【二十九階層】駅近ダンジョン4回目
改稿のおしらせ。
【二十八階層】の話で、弥の握力測定の描写が、ごっそり抜けていたので追加しました。
それに伴い、握力計の測定限界を180㎏に変更しました。
昨日より一時間早めに待ち合わせをして、ダンジョンに潜った。
フローとフェイは、今日もGモール狩りをしている頃だろう。
「今日は覚悟しておけよ光太」
「えっ? だって弥が倒してくれるんじゃないのか? 」
「そういう意味の覚悟じゃない。翠ちゃん、ちょっとだけ頑張ってくれ」
そう言って、俺は軽く走りを始める。
「えっ?」
「あっ待て」
翠ちゃんと光太郎も戸惑いながら付いてくる。
この遭遇率の低い駅近ダンジョンで、なるべく多くのモンスターを倒すには、探索者の少ない階層に行くか、長い距離を移動することだ。
だから俺は走って走っては走りまくって、Gモールを早く見つけようと思う。
幸いGモールは索敵能力が低い、曲がり角以外はガンガン進んでやるぞ。
手始めに2体のGモールと遭遇した。
俺に気づいて突進するが、勢いがつく前に盾で突き飛ばし、もう1体を剣で切りつけ、返しで突き刺す。
粒子となったGモールには目もくれず、残りのGモールも2回の攻撃で消滅した。
念のため、周囲を警戒してから魔石を拾い、また走る。
次は5体のGモールを見つける。
1人で5体は練習の時以来だな。
「光太、一応警戒しておけよ」
討ち漏らしたときのことを想定して、光太郎に注意を促す。
以前に練習して、Gモールを単独で相手にしたときよりも楽になってる。
力が上がったのか、武器が強くなったのか。
Gモールを倒しては走り、走っては倒していた。
ちょうど遭遇した3体のGモールをたおした後、光太郎から驚いた声が聞こえた。
「あっ……スキルを覚えた……うおおおお! やったぁスキルを覚えたぜ弥!」
「やったな光太」
「おめでとうございます、光太郎さん」
俺もスキルを覚えたときは、テンション上がったからなぁ。
「ところで、どんなスキルなんだ?」
「おう『限界突破』ってスキルだ」
「……は?」
驚いたファンタジー感丸出しの恥ずかしいスキル名だ。
翠ちゃんをつい見てしまう。
翠ちゃんと視線が合うと、首をフリフリする。
「初めて聞くスキルですね。次に遭遇したら試してみては?」
そうだな、昼御飯を食べたら、光太郎にスキルを使って戦ってもらおうか。
俺は、腕時計の針が12時を示すまで走り続けた。
出入口が1つしかない部屋を見つけて、食事休憩にする。
「疲れただろう? 食事にしよう」
今回は一緒に食べたいから、前日翠ちゃんに聞いたダンジョンでの食事の取り方を実践してみた。
ただ、通路に判りやすく鈴の鳴るトラップを、仕掛けるだけなのだが。
探索者なら『食事中』と直ぐに気づくので、一緒に食事になるか、そっと他の場所に移動するらしい。
モンスターなら、そのまま鈴を鳴らしてしまうって話なのだ。
ただ、教えてくれた翠ちゃんも、休憩中にモンスターと遭遇したことはないらしい。
2人に気をつかって聞いてみたけど、戦ってる時よりスタミナの消耗はないみたいだ。
「弥さん、光太郎さん、私も強くなったのかも知れません」
「翠ちゃんもスキルに目覚めたのか?」
光太郎の言葉に首を横に振って答える。
「スキルは覚えてません。ですが、Gモールの動きが、遅くなったように感じましたので」
なるほど、それじゃ食後の一戦目は光太郎にやらせて、二戦目は翠ちゃんに戦ってもらうか。
「光太、次にGモールが出てきたら、スキルを使って戦ってみるか?」
光太郎も待ってましたとばかりに、ニヤリとする。
「とうとう俺の出番か……弥、驚くなよ?」
食事休憩の後、うまい具合に単独のGモールを見つけた。
「来たぜっ! 俺の時代が! このスキルで俺は探索王になる!!」
光太郎が調子に乗ってる、落とし穴の予感がする。
「限界突破Ⅰ」
光太郎が叫ぶから、Gモールに見つかって突進攻撃をしてきた。
「鈍い、はぁ!」
なんだと!?
光太郎は俺の真似をして、盾ではらうように殴る。
Gモールは突進の勢いを完全に殺されて、床に転がる。
「たぁ!」
光太郎は大きく蹴りあげ、Gモールを壁にぶつける。
またしても真似をしやがった。
「1、2、3、4……死ねぇ!」
4回切りつけた後、思いきり突き刺した。
Gモールは何もさせてもらえず、消滅してしまった。
俺が探索者に目覚めて、Gモールを圧倒した時よりすごいぞ?
