【二十八階層】駅近ダンジョン3回目
30話連投ミッション、完了です。
駅近ダンジョンに出かけるまえに、フローとフェイが『にゃーにゃー』『ニャーニャー』うるさかったので、どうしたのか聞いてみると、元風呂場であるダンジョンの入口に連れていかれた。
今日は行けないと伝えても、納得してない雰囲気だ。
時間をかけて、コミュニケーションをとっていたら、なんとなくフローとフェイの言いたいことが解ってきた。
「もしかして、俺がいない間は暇だから、ダンジョンに潜りたいってことか?」
「にゃっ」
「ニャッ」
どうやらそのようだ。
俺より強い娘たちだから、大丈夫だとは思うけど、狩りに行くのは地下1階だけにしてもらった。
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フローとフェイに家ダンジョンをまかせて、駅近ダンジョン前の広場で、翠ちゃん、光太郎と待ち合わせをしていた。
早く来たから俺が一番乗り……じゃなかった、翠ちゃんがすでに待っていた。
「翠ちゃん早いね、待ったかな」
「いえ、今来たところです」
なんかデートの待ち合わせみたいだな。
しかし、気を引き締め直して、教官モードにならなければ。
「待たせたな。さあ、狩りまくるぞ」
光太郎がやってきた。
ロッカーで着替えていると光太郎が、どや顔で話しかけてきた。
「弥、今日は良いものを持ってきたんだ」
と俺に見せたのは握力計。
なるほど、握力の数値でレベルアップを確認しようというのか。
なんで今まで思い付かなかった?
「ってわけで、翠ちゃんと合流したら測ってみようぜ。今まで我慢して測らなかったんだからな」
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翠ちゃんと合流した時に、この事を話したら、珍しく恐い微笑み方をしていた。
「面白い考えですね、私も興味あります。ボソッ……特に弥さんの数値が」
最後の方は聞き取れなかった。
他の探索者の迷惑にならないように、少しだけ移動してから、光太郎が握力計を握りしめる。
「どうだった? 光太」
「……たったの65だ……」
握力の平均値って、男性でも50弱だったよな。
「いや、強い方じゃないのか?」
「だって、昔、大学のサークルで測ったときは、62だったぜ? まるで成長してないじゃん俺……」
たしかに。
でも、光太郎は元から力が強かったのか。
「私もやってみます。……んっ………………わっ、うそ」
翠ちゃんが驚いているので、光太郎とデジタルメーターを覗き込む。
握力計は『80』と表示していた。
「なぜだぁ! 翠ちゃんにメッチャ負けてんじゃん。超ショック!!」
「翠ちゃん、あれからダンジョンに出掛けた?」
「いえ、先週末以来です。でも私、強くなってました」
嬉しそうな翠ちゃんと反対に沈んでる光太郎。
なぜこうなったのだろう、2人の違いが解らない。
「次は弥さんですね。」
「そうだ、弥もやれ。っていうかスゴく見たいぞ」
「わかった」
光太郎から受け取ったのは、ホームセンターで見かけたことがあるような握力計だ。
思いきり握りしめると、数値は『180㎏』を表示していた。
「180㎏か……すげぇな」
「もう少しで、人類の最高記録に到達しますね。探索者以外ですが……」
「おまわりさぁん、ここに危険人物がいまぁす!」
誰も聞いてないからいいものを……
気を取り直してダンジョンに潜ることにした。
Gモールと2人を戦わせていると、動きが先週よりいい気がする。
力負けはするものの、動きにしっかり対処できているから、怪我をすることがない。
時間はかかるけど、2対1なら安心できる戦いぶりになってきた。
Gモールを狩り続けていたら、光太郎に変化が出てきた。
「あれ? なんかGモールの動きが悪くなってないか?」
いや、動きに変化が出たのは光太郎の方だ。
Gモールの突進攻撃に、対応出来きてなお余裕を感じる。
「ぐわぁっ!!」
調子に乗った光太郎は、Gモールの突進を正面から受け止めて吹き飛ぶ。
……バカだ。
たが、耐久力も上がったせいか、深刻なダメージにはならない。
この後も、モンスターと遭遇する度に1体残して始末する。
これを繰り返していたら、翠ちゃんに疲れが見てきた。
「よし、終わりにしよう」
「えっ? まだ出来るぜ」
「はい、まだやれます」
やる気はあるようだけど、明日もあるからここは止める。
「いや、動きが少しだけ悪くなった。明日もあるし今日は終わりにしよう。」
ロッカーに戻って着替えていると、別の探索者グループを見かけた。
しかし、そのうち3人が知った顔だった。
あいつらは、光太郎が探索者になりたいと決意させた原因の、森林コンビとホニャララ烈だ。
あいつらも、この駅近ダンジョンを狩り場にしているのか。
睨む光太郎に対して、ばつが悪そうにしている森林コンビ、見ているとリーダーと思われる人物を気にしているみたいだ。
「うん? 君たち知り合いなのかい? それにしても、様子がおかしいね。探索者同士揉め事はご法度だよ?」
リーダー格の人がいち早く様子を察して、
光太郎と森林コンビの間に立つ。
「でも、こいつのせいで光太が、う○ち漏らしたんだけど」
俺は森林コンビに指を差す。
「漏らしてねぇよ!」
「マジか……」
「だから漏らしてねぇって!!」
俺の言葉に『アチャァ』って顔になる、森林コンビの片割れ。
ホテルのトイレは平気で塞ぐのに、なんで『漏らした』でそんな顔になる?
自分に置き換えたかな?
