【二十二階層】駅から近いダンジョンへ
2回目のモンスター肉(上)を実食する時が来た。
今回は買ってきたモンスター肉じゃなく、俺たちがモンスターを倒して手にした肉。
同じ肉なのに、こうも食べる前の気分が違うとは。
今回の調味料は『焼き肉のタレ』『高級で目の粗い塩』『ニンニク醤油』『コボルトスパイス』
焼き方は、封を外したばかりの時は必ずレアにしている。
焼く匂いを嗅いでるだけで、涎を垂らすような、いい香りをだしている。
フローとフェイが足元に絡んできて、すり寄ってくる。
ほとんど体当たりに近い威力だ。
一口サイズに切って、一口目はそのまま食べる。
脂身があるのにしつこくなく、口の中に溶けていく。
肉本来の味だけで満足してしまうほどだ。
焼き肉のタレをつけて、もう一度食べる。
恐ろしいことに、タレの味が邪魔をして肉の良さが少し霞んでしまう感じがする。
モンスター(並)では、分からなかった感覚だ。
粗塩を振り掛けて三口目を頂く。
美味い! あら塩はモンスター肉(上)との相性は良いらしく、引き立て役を担っている。
次はステーキで一番好きだったニンニク醤油。
美味い……けど、調味料なしで食べたモンスター肉(上)を10点とするなら、ニンニク醤油も10点にするだろう。
もし、食べ飽きることがあるなら、ニンニク醤油もありだなと感じる程度だった。
最後は、コボルトスパイス。
「にゃんわんにゃん」
「ワンニャンニャン」
フローとフェイが鳴きながら食べている。
たしかに、このまま転げ回りながら食べてしまいたいくらい美味い。
何より食感と香りまで格段に良くなっているんだ。
やばい、早く食べなれないと依存してしまいそうだ。
自宅で採れた野菜もコボルトスパイスを振り掛けて食べて、舌をリセットする。
実は、生姜にコボルトスパイスを振り掛けて食べると、しゃきっとさっぱりして、舌のリセットが出来るんだ。
まあ、俺だけかもしれないけど。
今のフローとフェイは、調味料なし又はコボルトスパイスの2択で食べている。
他のキャットフードを食べてくれないか心配だったが、一応食べている。
そんな訳で、巨大なウサギこと、ボクサーウサギを定期的に狩って、これを主食にすることに決めた。
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モンスター肉(上)をドロップするボクサーウサギを倒し始めて5日目、レベルアップを自覚した。
理由は回復スキルの三段階目『治癒(中)』を使えるようになったからだ。
これで俺のスキルは『治癒(微)』『治癒(小)』『治癒(中)』『火魔法LV1』『火魔法LV2』の5種類となった。
今までの戦闘で『治癒(微)』『火魔法LV1』しか使っていないから、余裕があると言ってもいいかも知れない。
強さは慣れてきたのか、力が上がってきたのか判別出来ないけど、あのボクサーウサギも回復スキルを使えば、楽勝になってきた。
ボクサーウサギの体力はかなりあると想像出来る。
何故なら『火魔法LV1』一発では消滅しないからだ。
でも、ギリギリ消滅しない程度で、あと2回剣でぶっ叩くとボクサーウサギは消滅してしまう。
明後日が、光太郎と街中にあるダンジョンに行く約束をした日だから、明日は増えすぎた魔石とアイテムを売りに行こうと思う。
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市役所の地下にあるアイテムショップで、モンスター肉(並)、コボルトスパイス、スライムゼリーを売ったら、285万円にもなってしまった。
少なくとも、2ヶ月弱で前職の年収を軽く超えてしまった。
フローとフェイのおかげで、ここまで来られたのだ。
この娘たちには感謝しなければ。
この後はいつもの『武藤探索者店』にお邪魔して、魔石の買い取りをしてもらう。
「いらっしゃい……おお弥君かい、奥で待ってるかい?」
武藤さんは接客中だった。
俺は遠慮して、ショーケースを見て時間を潰した。
……
…………
「今日は、魔石1000個でお願いします」
「…………わかった」
今の間はなんだったんだろうか。
答えは魔石を鑑定している最中に判った。
「いやぁ、私も感覚がおかしくなったみたいだ。1000個の魔石で一瞬少なめだなって思ってしまった。考えたら前回の換金から1週間も経ってない」
(たしか1ヶ月前は、1400個で2週間だったよな。このペースなら2週間で2000個は軽く超える。ものすごい成長速度だ)
なんだ、そういうことか。
武藤さんに分かってない事を聞いてもいいのだろうか?
「お……私の魔石を集めるペースが早いって、武藤さんの知ってる探索者たちは、どのくらいのペースで稼いでいるんですか?」
自分で言っておきながら、イマイチな質問だな。
武藤さんは少し考えてから答えてくれた。
「稼ぎはピンからキリまであるさ。但し私の知ってる探索者は、専業の探索者で週に多くて3回くらいで、空き時間に探索してる副業の人は週に1回か2回だよ。あと1チームだけ週に4回探索してるけど、彼らは例外だな……普通じゃない」
「えっ!?」
思わず声に出してしまった。
俺がその例に入らないってのを吐露したようなもんだ。
「おや、弥君はもう少し頻繁にダンジョンに入っているのかい?」
もう、暴露してしまおう。
「はい、週に6回、平均で6時間くらい潜ってます」
「へっ? はぁぁ!? 」
武藤さん、凄い驚いた顔をしてる。
俺が異常だったのか。
「わ、弥君。そんなにダンジョンに入って身体は持つのかい?」
「はい、結構神経を使うので、前職の半分程度の時間しか潜ってません。それに怪我は回復スキルで治ってしまうから」
「あっ、なるほど……回復のスキル持ちか、良いスキルを持ってるね、納得したよ。それでも週に6回は多いと思うぞ。その週に4回探索してるチームも回復スキル持ちがいるんだ」
その後、結構武藤さんと話し込んで『マジックバッグ』の事を説明されて、強く勧められたので、ちょっと、お高い値段のマジックバッグを買ってしまった。
価格は値段が1ヵ月前の値段で売ってくれたんだ。
その値段は、なんと200万円にもなる。
今の価格は210万円で売っているらしい。
武藤さんが言うには220万円で売る日も近いって言っていた。
理由は、一般の富裕層がマジックバッグを求めて買っているかららしい。
今のところ、探索者しか買えないマジックバッグだけど、犯罪歴さえなければ誰でも探索者登録は出来るし、個人の転売の規制はしているが、抜け道はあるようなので、金さえあれば、手に入れるのは難しくなさそうだ。
武藤さんのところで買った容量5倍のマジックバッグ(中)を使って、明日は光太郎とダンジョン探索だ。
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俺の住んでる場所から一番近いダンジョンは、2つ隣の駅から歩いて10分程度の近場にある。
この駅からダンジョンまでの道のりは、区画整理されていて、片道二車線の道路と両側に3メートルを超える歩道がある。
そのまま進んでいると、大きな建物、その周囲に巨大な立体駐車場、待ち合わせしやすい立地の広場があった。
広場には7色の巨大な傘のオブジェがあって、 光太郎とは青色の傘がある場所で、待ち合わせになっている。
待ち合わせ場所には光太郎だけでなく、何故か七瀬さんの姿もあった。
ステータス
ネーム……六角橋 弥
レベル……16
ジョブ……一般人
ヒットポイント……354
ストレングス……49
デクスタリティ……65
マジックポイント……98
スキル……回復魔法3、火魔法2
パッシブスキル……早熟、アイテム鑑定、消費MP半減、転職
コレクション……孤児補正、双子補正、四兄弟補正