【二十階層】 動機
注意事項があります。
2019年4月12日、8時に大幅改稿を、いたしました。
改稿部分は、森林コンビの犯罪を嫌がらせ程度に修正しました。
『探索者になりたい』
光太郎が酔っぱらいながら、そんなことを呟いていた。
「光太、探索者は命がけらしいぜ。酔いを醒まして、明日考えな」
光太郎のことを考えて、そう答えた。
その時、後ろから女性の声がした。
「一関君、大丈夫? あっ」
振り返ると、駅を出たところの階段で会った、あの女性だった。
目が合ったが、どんな言葉をかけて良いか解らない。
「こ、こんばんは。あの時はありがとうございました。一関君の友達だったんですね」
「はっ、初めまして、六角橋です。光太、光太郎の知り合いでしたか」
初めましてと言った瞬間、睨まれた気がしたが、何でだろう?
「……はい、高二で同じクラスでした。一関君、飲み過ぎたみたいだから、どこかで休ませないと」
ああ、そうだな。
こんな時は、どこに光太郎を突っ込むか。
結局カラオケボックスに2人で連れていき、道中で彼女の名前は『七瀬』だと聞いた。
彼女が光太郎の狙っていた、幹事の女性か……確かに見た目も良いし、酔いつぶれてる光太郎を見捨てない優しさもある。
頻繁に彼女を取り替える奴だが、今回は当たりかも知れないな。
光太郎を見ていると、複雑な感情がわき上がり、水を飲ませる手が乱暴になってしまった。
「ちょっと」
冷たい視線で睨まれた。
どうやら、光太郎をよく見てるようで、悪意が混じっていたのがバレてしまった。
「…………」
「…………」
気まずくなって、しばらくの間沈黙が続いた。
「……でも、あの光太が、あっ光太郎のことな。光太がこうなるまで酔いつぶれるなんて、何があったんだ?」
この七瀬さんを彼女にしたから、テンション上がりすぎて酔いつぶれたって言うなら、遠慮なく見捨ててやるが、そうじゃないだろう。
「……意地悪されたらしいの」
七瀬さんの意外な言葉に、聞き返してしまう。
「あの最上くん……『烈くん』って呼ばれてる人たちに、意地悪されたらしいのよ」
何だって!? でも探索者が一般の人に暴力を振るったら。
いや、その前に『最上』から『烈』に言い直した。
俺が『最上』って名字を知らないって分かった!?
「直接乱暴はしてないみたいなの。その……見た訳じゃないから解らないんだけど、トイレで進路を塞がれていたらしいの」
ん、今考えてる事を読まれたかな。
「そうだったのか。しかし、そんな事をされてるのに、何で騒ぎにならなかったんだ?」
「それは、清掃中の立て札が置いてあったみたいなの。しかも、そこには一関君しかいなくて、あの人たちは会場にいたのよ」
「う~ん……」
それじゃ、なんで意地悪されたらしいなんて噂が出たんだろう。
「直接見たって話がないから、らしいで止まったの。森君と林君の態度からみて、何かしてるのは間違いないから」
この人は、俺の心の声でも聞こえてるのか?
いや、洞察力が人一倍あるのかもな。
探索者に意地悪されて、悔しいから自分も探索者になりたいってところか。
あの光太郎がそんな考えに至ることを思うと、かなり嫌な奴らだと想像出来るな。
光太郎は回復にもう少し時間がかかるだろうから、少し出かけるか。
「七瀬さん、ちょっとトイレに行ってくる」
「はい」
「長くなるから」
「えっ? 別にそんなことは言わなくても……」
七瀬さんの言葉を背中に聞いて、俺は外に飛び出した。
不思議なことに、同窓会でのあいつらの会話は大体覚えている。
その二次会の場所に行って、奴らを呼び出した。
残念だが、3人を呼び出したのに2人しか来なかった。
「なんだよ、一関のことでってよ?」
「おれら何もしてねぇぞ、なんせ探索者だからなぁ」
この顔つきと言動だけでかなり頭に来るが、自分を殺して、よそ行きで応対する。
「ごめん、ごめん。一関がめっちゃ落ち込んでさ、泥酔しちゃってよく分からねぇんだわ。で、直接聞いた方が早いと思ってさ、いったい探索者が、悪いことしないで、どうやって一関をへこませたのか教えてくれない?」
さあ、どうでるか。
すると、森林コンビは近くの袋小路まで、連れてきた。
「ホント悪い事はしちゃいないんだ」
「ああ、ほんとうだぜ、ちょっと独り言を言っただけだ。『壁』ってな」
すると、俺と森林コンビの先にピンク色した半透明の壁が出現した。
「な? 何にもしてねぇだろ? こんなふうにトイレで大の方をちょっと使えなくしただけだ」
「閉じ込めたら犯罪だろぉ? それより、早く戻ろうぜ、おれたちがいなくちゃ場がもりあがらねぇ」
こうして、彼らは消えていった。
あまりに予想外のため、呆然としてしまった。
光太郎は物理防御スキルをトイレの入口に使われて嫌がらせをされた……でいいのか?
