【十七階層】コボルト卒業
四谷さんの契約期間も終わり、別の勤務先に移動した。
そして、植えた二十日大根が思ったより早く育ってきた頃。
コボルト狩りを卒業して、スライムのいる地下3階に再び挑戦することに決めた。
理由は、コボルトが敵でなくなってきたこと、攻撃魔法が8回使えるようになり、さらに『火球LV2』も使えるようになったことだ。
そんなわけで、スライムに挑むことにした。
あとはモンスターからドロップする魔石が2300個以上も集まったからだ。
この内、2000個を換金しても、1個あたり500円で、合計100万円になる。
ダンジョンに入った当初は、命を懸けて1000円から2000円なんて、割りに合わなすぎると思ったけど、底辺を脱出すれば、こんなに儲けることができるのか。
いや、ちょっと考え直そう。
基本的は5人パーティーが多いから、今回の稼ぎだったら、1人あたりだと20万円。
そうなると、諸費用含めると、儲かる仕事とはまだ言えないか。
でも、順調にレベルをアップしていけば、かなり稼ぐことが出来そうだ。
スライムを安定して倒すためにも、探索者用の武器と防具を買うと決めた。
今、手持ちで70万円近くの金を所持しているけど、これから売る魔石の金額以内で、装備を揃えようと思う。
午後からでも、ダンジョンに潜りたいから、早めに探索店に出かけた。
◇
◇
◇
俺は何度目かの『武藤探索店』に足を踏み入れた。
喫茶店にでも飾られているようなベルが上品な音を鳴らす。
武藤さんが俺を見て、軽い微笑みを漏らす。
これ、おじさん好きの女性だったら、イチコロだよな。
「いらっしゃい。今はお客さんもいないし、奥に来るかい?」
俺ごときに、特別扱いは気が引けるんだが、今は大量の魔石を売るから、素直に奥に移動した。
「今回は魔石の売却と、ダンジョン用の装備を買い揃えたくて来ました」
そう言いながら、ウェポンケースと魔石の入ったリュックを取り出した。
「そうか、予算と買う物は決まってるのかい?」
「はい、持ってきた魔石のうち、2000個を予算にします。買うのは武器を2つ、動きやすい防具です」
「に、2000個!? 予算は100万円か……分かった。お茶を出すから、少し待ってくれないか?」
武藤さんは目を見開いて、おどろいていた。
用意してくれた緑茶を飲みながら魔石の売却を待っている。
仕事とは言え、魔石のチェックは大変そうだ。
「これだけ、魔石を集めたってことは、ドロップアイテムも、かなりあるんじゃないのかい?」
そういえば、コボルトスパイスも200個以上あったな。
モンスター肉は、四谷さんに沢山あげちゃったから、残りは70個くらいか。
「あるにはあるんですが、そっちは仲間が」
と答えを濁した。
「! そうか、分担していたのか。 そうか、そうか……」(分け前をドロップアイテムと魔石で分けていたのか、道理で魔石を集める数が多い訳だ)
武藤さんに武器をいくつか用意してもらい、その中から自分に合いそうな装備品を選ぶ。
武器は適度な重さの物を、防具は丈夫で、動きやすい物を。
「ダンジョンのモンスターは不思議なことに、武器にも恩恵を与える。これだけ魔石を集められるんだから解るだろ。武器がほとんど壊れないことを」
うん、それは高円寺さんに教えてもらったことがあるので、知ってる。
「実は攻撃力も少しずつだが、上がっているんだ。これの素材はただの鋼だけど、特殊な測定器で調べると、ランク2と表示されるんだ」
そう言って、僕に武器の説明をする。
攻撃力が上がるのは知ってるが『ランク』概念があるのは知らなかった。
俺は武藤さんに勧められるがまま、刃渡り60㎝と30㎝の武器を買うことにした。
防具はライダースーツに似た外見の、超高分子量ポリエチレンとグラフェンを組み合わせた防具を買った。
最後に、腕に付けることの出来る小型の盾も買ってみた。
値段は20万円+15万円+25万円+10万円で、合わせて70万円の買い物をした。