スキル『限界突破』……あの顔といい、主人公体質な奴だ。
本気で呆れた。
おまけに滅多に出ないモンスター肉までドロップしやがった。
「……」
翠ちゃんも絶句してる。
「スゲー! あんなに強かったモンスターに圧勝!! 今なら弥にすら勝てそうだ。よし、走って次のモンスターを探すぞ! 俺に付いてこい」
調子に乗った光太郎は、ダンジョンの奥へと走っていってしまった。
しばらく光太郎を追いかけると、2体のGモール
と遭遇する。
「はっはっはっ、俺の剣の錆となれぇ!」
なんて光太郎は言ってるが、モンスターの血では錆びないんだけどな。
今の光太郎なら、2体のGモールくらい楽勝だろう。
倒すのを見計らって、釘を刺してやるか。
「ごあっ!?」
突然光太郎の動きが悪くなった。
スキルの効果が切れたか。
いや、それにしても動きが悪すぎる。
あわてて光太郎を助け、Gモールを消滅させた。
スキルが切れた後の動きは、初めてGモールと戦わせた時のような鈍さだった。
「ぜーぜー、何故だ急にGモールが強くなったぞ。それに急激に疲れた気がする」
解った、光太郎のスキル『限界突破』には副作用があるみたいだ。
「なんとなくわかりました。光太郎さんのスキルは持続時間が約10分で、効果が切れると反動で弱くなってしまうみたいですね」
さすが翠ちゃん、俺の心を読むだけでなく、光太郎のスキルまで看破してしまうとは。
光太郎の弱体化も10分程度で元に戻り、しばらく俺が狩り続けた。
だいぶ乱獲したので、次からまた2人に相手をさせようと思う。
Gモールを見つけて、1体残しにして押し付けるようにする。
「よし、戦ってみて」
「ようし、限界突破Ⅰ」
あっバカ……それじゃ訓練にならないじゃん。
しかし、光太郎の動きは変わらなかった。
しかも、そのせいで隙を生み出し、突進攻撃を受けそうになったけど、翠ちゃんが上手く対応してくれた。
翠ちゃんも強くなった。
Gモールの突進攻撃をいつも以上に上手く処理している。
恐らく、パワー負けしていないんだ。
速さもきっちりと見切っているから、安心して見学していられる。
もしかしたら既に翠ちゃん1人で倒せるのでは?
と思った。
だいぶ俺1人で狩りまくったから、残りの時間は2人に戦わせた。
もちろん、2対1でだけど。
地上に戻ると、光太郎がニコニコしながら、握力計を持ってきた。
「俺、強くなったぞ。弥、翠ちゃん見てみな……どりゃぁ!」
恥ずかしいから、そんな声を出さないでほしい。
なんでこんなのがモテるんだ?
顔か? 口か? 頭も良いし運動神経も良いしな……
「やった、握力84もあるぜ。弥に感謝だな」
と言って翠ちゃんに握力計を渡す。
翠ちゃんにも計ってもらいたいのか。
たしか翠ちゃんは前回、80くらいあったんだっけか……光太郎のやつ大人げないな。
「……んっ……わっ、また強くなってます」
デジタル握力計の値は『91』と、表示されていた。
「ガーン……また負けた、また負けた……」
2人とも確実に成長している。
それに比べて、今の俺はどうなんだろうか?
ボクサーウサギとの戦いは、楽になってきているが、身体能力が上がった感覚はない。
うまい戦い方を思いつき、それを実践出来るようになっただけだから。
「俺ももう一度計ろかな?」
「……弥さんは、探索者用の握力計を使った方がいいかと」
「なんで?」
「お前みたいな化け物だと、俺の握力計が握りつぶされてしまう」
「は?」
2人揃って、何を言ってんだ?
だけど翠ちゃんの説明で、やっと話が理解できた。
光太郎が買った握力計では、最大で180㎏までしか計れないってこと。
それなら近いうちに探索者用の握力計を、買ってみるかな。
おっと、その前に。
「一段落ついたから、魔石とモンスター肉を山分けしよう」
来週末も光太郎たちと、駅近ダンジョンに行く約束をしてしまった。
光太郎たちとの探索は、遊びみたいで楽しいんだよな。
俺は、フローとフェイの待つ自宅に帰った。
ステータス
ネーム……一関 光太郎
レベル……5
ジョブ……一般人
ヒットポイント……100
ストレングス……10
デクスタリティ……15
マジックポイント……20
スキル……限界突破1、光魔法0、再生0
パッシブスキル……EXP補正2倍
コレクション……なし
ステータス
ネーム……七瀬 翠
レベル……4
ジョブ……農耕士
ヒットポイント……100
ストレングス……12
デクスタリティ……12
マジックポイント……20
スキル……攻撃力上昇0
パッシブスキル……農業、モンスター鑑定、EXP補正1.2倍
コレクション……なし
光太郎のステータスも安定化してきました。
今ならレベルでわり算できます。
上がり方がおかしかったのは、光太郎の地の能力が高すぎたからです。
これで、気づく方もいるでしょうが、
探索者は、マッチョな一般人探索者もガリガリニートな一般人探索者も、レベル6くらいになれば、能力値は拮抗してしまうという不条理が発生します。