【二十四階層】七瀬と光太郎、探索者になる
蹴りを含めて、たったの2撃でGモールを倒してしまった。
たまに起こる『会心の一撃』があったのだろう。
さすがの七瀬さんも理解が追い付かず、目を大きく見開いたまま。
「弥、すげぇな。なんだよ、ダンジョン超初心者は命を落とす可能性があるって聞いたのに、弱いじゃないか」
「いえ、一関君が思うほど弱くないはずです。たぶん、六角橋さんの力かと。聞いたことがあります、一部のモンスターに特化した常時発動スキル、それかも知れません」
えっ? 常時発動スキルなんてあるのか?
そういえば、『鑑定系』以外にもパッシブスキルが存在しているって、書き込みを見たような。
「光太、次はもう少し手加減して送るから、気を引き締めてくれよ。俺も最初は死にかけたんだからな」
「お、おう解った」
見慣れた景色の通路をしばらく歩いていく。
なかなか出てこないな、やっぱり他にたくさん探索者がいると、遭遇率も悪くなるんだなぁ。
「六角橋さん、あなたが強いのは解りましたが、油断はしないでくださいね」
七瀬さんは、超能力者なんだろうか。
読心術とかのスキル持ちなんじゃないのか。
しばらく歩くと、ようやくGモール3体と遭遇した。
「3体とも俺が引き付ける、頃合いをみて1体そっちに送るからな」
「お、おう」
「は、はい」
Gモールを単独で相手をする。
この程度なら、自分の家で何度も戦った。
纏わりつく雑草を、払うように捌いて、2体を倒した。
最後の1体は、盾で2回殴ってから、光太郎に向かうように蹴り飛ばす。
Gモールはうまい具合に、標的を変えて光太郎目指して突っ込んでいく。
光太郎は俺よりも運動神経がいいし、装備もしっかりしている。
少々苦戦はするかも知れないが、倒せるはずだ。
Gモールの突撃を真正面で受けた光太郎は、尻餅をついた。
助けに行くのはまだ早い、じっくり見極めないと。
と見ていたら、七瀬さんが横から援護して、武器で切りつける。
しかし、力がないせいか、刃が少しめり込んだ程度だった。
「キャッ」
七瀬さんはGモールに突き飛ばされ、悲鳴をあげる。
そのまま七瀬さんを襲うようなので、助けに行こうとしたけど、思いとどまる。
「どりゃあ!」
光太郎の剣がGモールに突き刺さる。
浅くない、いい剣の入り具合だ。
光太郎はそのまま体ごと押し込み、七瀬さんを助ける。
調子に乗った光太郎が、俺の真似をしてGモールを蹴る。
「ぐぁっ、痛い!」
痛みに呻く光太郎……バカだろ。
七瀬さんは援護に入り、光太郎が体勢を整えて攻撃する。
見ていてハラハラする。
光太郎に疲れが見えて、もう助けた方が良いかなって思ったら、Gモールが光の粒子になって消えていった。
通路の前後を見て、モンスターがいないのを確認したあと、光太郎に駆け寄りハイタッチする。
バチン!!
「いってぇ!?」
「ごめん、手加減はしたんだが」
多分嬉しくて、手加減しきれなかったんだろう。
「おめでとう光太。どうだ? 強さを実感できるか?」
光太郎は自分の体をまさぐったり、武器を振ったり、ジャンプしてみる。
「いや、解らん。体は軽い感じがするけど気のせいかも」
そうか、俺の時は劇的にパワーアップしたけど、Gモールと再戦するまで判らなかったもんな。
「七瀬さん、大丈夫? 回復スキルを使うよ」
「ありがとうございます、貴重なスキルを使わせてすみません」
他人行儀な七瀬さんに些細な不満を感じながら、スキルを使う。
「治癒(微)……えっ?」
七瀬さんの傷は全く癒えなかった。
「…………」
七瀬さんも不思議そうにしている。
だけど俺は確信に近い予想をした。
七瀬さんはまだ、真の探索者になっていないんだと。
回復ポーションは、探索者以外が飲んでも効果が現れない。
回復スキルも同じ事なんだろう。
七瀬さんに少し質問をしてみよう。
「七瀬さん、ダンジョンには今まで何回くらい潜ってる?」
「は、はい。今回で4回目です」
素直に返答する七瀬さん。
「で、モンスターに止めを刺したことは?」
「はい、1回あります」
「それってもしかしたら、瀕死のモンスターだったりした?」
「!! やっぱり、ある程度ダメージを与える必要があるんですね」
