【二十五階層】探索者レストラン
お知らせです。
30話連続投稿後の更新を週に2~3回に変更いたします。
思い付きだけで突っ走るのはちょっとムリが出てきました。
でも、下書きだけなら40話まで出来上がってます。
「いいのか? 奢ってもらって」
ダンジョンから出た俺たちは、近くのレストランに入った。
しかし、ここのレストランはファミリー向けと言うより、探索者向けのレストランだ。
他のレストランとの違いは、座席の広さだ。
座席と座席の間にウエポンケースを置くスペースが設けられている。
そこで、光太郎と七瀬さんは食事を奢ってくれると言う。
1度は遠慮したんだが、2人とも押しが強くて奢ってもらう流れになった。
メインの料理を食べ終わったところで、ポテトフライをつまみながら、今日の反省点を言い合う。
「…………って訳だから、もう少し上手く立ち回って倒してほしいんだけどな」
と、ついつい愚痴っぽくなる。
「だけどよ弥、あのデカモグラ、速いし、重いし、恐ぇし、簡単にはいかないぜ」
「はい、すみません。でも明日はもう少し上手く出来そうな気がします。はっきりとは分かりませんが、なんとなく強くなった気がします。後、言い忘れていたのですが、私に常時発動型のスキルが身に付いたようです」
「なにっ!」
「えっ!?」
俺と光太郎が驚く、ダンジョン内でそんな素振りは……あっ、1度だけ初動の遅かった時があったな。
しかし、スキルを自覚できるスキルと言えば……
「はい、お気づきの通り、モンスターの名称が分かるスキルでした」
「気づいてねぇし」
「気づいてねぇし」
誰もが七瀬さんみたいな洞察力、あるわけないだろ。
七瀬さんのスキルは、おそらくモンスター鑑定と言ってもいいだろう。
僕はアイテム鑑定って名付けたから、そんなネーミングでいいだろう。
「翠ちゃん、見えるのはモンスターの名前だけ? それだったら少し残念だよな。あまり役にたたないぜ?」
女性に対してズケズケと指摘する光太郎。
もう少し気づかいとか出来ないのかな。
「見えたのは眼に力を入れた時です。『Gモール、ランク1、単純な攻撃しかしない』と表示されてました」
「おおっ、役にたつじゃん。なぁ、このまま3人チームを組まないか?」
このカップルに俺1人混ざっても、そのうち居づらくならないだろうか。
でも、3人でダンジョン探索か……息抜きには良いのかもしれない。
「ふふっ、そんなのもいいですね。でも3人では、そのうち行き詰まると思います」
俺、フローとフェイの3人(匹)で頑張ってます。
「でも翠ちゃん、かなりダンジョンの事に詳しいね。そこんところは聞いてもいいのかな?」
俺も七瀬さんの知識の豊富さと実力のアンバランスには、興味があるな。
七瀬さんは気にする問題でもないのか、簡単に教えてくれた。
「私の実家は農家なんです。でも農家になってから10年と少しくらいですが。深谷辺町って場所に住んでいました」
確か、俺たちが通った高校から一時間くらい離れた町だったか?
「待て、深谷辺って言ったら、去年ニュースでやってた……」
光太郎が町の名前に反応する。
俺には心当たりがない。
「六角橋さん、スタンピードは知っていますよね」
思い出した! 去年、県内でスタンピードの被害があった土地の名前だ。
まさか、七瀬さんの家族は……
「はい、お2人の想像どおり、実家はスタンピードの被害に遭いました。もう少しで軌道に乗るはずだった家業は廃業に追い込まれて……両親も……」
まずい……聞いていられないくらい、重たい話だった。
彼女は、両親の敵を取るために探索者になったのかも知れない。
「……両親も転職を余儀なくされました」
えっ? 転職!?
