【十九階層】同窓会
誤字報告ありがとうございます。
4月11日6:00、細かな誤字を修正致しました。(ストーリーに変化ナシ)
同窓会の会場は、高級ホテルの一角にあった。
「うわっ、本物の高級ホテルじゃん」
「反対側には、プールとかあるんじゃねぇか?」
俺の心の声を代弁する、光太郎の友人たち。
「おう、プールならあるぜ。ここのランチは4000円からで、高過ぎたりしないんだぜ」
いくら物価が高騰してるからって、4000円からは普通に高いだろ。
会費が高いのもうなずけるな。
俺はともかく、みんなよく参加したな。
「光太郎が半分出してくれなかったら、無理だったよな」
「ああ、今日は思いっきり食うぜ」
「あっ、お前ら……」
聞かれちゃまずいような顔をした光太郎がキョドっている。
「光太、どういうことだ?」
「あ、あ~、源太と貴史は会費が高くて参加を渋ってたんだ。だから半分オレが出してやる流れになってな」
「な」
俺の言いかけた言葉を、光太郎が遮る。
「何故俺は? って聞くつもりだろ? 弥はこの会費でも、全く躊躇しなかったよな。残業代の使い道はなかったようだな。はっはっはっ」
うるさい、残業代の半分は高騰した物価のせいで消えていったわ。
と言おうものなら『まだ半分あるじゃん』と言われるのが落ちだな、止めておこう。
ふふっ、実は高級ホテルの食事がどの程度なのか楽しみで来たんだよな。
◇
◇
◇
遅刻も僅かな時間だったから、乾杯の挨拶は間に合った。
だけど、座るテーブルは限られていた。
俺たち4人が座るスペースはなく、空いてる場所は、一席か二席のテーブルだけだった。
「じゃ、オレ希美ちゃん捜してくる」
「なんだよ現地解散かよ」
「まてよ、ここテーブル席だけじゃなくて、立食スペースもある」
たしかに、最初のドリンクとオードブルはテーブルに置かれているが、メインはバイキング形式みたいだ。
そして、食べ物と近い場所が立食スペースだ。
「源太」
「おう、テーブル席は形だけだ、あそこが最善の場所だ」
彼らは上着だけ置いて、挨拶と同時に戦場に向かった。
俺も早く消えそうな食べ物は、押さえておきたい。
高級ホテルのバイキングだから、かなり期待していた。
料理の味は、ほぼ期待通りで、肉類はモンスター肉(並)と比べて若干劣る程度で、かなり美味い。
一人一皿のちょこっとした肉だと、モンスター肉と変わらぬ美味しさだった。
一流の技術と調味料で、モンスター肉に追い付いている。
あと、焼きそば、たこ焼き、お好み焼きなど、粉物が大半を占めている。
粉物も、カップ麺が一時消えるほど切迫したのに、今は値段が上がった以外は元通りだよな。
野菜も多いが、輸入に頼っていた種類の野菜は、少なく感じた。
うん、どれも美味しい。
うちの家庭菜園で採れる野菜は、素材の段階では勝っているけど、調理の時点で逆転されているな。
隠れて持ってきた、コボルトスパイスは出す必要もなさそうだ。
うん、同級生との会話は挨拶ばかりだったが、来て良かった。
しばらくすると、酔いが回ってきた者も増えてきて、一部が騒がしい。
特に3ヶ所。
立食している女性にアピールする男共。
男性同士でネタの解らない事で盛り上がっているテーブル席。
3人の男に『キャイキャイ』と女性が大騒ぎしている。
その一団の会話が気になるものだった。
「俺様がババァンとやっちまえば、今食べたあの肉より旨いのが、食べられるんだせ」
「えー! スゴーイ!」
「モンスター肉って美容に良いって聞いたけど、ホントなの?」
「ほんとほんと。見てみな、おれらの肌を」
「スベスベだろ?」
「きゃぁぁ! ホントだぁ羨ましいぃ」
「スベスベしてるよぉ」
あの一角だけ、キャバクラスペースになってんぞ。
と思いつつも、俺も自分の肌を見る。
本当だ、とてもダンジョンに毎日潜ってるとは思えない、今まで気づかなかった。
すると、あの3人は探索者なのか。
ガラが悪そうだからって、前科がなければ探索者になれるもんな。
食べ物を取りながら歩いてると、彼らの噂を聞けた。
まあ、よくある不良グループの目立たない下っ端だったらしい。
探索者になって強くなったから、調子に乗ったみたいだ。
ただ、前科者は探索者になれないし、探索者の犯罪は重罪になるから、臆病又は頭がキレたかのどちらかだと思う。
また、盛り上がってる。
「ここに取り出したるは、握力計!」
「烈クンが、どれだけスゲーのか、一発で判ってしまう代物だ!」
「止めろよ、お前ら。みんなビビッちまうだろうが」
言葉と態度が合ってない、どっから見ても、止めてほしいとは思ってなさそうだ。
「なに言ってんですか、烈クン。探索者カードを持ってるやつは『悪いことしません』って保証してるようなものっすよ」
「そうそう、おれらは紳士の集まりだってぇの」
「ふふ、俺様は最後に見せてやるか。誰か試しにやってみるかぁ?」
紳士があんな言葉遣いするかっての。
精神年齢、高校時代で止まってるのか?