光太郎の泥酔する意味がわからん。
だが、森林コンビは嫌な奴だとわかった。
この壁は強く押しても、びくともしない。
あのバカヤローコンビ、こんな目立つ物を放置しやがって。
これを破壊できるのは強い衝撃だけだ。
この壁が素手でどのくらい持ちこたえるか試してやる。
狙いは考えなくていい、ただただ思いきり壁に向かって殴った。
◆
◆
◆
光太郎がいるカラオケボックスの前まで、たどり着いた。
結局光太郎の探索者になりたい理由がはっきり解らない。
考え事をしていたら、手の甲にある傷を治すのを忘れていた。
「治癒(微)」
皮が剥けた拳は、綺麗に治った。
「やっぱり、六角橋君も探索者だったんだね」
突然、斜め後ろから声をかけられてビックリした。
そこには怒った顔をした、七瀬さんが……いや、怒った顔じゃなかった。
なんか、嬉しさを隠したような、そんな印象をうける、とても魅力を感じる表情をしていた。
「あっ、七瀬さん。何でここに?」
「夕方の出来事は、私の勘違いじゃなかった」
俺の質問には答えず、階段で転んだ時の話をしていた。
そうか、階段を一気にかけ上がったからな。
「遅れてごめん、ちょっとトイレが混んでてさ、他のトイレまで行ってたんだ」
俺も、七瀬さんが話していた『探索者』のことをスルーして話す。
「ううん、いいの。六角橋くんも男だったんだね。友達のために文句をいってきたんでしょ?」
七瀬さんの言葉の意味が分からないけど、上機嫌なようだから、そのままにしておこう。
いま、文句を言いたいのは光太郎にだからな。
……
…………
光太郎と合流して、七瀬さんと別れてから、話をする。
「なあ光太」
「なんだ?」
「探索者になりたいって、本気か」
「……ああ」
「そうか…………なら一緒に、ダンジョンに行くか?」
「っ!? 弥、付き合ってくれるのか?」
「その前にあの森林コンビに何をされた?」
光太郎は、少し言い淀んだあと説明してくれた。
目当ての女性と少し話したあと、トイレにいったら、急に森林コンビにトイレを塞がれた。
仕方なく別の階のトイレに行って戻ってきたら、目当ての女性は烈&森林コンビと盛り上がっていた。
だから、光太郎も探索者になりたい。
なんて理由だアホらしい。
しかし女癖の悪い光太郎だけど、友達だからな。
それに、あの森林コンビには多少なりともムカついているしな。
地下2階で、戦えるまでは協力してやろうじゃないか。
この理由ならそれくらいが適当だろう。
勝手にダンジョンに行って死なれるのも嫌だしな。
「ああ、実は俺も探索者なんだ。まだ駆け出しだけどな」
「えっ、弥マジかよ。聞いてねぇぞ」
「ああ、探索者で食えるようになってから言うつもりだったんだ」
まあ、食うだけなら今のレベルでもやっていけるんだけどな。
「なっ!? まさか、仕事辞めて探索者一本でやるつもりなのか?」
光太郎が、さらに驚く。
「あんまし強くないから、まだ内緒だぞ」
光太郎が、しばらく考え込んでから決意したように拳を出す。
「よし! 弥、一緒に強くなって、森林コンビをギャフンと言わせてやろうぜ」
「ああ、そうだな。でも暴力はまずくないか?」
「暴力? 弥は過激だな。 烈の行ったことのない階層まで行って、自慢するだけだぞ?」
まずいのは、過激な発想をした俺でした。
来週末までに、光太郎は探索者登録をして、土日の2日間、近場のダンジョンに行く約束をした。
ステータス
ネーム……森 健太
レベル……7
ジョブ……一般人
ヒットポイント……140
ストレングス……14
デクスタリティ……21
マジックポイント……28
スキル……物理防御1
パッシヴスキル……消費MP半減、デーモンキラー
コレクション……なし
ステータス
ネーム……林 翔太
レベル……7
ジョブ……一般人
ヒットポイント……140
ストレングス……14
デクスタリティ……21
マジックポイント……28
スキル……物理防御1
パッシブスキル……消費MP半減、ドラゴンキラー
コレクション……なし
教えて鹿鳴館。
突然思い付いた、スキルネタバレコーナー。
質問者「森林コンビのスキルで『ドラゴンキラー』と『デーモンキラー』があったんですが、龍や悪魔が出てくるんですか?」
鹿鳴館「今のところ、そんな予定はないです。彼らは宝の持ち腐れです。でも中国とインドのダンジョンには居たりします」
ではまた次回!