「翠ちゃんの家族は無事だったのか?」
光太郎ナイス! 俺もそこんところを聞きたい。
「はい、幸いにも自衛隊の方々が直ぐに来てくれまして、奇跡的に死人は1人も出なかったんです。でも農地は荒らされてしまって……」
「保険とか入っていなかったの?」
「通常の保険には加入していましたが、モンスター被害に対しては微々たるものでした。ですが、国の補償金と合わせたらかなりの金額になったみたいなので、ダンジョンの近くに家を建て、準公務員の管理者として暮らしています。それが3ヶ月前のことです」
あれっ? なんか、想像とはかけ離れた結末なんだが……
「……金銭的に収入は悪くなった?」
「いえ、農業より良くなったと言ってました」
「……何か、変化したことは?」
「そうですね……姉を管理者にして旅行に行ってました。後、余った土地でコインパーキングと探索者用のアイテムショップを作ったので、取られる税金が増えたと、ぼやいていました」
「……そうか」
俺の心配した思いを返せ!
「それでも、私たち家族の思い出は、荒らされてしまいました。それで、実家近くのダンジョン一階層で、八つ当たりできるくらいの力が欲しくて、探索者を目指したんです」
うん、余計な心配してしまったが、動機は俺なんかよりずっとましだ。
俺の動機は『肉と金』だからな。
ただ、ここのダンジョンで気になることが1つあった。
それはモンスターのドロップするアイテムの確率が低いことだ。
22体のGモールを倒してモンスター肉はたったの2個だけだった。
自宅のダンジョンならば、4個か5個はドロップするのに。
あとは、あれだけダンジョンを練り歩いたのに、遭遇するモンスターは少なすぎるのも気になったな。
他の探索者も狩りをしているから仕方ないのだろうが、とにかく効率が悪い。
「六角橋さん、どうしたのですか?」
俺が考え事をしていたのを、七瀬さんが聞いてくる。
七瀬さんの洞察力は恐ろしい。
「あ、いや、明日はどうやってモンスター狩ろうかと」
「まて、弥、翠ちゃん。俺たちはもう命を懸けた仲間だろ?」
いや、まったく命懸けじゃないが……
「だからお互い、もう名前で呼ぼうぜ」
俺と七瀬さんはお互いを見つめる。
なんとなく気恥ずかしい。
「それに、六角橋なんて言いにくいだろ?」
「……はい、それでは弥さんと呼びますね」
ああ、なんかちょっと嬉しい。
「じゃ、み、翠さん」
「光太郎さんと同じでお願いします」
「さすがに、恥ずかしいんだけど」
「光太郎さんと同じでお願いします」
本気で恥ずかしいんだけど。
「光太郎さんと同じでお願いします」
俺の心の声にまで反応する七瀬さん。
わかった、人を名前で呼ぶくらいなんでもないよ。
「すぅ~、翠ちゃん!」
「はい」
笑顔で返事をする七瀬さん、いや翠ちゃん。
凄くいい。
「ああ、なんか俺も彼女とダンジョンデートを、したくなってきたな」
「そういえば、光太はあてがあるのか?」
よくよく考えてみたら、狙いの娘は別の名前だったな……たしか『希美』とか言ってたかな。
「いや、今はいい。少なくとも俺もスキルを覚えて『一人前』になってから考える」
翠ちゃんと光太郎の話だと、一般の探索者たちの間では、スキルを使えるようになると一人前の探索者扱いになるみたいだ。
「なら明日は、早く一人前になれるようにビシビシ鍛えてやるからな」
「うえぇ」
「はいっ」
◆
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そして、翌日。
着替えた俺たち3人は、ダンジョンに潜っていった。
ステータス
ネーム……六角橋 弥
レベル……16
ジョブ……一般人
ヒットポイント……354
ストレングス……49
デクスタリティ……65
マジックポイント……98
スキル……回復魔法3、火魔法2
パッシブスキル……早熟、アイテム鑑定、消費MP半減、転職
コレクション……孤児補正、双子補正、四兄弟補正