「あ、僕握力なら自信あるよ」
むっ、一般人代表が計るみたいだ。
興味が有りすぎたので、ここより近くなる立食スペースに引っ越す。
「…………」
ん? 誰かなんかブツブツ言ってたか?
声のした方を見てると、スキンヘッドの男が残念そうに、騒がしい群れを見ていた。
あいつらに呆れているかな?
「おおっ、握力72㎏! 凄いな。さすが自慢するだけはある」
「だが、おれらや烈クンはもっとスゲェぜ」
思い出した。
こいつら、隣のクラスにいた森林コンビだ。
どっちかが『森』でもう1人が『林』って名前だった。
興味なさそうなふりして、様子を見る。
「ぬぁぁぁ!! どうだっ」
「すごぉぉい!? 握力100㎏もあるよ」
「森君、凄い。何かあったら頼っていい?」
「おう、おれに任せな」
森君はデレデレしている。
でも、情けないとは言わない。
俺も駅近くの階段で会った、あの女性に言われたら、舞い上がる自信がある。
「ふんぬぅっ!! 」
「すごぉぉい! 林君も100㎏ぴったり」
「こんだけ、力があればお姫様抱っこも、軽々なんでしょ?」
「あ、ああ、 やったことないけど、君たちくらいスタイルがいいならチョロいぜ」
すげぇ盛り上がり具合だ。
「因みに、野球選手の○○投手だって、握力は91㎏って話だ」
「あ~、私聞いたことある。横綱の誰かの握力が119㎏で凄いって話してた」
ってことは、森林コンビは探索者じゃない力士に負けてるのか。
森林コンビが大したことないか、力士のパワーが凄すぎるのか。
そのまま見てると、烈ってのが握力計を見せびらかしながら、握った。
「真打ち登場! いくぜっ。はぁぁぁ!!」
握った後の烈は、自分で数値の確認もしないで、女性に見せつけてる。
「え、えぇぇぇぇ!? 最上君180㎏だよ!」
「スゲェ、探索者スゲェ!!」
女性だけじゃなくて、辺りの男子からも称賛の声が掛けられていた。
その後は、地下4階でモンスター狩り自慢を、延々と話していた。
「実はさ、ダンジョンは5人一組が常識なんだが、地下1階のモグラ相手なら、森と林の3人でも余裕なんだわ。それでしばらく前から、1階でモンスター狩りをしてよ……たっぷり手に入れたぜ『モンスター肉』」
「え~」
「まさか、まさか」
まさか、こんなところで出すのか? モンスター肉を。
「このあと予約をしてる二次会で、モンスター肉を振る舞ってやるぜ! 30人は入れる場所を貸しきってる。もちろんタダで食べさせてやるぜ! あっ男共は酒代だけ頼むわ」
「さすが、烈クン太っ腹だぜ」
「なっ、みんな来るだろ?」
みんなと言いながら、女性にしか声を掛けてないところが、却って清々しい。
もう、ためになる話は無いな、と思って移動したら、スキンヘッドの小声を聞いてしまった。
「3人とも一般人、レベルは高くて16か……つまらん」
「えっ!?」
しまった、声に出してしまった。
「…………」
スキンヘッドの彼と目が合ったけど、ボソボソッと一言言われて、すれ違っていった。
「君も探索者だったか」
(一般人でレベル15、僧侶の僕とは力が違いすぎる)
「あっキミ、名前は? 俺は六角橋」
「……三廻部、別に覚えなくていい」
と、俺には興味ないように、移動してしまった。
◇
◇
◇
思ったより、楽しかった同窓会も解散になり、光太郎を探す。
そういえば、光太郎をほとんど見かけなかったな。
狙ってた娘とはどうなったんだろう?
見つけた光太郎は、ベロベロに酔っぱらっていた。
「なぁ弥、オレも探索者になりてぇ」
と、そんな事を口走っていた。
ステータス
ネーム……最上 烈
レベル……16
ジョブ……一般人
ヒットポイント……336
ストレングス……40
デクスタリティ……56
マジックポイント……80
スキル……剣技2、自己再生2、土魔法1
パッシブスキル……なし
コレクション……孤児補正
登場人物
六角橋 弥……心がちょっと老けてる主人公。
フローとフェイ……弥が大好き(家族愛)な猫たち。
一関 光太郎……高校時代からの悪友。レギュラーメンバー
忘れても問題ないキャラ
森林コンビ……ザコ
最上 烈……実は気の小さい探索者
三廻部……謎の探索者