因みに、ダンジョン産の金属で作られた武器や防具は、桁が違うんだって。
「また、おいで。君の仲間も良かったら連れてきなよ」
さすがにフローとフェイは連れていけないから、愛想笑いで乗りきった。
まだまだ高騰してるバカ高い食料を買い込んで、自宅に戻る。
中国やインドが壊滅した影響は大きい。
食料を初め、プラスチック製品や安価な品物の大半をこの国に頼っていたことが解る。
あと、韓国産の食べ物も減ったな。
中国崩壊の余波を隣国が被ってしまったんだそうな。
だけど、モンスターのドロップアイテムは『肉』『調味料』『肥料』と今の俺に必要な物ばかりだ。
もっと強くなって、次のモンスターと戦ってみたい。
そのためには、スライムを単独で渡り合えないとな……しかも互角じゃなく、楽勝でだ。
◇
◇
◇
地下3階層までたどり着き、2体のスライムと遭遇した。
どこまで力を付けたか試そうとしたら、フローとフェイに前を取られた。
力を試したかったのはフローとフェイも同じらしい。
「分かった。フロー、フェイ、存分にやってみな」
「にゃっ」
「ニャッ」
フローとフェイがスライムに近づくと、1本目の触手攻撃が来る。
それを前に進みながら避ける。
以前も楽に避けていたけど、今回はさらに余裕があるようだ。
スライムにほぼ至近距離まで迫ると、2本目の触手が襲ってくる。
しかし、それすら避けながら攻撃をした。
しかも、2回もだ。
このままフローとフェイの蹂躙が続いた。
スライムは耐久力が高いのか、中々魔石にならなかった。
それでも、前回の半分ぐらいの時間でスライムを倒した。
よし、次は俺の番だ。
「フロー、フェイ、次は俺だからな」
「にゃ~」
「ニャ~」
次に見つけたスライムも2体だが、俺1人でやることにした。
「火球LV1」
ジュワッ!!
スライムは一撃で消滅する。
どう考えても、スライムは火または魔法が弱点なのだろう。
残りのスライムの射程圏内に入ると、お約束の触手がやってきた。
俺は、触手を少ない動きで避けて、払うように剣で斬りつけた。
しかし、触手を切断することは出来なかった。
まるで、切れない包丁で蛸の足を切ろうとしているようだ。
俺の練習のために、しばらくこのやり取りを続けた。
1本目の触手は顔面しか狙わないから、触手を斬りつけるのは、簡単に出来た。
タイミングも判りやすい。
そろそろスライム本体に攻撃しようと思って、触手を剣で斬ったら、スライムが消滅してしまった。
触手だけでも、ダメージが通っていたのか。
まだ、スライム戦で防具を試してないんだが。
フローとフェイにお願いして、次に出てくるスライムを譲ってもらう。
遭遇したスライムは広い空間での3体だったから、分断して戦った。
1本目の触手を避け、剣で斬りつけると同時に前に進む。
俺の攻撃圏内になると、2本目の触手が腹部に来る。
これもタイミングと、攻撃場所が分かっていたから、盾で受け止めた。
そこそこ重い衝撃だけど、バランスを崩す程じゃない。
そのまま距離を空けずに攻撃を続けた。
時折、カウンター気味に触手の反撃が来るけど、全て盾で受け流せた。
そして、フローとフェイよりも早くスライムを消滅させられた。
この日はスライムを20体狩って、家に戻った。
スライムゼリーの収穫は8個だった。
スライムは1度のドロップで、2個のスライムゼリーを落とした。
魔石の収穫は120個だったけど、いちいち拾うのが手間だった。
ステータス
ネーム……六角橋 弥
レベル……12
ジョブ……一般人
ヒットポイント……274
ストレングス……41
デクスタリティ……53
マジックポイント……82
スキル……回復魔法2、火魔法2
パッシブスキル……早熟、アイテム鑑定、消費MP半減、転職
コレクション……孤児補正、双子補正、四兄弟補正
ここまで読んで下さりありがとうございます。
そして誤字報告も。
前回の税金関係でたくさんの意見をいただきました。
が、ストーリー的には『極一部の探索者に不満が残る』とだけ考えてください。