質問するだけで、七瀬さんは答えにたどり着いた。
むしろ、これだけ頭がいいのに、なんで今まで気づかなかったんだろう。
「六角橋さん、私は回復スキル持ちの人とパーティーを組むのは初めてなんです。回復ポーションも高価過ぎて、重傷の人にしか使いません」
なるほど、俺もフローとフェイが探索者として物凄く強くなった理由も分からないしな。
試しに、光太郎がどうなったのか確認しよう。
「光太も怪我をしてるよな?」
「ああ、足とか肩とか尻とか痛いな」
「そうか治癒(微)……どうだ?」
光太郎は驚き、体を色々動かす。
その後、キラキラした瞳で俺を見ながら叫んだ。
「スゲー! スゲーよ弥!? その回復魔法はスゲーって」
回復スキルな。
それより、自分が探索者になったことより、俺のスキルを喜ぶのか。
それと、課題がひとつ増えてしまったな。
「次は、七瀬さんだけど、まだ戦えるかい?」
「はいっ!」
七瀬さんの瞳の力が強くなった気がする。
あくまでも『気がする』だからな。
しばらく歩くと、1体のGモールを見つける。
今度は盾で2回殴った後、七瀬さんと共闘する。
「七瀬さん、こっち」
「はいっ」
七瀬さんはGモールを切りつける。
七瀬さんの武器は、相手の肉体に浅くしか刺さらないけど、数を繰り返していれば、いつかは倒せるはずだ。
七瀬さんが体勢を崩す度に、押し出すようにGモールの邪魔をする。
Gモールは、ある程度の攻撃には対処するが、基本は猪突猛進だ。
基本は七瀬さんに任せて、まずいと思った時だけ妨害している。
……
…………
恐らく5分くらい経っただろう。
七瀬さんはまだGモールを倒せていない。
手を出しすぎると、探索者になれない可能性があるけど、七瀬さんが持ちそうにない。
そろそろ我慢の限界だ。
もう少し手助けしようとしたら、七瀬さんに睨まれた。
なんか、フローやフェイと被る。
七瀬さんの気持ちは切れていない。
それでも、体力の限界がきたのか、七瀬さんの攻撃が流れて空振りとなり、大きな隙を見せる。
まずい……Gモールはもう少しで倒れるはずだ。
ならば……
七瀬さんに向かってきたGモールを、体で受け止めて、噛みつき攻撃は右腕を犠牲にする。
さすがに痛いが、咬み千切られるほどじゃない。
「七瀬さん、今だ!」
七瀬さんは大きく振りかぶって攻撃し、Gモールに止めを刺した。
光の粒子となって消えたGモール、俺はパチンコ玉程度の魔石を拾って、七瀬さんに渡す。
「はい、おめでとう七瀬さん。ようこそ探索者へ」
七瀬さん顔が急に赤みがさした。
あれ? 怒らせちゃったかな?
「まだ、探索者になったかどうかは判りません。方法はあるのですが、そんなことのために大切なスキルを使ってもらうのも気が引けます」
そうか、見た目で判別できる証拠がないから、探索者と決めつけるのは早いか。
「治癒(微)……どう?」
軽傷でも見た目で判る怪我をしていた七瀬さんの傷が癒えていく。
聞くまでもなかったか。
「あ、ありがとうございます。重傷でもないのに貴重なスキルを使わせてしまって」
「気にしない、気にしない」
今の俺ならば、モグラ相手にピンチになるイメージが浮かばない。
それにスキルは、失敗も含めてたったの3回しか使っていない。
「この調子でどんどん狩ろう。もう大丈夫だと思うけど、念のため2人で1体を相手にしてくれ」
これが、甘い考えだったとは、直ぐに気づいた。
光太郎と七瀬さんは、2人がかりでもかなり苦戦していた。
結局、俺がほとんど狩ることになって、2人が止めをさせたのは2回だけだった。
ステータス
ネーム……一関 光太郎
レベル……2
ジョブ……一般人
ヒットポイント……40
ストレングス……6
デクスタリティ……6
マジックポイント……14
スキル……限界突破0、光魔法0、再生0
パッシブスキル……EXP補正2倍
コレクション……なし
ステータス
ネーム……七瀬 翠
レベル……2
ジョブ……農耕士
ヒットポイント……50
ストレングス……6
デクスタリティ……6
マジックポイント……12
スキル……攻撃力上昇0
パッシブスキル……農業、モンスター鑑定、EXP補正1.2倍
コレクション……なし