろう。
『一般人』だけ、職業がカッコ悪い仕様になってるのが気になる。
だけど、こればかりは仕方ない。
あと、握力計での数値は探索者としての強さとは直結しないって言っていた。
俺に力があるからって油断してはいけないよって教えてくれたみたいで、ちょっと嬉しい。
明日から2日間は、光太郎、翠ちゃんとダンジョン探索だ。
そろそろ、ソロでGモールと戦ってもらうか。
甘やかしては、強くなれないからな。
翌朝、家を出て駅まで歩くと、翠ちゃんが改札口前で立っていた。
ステータス
ネーム……六角橋 弥
レベル……18
ジョブ……一般人
ヒットポイント……394
ストレングス……53
デクスタリティ……71
マジックポイント……106
スキル……回復魔法3、火魔法2
パッシブスキル……早熟、アイテム鑑定、消費MP半減、転職
コレクション……孤児補正、双子補正、四兄弟補正
次回は土曜日に閑話を、
日曜日に続きを投稿予定。




