【三階層】フローとフェイ
今回は、ネコ視点の話です。
少しだけむかしのこと。
ワタシたちは、狭いダンボールの部屋で、鳴いていたの。
寒くて、お腹が空いて、動くことも出来ない。
ワタシたちの鳴き声も周りに伝えるためでなく、ただただ生きているのが辛くて、鳴いていたの。
その鳴く力すら無くなりかけた時、ふわっと部屋ごと持ち上がった気がしたの。
ワタシたちは何かの気配を感じて、最期の力を振り絞ってたくさん鳴いたの。
『寒くて、冷たくて、お腹が空いてるの、助けて』と。
次に気がついた時は、ワタシたちを抱きしめて、大きな生き物が泣いていたの。
『ごめんね、助けられなくてごめんね』って。
気がついたら、ワタシたちは2つになっていたの。
今なら分かるけど、あの時のワタシたちは5つだったの。
そして、大きな生き物は温かい食べ物を持ってきてくれたの。
そして暖かい部屋まで持ってきてくれた。
そこはフカフカで、とっても気持ちいい場所なの。
その時やっと目がしっかりと見えるようになって、大きな生き物を確認したの。
今なら、あの大きな生き物が『人間』って生き物だって理解できるけどね。
ワタシたちは、小さな部屋から出て遊べるまで、元気になったの。
今なら分かるけど、ワタシたちを助けてくれた人間の名前は、ワタルって言うの。
そして、ワタシたちに名前をくれたの。
ワタシたちの名前は、『フロー』と『フェイ』
でも当時は『フロー・フェイ』だと思っていたの。
元気になったら、シロって名前のお爺ちゃん犬が、先輩として色々教えてくれたの。
ある日、シロが『老衰』とか言う病気で死んじゃったの。
意味は解らなかったけど、ワタルが泣いていたから悲しい事なの。
ワタシたちは、ワタルを泣かせないために死なないようにしなくちゃいけないの。
またある日、ワタルは家族が死んで、また泣いていたの。
でも、ワタシたちが慰めたら、元気になったの……よかったの。
そして、またまたある日、ワタルが水浴び場で変な動きをしていたの。
来ちゃダメって言ってたけど、ワタルが帰ってこない予感がしたから、ついて行くの。
今まで見たことがないほどの、大きな大きな道を歩いていたら、ワタシたちより大きな生き物がいたの。
一目で判った事は、アレは敵で強いって事なの。
ワタルは『逃げろ』と言ったけど、逃げたら2度と会えない気がしたの。
やっぱり、ワタルは殺されそうになったから、助けに入ったの。
でもね、ワタシたちは負けちゃったの、アレはとっても強かったの。
ワタシたち死んじゃうの? ワタシたちが死んじゃったら、ワタルがまた泣いちゃう……死にたくない……。
そう強く願ったら、不思議な場所にいたの。
ワタシたちは水色の綺麗な部屋にいたの。
(ここはどこ? ワタルはどこ? )
『ようこそ、始まりと終わりの場所へ。小さな探索者さん』
声の方を振り向くと、人間みたいだけど人間じゃない者がいたの。
(この人は、ダレ?)
『ぼくの事かな? ぼくはただの案内人だよ。 この部屋は【悠久の迷宮】で初めてモンスターを倒した者に開かれる【覚醒の間】だよ』
(えっ? ワタシたち、おっきな生き物に負けたはずなの)
『それはね、止めを刺さなくても、与えたダメージと受けたダメージの合計割合が一定以上なら、モンスターが倒された時、6人以内のパーティに限り、倒したとカウントされるんだ。同時に止めを刺した場合でも、あまりにも与えたダメージの比率が少ないと探索者にはなれない。解ったかな、小さな探索者さん』
「探索者?」
『そう! 探索者は、モンスターを倒す度にレベルが上がり、強くなっていくんだ。 先ずは君のジョブを見よう……面倒だから、一緒に見ようか。 はい!』
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ネーム……フロー
ジョブ……ネコ
レベル……1
HP…………10+46
STR……1+22
SPD……4+22
INT……1+22
MID……1+22
MP…………2+46
補正…………孤児補正、5つ子補正、5兄弟補正、ネコ補正
スキル……なし
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ネーム……フェイ
ジョブ……ネコ
レベル……1
HP…………10+46
STR……1+22
SPD……4+22
INT……1+22
MID……1+22
MP…………2+46
補正…………孤児補正、5つ子補正、5兄弟補正、ネコ補正
スキル……なし
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『ボクは何十億と探索者を見てるけど、ネコって生き物が探索者になるなんて初めての事だよ。でも、補正項目が孤児、5つ子、5兄弟って、どれだけ強くなるんだ? 能力値だけで見ると、速度以外は23倍で速度も約6倍か。HPも12倍以上だし、MPも24倍……ははっ、これって凄いや』
そう言えば、この部屋に来てから、色々な事が理解できるの。ワタルのことも、安心するから大好き程度の認識が、何故ワタルが大好きだったのかよく解るし、ステータスの数値も理解できるの。
『これだけ強くなっても、迷宮の下層に行けば無惨に殺られてしまうんだ。だから攻略するなんて不可能に等しいよね。 でも安心してね、ここはスキルを与える部屋なんだから』
不思議な人間の隣に、回転してる丸いものが2つ突然現れたの。
『僕が君たちの代わりに、ルーレットに向かってダーツを投げるからね、最初はスキルの回数を選ぶんだ。さあ投げるよ』
不思議な者はダーツを投げたの。
ダーツはルーレットに刺さり、回転は遅くなってきたの。
『あっちゃぁ、スキルの取得数は1つから4つなんだけど、ついつい4つのスキルを狙っちゃった』
的の配分を見てると、4割、3割、2割、1割みたいなの。
その一番ちっちゃい場所にダーツは当たったの。
そして、また2つのルーレットが回り始めたの。
『さあ、今度はスキルの種類を選ぶからね、今度は的を見ないでダーツを投げるよ。1投目!』
2本のダーツが、回転してる的に当たるの。
『んっと、フェイちゃんは【物理防御】で、フローちゃんは【魔法防御】のスキルを手にしました』
(そんなスキル、どうやったら使えるの?)