『まずいな』と言わんばかりの森林コンビを見て、リーダーっぽい人が俺に話しかける。
「君たち、何かあったみたいだけど、同じ探索者同士、問題は起こさないでくれないか? 僕に出来る範囲でなにか手伝うことはないか?」
光太郎は数秒沈黙したあと、リーダーをみて話し出した。
「今の森の力を知りたい。俺も探索者になったんだ。森! 俺はお前を抜いて希美ちゃんにデートを申し込む」
お前、しばらく探索者に専念するんじゃ……
まあ、パーティを組む区切りとしてはちょうど良いか。
「ボソボソ……希美ってあの……」
「そうっす、あの希美っす」
「まじか、光太郎もそっち側だったのか」
「……みたいっすね」
烈と林が、ヒソヒソ話をしている最中、リーダーは光太郎に向かっていた。
「お安いご用、と言いたいところだが、ステータス看破のない場合、探索者の強さの目安は2つしかない。1つはスキルレベル、もう1つは握力計だ。森くん」
ふてくされてる様子の森が、渡された握力計を受けとる。
「僕らのグループでは、この探索者用の握力測定器を使うんだ」
「探索者用?」
初めて聞く単語だぞ。
「なんだ初心者かよ。探索者用の握力計も知らないのか?」
握力計は武藤さんの店にもあったけど『探索者用』だとは知らなかった。
森に指摘されて、ムカっとしたけど事実だから仕方ない。
「はぁぁ!!」
森が握力計を握りしめ、気合いを入れている。
「おっ……やったぁ、強くなった……見たか、これが今のオレの力だ」
見せてくれた握力計の数値は『105』と表示されてあった。
たしか、同窓会でのバカ騒ぎじゃ『100』とか言ってたよな。
強くなってやがる。
「……ま、まあ、オレが大先輩ってことは判っただろう? これからよろしくな後輩君」
森林コンビ片割れの林が、俺に耳打ちする。
「すまん、森のやつ例の希美って女にフラれたから、荒れてんだ。でもまさか女の好みで森と被るやつがいたなんて……」
林に対して同窓会の時とは違った印象をうけた。
リーダーがいるせいなのかな。
「なに? どういうことだ?」
「希美ってのは超ポッチャリの汚ギャルみたいなやつ」
あいつか! まじか……
いたな、あのばか騒ぎの中に、一人だけ異色のせいぶ……いや女性が。
なんか、だんだんバカらしくなってきた。
あいつらのリーダーにおじぎをして『105……105』とぶつぶつ呟く光太郎を引っ張って移動させる。
そのあと、光太郎に耳打ちしする。
「光太、明日の1日は俺に時間をくれ。作戦がある」
早いこと光太郎を卒業させよう。
そして通常運転に戻ろう。
翠ちゃんと合流して、ざっくりと事情を話した。
「解りました。それで明日はどのような狩りをするんですか弥さん」
「本当はやりたくなかった手段なんだけど、光太がスキルを覚えるまで、俺がデカもぐらを乱獲する」
フローとフェイが気になるから、ごはんを食べたら、2人を置いて先に帰ることにした。
「家の用事があるから、先に帰るな。また明日」
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「ただいま」
誰もいない玄関で、帰りの合図をすると、フローとフェイがやってきた。
「にゃあ」
「ニャア」
「フロー、フェイ、怪我はないか?」
言われた通り、地下1階だけ潜っていたら、怪我をする訳がないのだけど、一応心配なんだ。
フローとフェイは無傷だったんだが、やたらと引っ張られたり押されたりしたから、ダンジョンの入り口まで、行ってみた。
そこにはかなりの量の魔石とモンスター肉が集められていた。
この娘ら、マジでネコなのか?
あんな小さい魔石をどうやって集めたんだ?
「なぁ~~ごろごろごろ」
「ナァ~~ゴロゴロゴロ」
甘えてきたので、たくさん誉めて誉めて撫でてやった。
フローとフェイとは寝るときもだいたい一緒で、左右揃って俺に尻を向けて寝る。
この娘らは、俺に何かを要求する時以外はだいたい俺に尻を向けているんだ。
たまには可愛い顔を見せておくれ。
~~~時間は少しだけ戻り、弥のいない駅近ダンジョン付近のファミリーレストラン~~~
「明日はどのようにして『乱獲』するんでしょうか? 気になります」
「そうなんだよな。いくら強くても、ギリギリ常識の範囲内なんだよ。だから想像もつかない」
光太郎は、リセットしてない『180㎏』と表示していた握力計をテーブルの真ん中に置く。
「あ、光太郎さん、この握力計の表示、右端に『E』という文字がありますけど……」
翠の言葉に、光太郎は説明書を取り出して、E表記の意味を探す。
「あったあった。なになに、このデジタル握力計の最大測定値は180㎏までで、それ以上の力がかかると『E』と表示されます……だって」
「じゃあ、弥さんの力は……」
「ああ、180㎏以上だってことだ。俺の親友はとんでもない奴だったぞ」
翠と光太郎は、カップに入っているホットコーヒーが冷めるまで、佇んでいた。
ステータス
ネーム……一関 光太郎
レベル……4
ジョブ……一般人
ヒットポイント……80
ストレングス……8
デクスタリティ……12
マジックポイント……16
スキル……限界突破0、光魔法0、再生0
パッシブスキル……EXP補正2倍
コレクション……なし
ステータス
ネーム……七瀬 翠
レベル……3
ジョブ……農耕士
ヒットポイント……75
ストレングス……9
デクスタリティ……9
マジックポイント……15
スキル……攻撃力上昇0
パッシブスキル……農業、モンスター鑑定、EXP補正1.2倍
コレクション……なし
次回は、火曜日か水曜日の予定です。
ただ今、【41話】の下書きをしています。