【十四階層】 第二のスキル
2階のコボルトを狩り場にしてから、10日が経過した。
コボルトとの戦いにも慣れ、自分自身も強くなったと実感出来て、フローとフェイとの連携攻撃も取れるようになった。
お陰で、コボルトは簡単に倒せる相手に成り下がった。
自分が強くなった実感として、いくつかある。
まず身体能力、ほぼ拮抗していた腕力だが、今は確実に俺の方が上だ。
コボルトが振り回す棒も、遅くなった気がする。
次に耐久度、ゲーム感覚で言えばHPの事だろう。
1対1で戦えば、たまに攻撃を受けるんだけど、ダメージそのものが、以前と比べて軽くなっていた。
そして、一番判りやすいのが、スキルだ。
3日前にコボルトを倒した瞬間『回復スキル【治癒(小)】を覚えました』『攻撃魔法【火球LV1】を覚えました』となったからだ。
~3日前~
回復スキルの治癒(微)でも、完全に傷が治るのに、その上位スキルを覚えてしまった。
さらに、攻撃魔法まで覚えただと!?
すぐにでも試したい。
「フロー、フェイ、俺は攻撃魔法を覚えたみたいだから、次のコボルトは俺がやるな」
「なぁ」
「ニィ」
都合よく1体のコボルトを見つけたから、早速使ってやる。
使い方は、何故か解っている。
目標を見据えて、言葉を発するだけだ。
「火球LV1」
俺の目の前にテニスボールサイズの火の玉が出てきた瞬間、コボルトに向かって一直線に発射された。
火の玉は簡単にコボルトに命中して、そのまま消滅してしまった。
「い、一撃!?」
あれから、使用限界まで攻撃魔法を使った。
そのいずれもがコボルトを一撃で消滅させてしまった。
攻撃魔法……恐ろしすぎる。
~現在~
その時に限界まで火魔法を使った回数は、6回だった。
特に倦怠感とかはなく、ただスキルが発動しなかっただけだった。
ついでだから、俺の鑑定能力がMPを消費するタイプなのか、魔石とモンスター肉で確認してみた。
『F級魔石』
『モンスター肉・LV1』
『少し美味しい』
『食べると、ほんの僅かだが経験値が手に入る』
うん、絶対とは言えないけど、鑑定スキルは消費するタイプじゃないって事で覚えておこう。
今日のダンジョン探索は、半日で切り上げて、貯まりに貯まった魔石を買い取って貰いに、アイテムショップに出掛けた。
◆
◆
◆
店の中に入ると、客が2人ほどいて、商品を眺めていた。
「いらっしゃい」
ダンディな外見の武藤さんは、俺を覚えていたのか、右手をひょいと上げてくれた。
俺は真っ直ぐ、武藤さんのいるカウンターまで行き、買い取りの依頼をした。
「魔石の買い取りをお願いします」
「おお、順調に……なっ!?」
俺は魔石のつまった麻袋をドンと置いた。
「こ、これ全部か?」
「いえ、この中で1400個をお願いします」
「っ、て事はそれ以上あるのか、待ってな」
店長は、いったん奥に引っ込んで、F級魔石を100個並べるケースとパチンコようのドル箱を持ってきた。
そして、手際よく並べながら話しかけてきた。
「ずいぶんと稼いできたね。これは何日分だい?」
「え~、ざっとでいいなら、2週間くらいですが……」
店長の瞳がキラリと光った。
「あのさ、君さえよければ、次の査定からは一緒に中に入ろうか? お茶くらい出すからさ」
ん、どういうことだ?
「そのペースだと、かなり優秀な探索者になりそうなんだよね。無理にとは言わないけど、うちの店が最寄りなら、常連になってくれるかい?」
家から一番近い店だし、仲良くなれればメリットもあるかも知れない。
「まあ、家から一番近いんで、買い取りはこちらに来ますよ」
「そうかい、今はお茶しか出せないけど、そのうち良い品があったら教えるから…………よし、これで1400個丁度だ。後、これくらいならまだ問題ないけど、もう少し高額になったら、探索者用の口座を作った方がいいね」
店長は魔石を鑑定しながら、話している。
「探索者用の口座ですか?」
「探索者カードがそのまま、口座カードにもなるんだ。今のところアイテムショップと郵便局でしか使えないけど、そのうち銀行でも使えるようになるし、手続きなら市役所でも出来るから、申請しておくと良いよ」
「情報ありがとうございます。今度申請しておきます」
さすがに、70万円を持ち歩くには、気を使うからな。
これから、申請しに行こう。
「あと、モンスター肉の良いやつを買いたいんですが」
「わかった、今はまだランク2の肉しかないけど、何キロ買う?」
「はい、在庫が有れば4㎏でお願いしたいんですが」
すると、店長は大きい電卓を取り出して『21500×4=』と入力して『86000』と表示された。
「8万6千円だけどいいかな? それで良いなら、魔石の差額で、61万4千円を払うよ」
査定が終わって、モンスター肉と現金を受け取った。
現金を手にした時、すこし怖い気分になった。
まだダンジョンに潜ってから、1ヶ月経ってないのに80万円近くを稼いでいる。
大半はフローとフェイのお陰なんだが、それでも20万円分は戦ってるよな?
しかも、これからもっと効率よくモンスターを倒せるはずだ。
今後の身の振り方を考えていたら、いつのまにか、役所で探索者カードにキャッシュカードの機能を付け終わっていて、家まで来ていた。
モンスター肉や小遣いに釣られて、やっていた探索者だが、本職として生活することも可能だと思った。
買ってきた肉を焼きながら、柄にもなく悩み続けていた。
「フロー、フェイ。いつもより食事の回数が多いけど、食べるか?」
「にゃぁ!」
「ニャァ!」
食べる気満々のようだ。
大急ぎでフローとフェイの分の肉を用意し、自分も肉に噛み付く。
「んんっっ!?」
「うにゃぁ!」
「ウニャン!?」
美味い、美味すぎる!
噛めば噛むほど味が、涌き出てくるけど、美味しさのあまり、ついつい飲み込んでしまう。
丸で細胞1つ1つに旨味の元が凝縮されているみたいだ。
今までの肉は、最高級の牛肉と言っても差し支えない肉だったが、これは今までの人生で食べた高級肉を凌駕する!
食べ終わっても感動と余韻が収まらない。
俺は決心した。
もっと強くなって、この肉を定期的に仕入れられる冒険者になろうと。
そして、この肉を四谷さんに食べさせた後『弥さん、自分の命を第一優先に頑張ってください。私は天国の御両親と無事をいのっています』と言われた。
四谷さんが家を出る日には、持ちきれないほどのモンスター肉を渡してやるからな。
ステータス
ネーム……六角橋 弥
レベル……9
ジョブ……一般人
ヒットポイント……214
ストレングス……35
デクスタリティ……44
マジックポイント……70
スキル……回復魔法2、火魔法1
パッシブスキル……早熟、アイテム鑑定、消費MP半減、転職
コレクション……孤児補正、双子補正、四兄弟補正