『そのスキルは、使用できるレベルに達したら自然と覚えられるよ。発音は関係ないからね。【物理防御】は、【壁】【硬壁】【石城壁】【魔城壁】【真魔城壁】等を、心で念じながら叫ぶと発動する。【魔法防御】なら【防御膜】【障壁】【魔障壁】【結界】【大結界】 だね。 それぞれレベルにみあった、リキャストタイムがあるから気を付けてね。 理解できたかな?』
ワタシたちは肯定したの。
何故だか、この不思議な人間の話す意味を簡単に理解できるの。
『じゃ、2投目いくよ!』
ダーツは吸い込まれるように、的に刺さる。
『ふうん……フローちゃんとフェイちゃんは仲良く【悪食】のスキルを手にいれました。実はさ、4足歩行タイプの探索者に多く備わるスキルなんだ。効果はモンスター肉を食べた時に、得られる経験値が2倍になるんだ。ただし、一切れ以上食べないとダメだからね。まあ【悪食】のスキルは、別名【大食い】とも言うし、心配しないでいいよ。 因みにアイテム鑑定でも表示されないモンスター肉の効果があってね、それは美容と長寿なんだ。 ダンジョン発祥の世界では当たり前だったから、非表示になってしまったんだって』
長生きできるの? モンスター肉って、美味しいのかな?
『では、3投目……それっ!』
目で追うのがやっとの速度で、的に当たるの。
『ちょっとまた同じスキル? えっと今回は【成長2倍】のスキルが手に入ったよ。 これはレベルアップしたときの、ステータス上昇値が2倍になる大当たりのスキルなんだよ。大概成長効果上昇は【1,2倍】か【1,5倍】だからね。このまま成長すれば、スピードスターになれるね、ただ上昇限界はあるから全部が2倍になるとは限らないよ』
(その、スキルの使い方は?)
『【悪食】と【成長2倍】はスキルを常時発動型のパッシブスキルだから、唱える必要はないし、MPも消費しない。それじゃ最後のスキルを決めよう。やっ! …………4つめのスキルはフローちゃんが【ドロップ確率2倍】に、フェイちゃんは【モンスター遭遇率2倍】だね。これもパッシブスキルだよ。スキルの説明は必要かい? 』
(ううん、理解したの。大丈夫なの)
『そう、それじゃお別れだね。最後に大事な事を言うよ。迷宮に戻ると、人間はね、この部屋での記憶は無くなってしまうからね。それじゃ頑張って……あれ? 人間?』
そうして気づいたら、ワタルが側で寝ていたの。
ワタルもあの部屋で、スキルを貰っているのかな?
ワタシたちは、あの部屋での記憶が残ってる。
けど、不思議な人間が言うには、ワタルには部屋での記憶はないと思うの。
ワタルをじっと見つめていたら、何かしらの力を感じる。
ワタルも力を、スキルを貰ったんだね。
ねぇ、ワタル……3人でたくさんモンスター肉を食べて、長生きして3人で幸せに生きるの。
でも、ワタルを大好きな人間がいたら、長生き仲間に入れてもいいの。
ワタシたちはワタルを、舐めて起こすの。
ワタシたちが、この幸せをずっと続けるための冒険が、これから始まるの。
ステータス
ネーム……フロー
レベル……1
ジョブ……ネコ
ヒットポイント……56
ストレングス……23
デクスタリティ……26
マジックポイント……48
スキル……魔法防御0
パッシブスキル……悪食、成長補正2倍、ドロップ確率2倍
コレクション……孤児補正、五つ子補正、五兄弟補正、ネコ補正
ネーム……フェイ
レベル……1
ジョブ……ネコ
ヒットポイント……56
ストレングス……23
デクスタリティ……26
マジックポイント……48
スキル……物理防御0
パッシブスキル……悪食、成長補正2倍、モンスター遭遇率2倍
コレクション……孤児補正、五つ子補正、五兄弟補正、ネコ補正
ここまでが、プロローグ的なものです。
スライムさんの登場はまだまだ先の話です。
注:スライムさんは味方になりません。