【十三階層】 地下2階のモンスター
覚える必要がある、主な登場人物。
六角橋弥……主人公
フロー、フェイ……主人公の飼い猫
役所の人たちが来てから、翌日。
今は3度目の地下2階に到達していた。
先の2回は何もしないで、1階入口に通じる魔法陣で帰ったから、今回が地下2階で最初の探索になる。
地下1階と代わり映えしない通路を歩くと、前方にモンスターらしき小さな影が見えた。
近づくと、体長1メートルくらいの小型モンスターだった。
これがスライム、ゴブリンに次いで、ネットで有名なモンスター、コボルトだろう。
幸いな事に、相手は1体しかいないし、持っている武器も棒の切れ端のような物で、見た目の恐怖はない。
ダンジョンに来ると、生死をかけた戦いをしているのに、何故か気分は落ち着いていられる……不思議だ。
「フロー、フェイ。ここは俺がやる」
「にゃっ」
「ニャッ」
フローとフェイの許可もとった事だし、やるぞ!
2階のモンスターとの初接触は、棒とスコップのつばぜり合いから始まった。
速い! しかも力まで強い。
速さなんて大モグラと比べ物にならない。
力だってそうだ、今の俺とほぼ互角だ。
舐めてた。
大モグラが楽勝だから、ここもそれほど苦労しないと、油断していた。
相手が単独で助かった。
ここから、気を引き締めて真剣に殴りあった。
戦っているうちに、だんだんコボルトの事が解ってきた。
身長からは、思いもよらない力のある攻撃が来るが、俺を押し負かすまでは行かない。
速度にしたって、対処出来ない程度じゃない。
だからと言って、弱い訳じゃない。
こっちが3回当てると、代わりに2回は殴られる。
5回ほど殴られただろうか、やり返した一撃がうまく命中して、コボルトは光の粒子になって消えた。
コボルトは、パチンコ玉くらいの魔石を3つも落とした。
「ふぅ、治癒(微)」
うん、痛みが全くない。
念のため、殴られた場所も触って確かめてみるけど、全くの無傷でダメージの欠片もない。
そこそこダメージを受けていたのに、回復スキル……便利すぎる!
言い換えれば、大怪我をして何日も休む必要がないから、効率良くダンジョンに潜れるって事になる。
知りたい。
俺がどれだけ回復スキルを使えるのか。
魔石を回収して、通路を進む。
分かれ道は、必ず左を選んだ。
そうすれば、複雑な通路でも迷う事なく、帰れると思う。
そして2体のコボルトを見つけた。
「フロー、フェイ。やってみるか?」
「にゃっ」
「ニャッ」
どうやら、やる気らしい。
「手こずるようなら、手伝うからな」
回復スキルもあるし、任せてみる。
だが俺の見通しは、逆の意味で間違った。
フローは、コボルトの振り下ろす棒を掻い潜り、脚に猫パンチをお見舞いする。
大モグラの時と違って、両足蹴りを使わず、再び猫パンチ。
そして、下がる。
コボルトの反撃は空振りする。
速い、そしてスマートな戦いだ。
フローとフェイは、ただ速いだけじゃくて、瞬発力や反射神経の次元が、俺やコボルトとまるで違っている。
それでもコボルトは、気後れすることなく果敢に攻め込んで、フローに掠める。
フェイもコボルトの打撃を軽く受けたみたいだ。
こうして、見ているとコボルトの戦い方は勉強になる。
戦い方に関しては、俺が一番未熟だと実感した。
ほどなくして、2体のコボルトは粒子になって消えて、魔石となった。
あっ、なんか魔石以外の物がある。
スリムなペットボトルサイズで、中には白い粉みたいなのが入っている。
ちょっと目を凝らすと、文字が浮き出てきた。
『コボルトスパイス。万能調味料で少量振りかけて使う』
に、肉の次は調味料かよ!? どうなってんだ、この迷宮。
ためしに、開封してほんのひとつまみ程のスパイスを手に落として、舐めてみる。
味の素に似てるけど、それよりかは薄味だ。
初めてモンスター肉を食べた時の感動は起きない。
蓋を閉めて、スパイスをリュックにしまう。
開封前と後では、キャップの形状が若干は変化していた。
これも、肉と同じで開封前だと、劣化しないのかもしれない。
少し進むと小部屋と言ってもいい空間を見つけた。
今までの経験からすると、5割の確率でモンスターがいる。
「フロー、フェイ。この先にコボルトがいると、想定して先制攻撃を仕掛けよう」
「にゃぁ」
「ニャァ」
なんか、フローとフェイが『まぁいっかぁ』と言ってる気がしてならない。
気のせいだよな。
俺は、先制攻撃を仕掛けるために、勢いよく小部屋に乗り込んだ。
ここでも自分の浅はかな行動を悔いた。
予想通りコボルトは部屋に居たが、その数はなんと4体もいた。
最初の2回の戦闘で、色々な事態を想定するって意識が欠如していたんだ。
だが、後には引かない。
俺には、回復スキルがある。
俺が崩れなければ、後はフローとフェイが何とかしてくれる。
そう信頼して、2体のコボルトめがけて思い切り、大鋏で突き刺した。
不意打ちは成功した。
後は出来るだけ、この2体を引き付けて、フローとフェイの参戦を待つ。
「にゃにゃ(壁)」
フローの鳴き声と同時に、俺にピンク色の何かがまとわりついた。
不気味に感じた、この現象も直ぐに理解できた。
コボルトの一撃を受けた時、痛みが全くなかったからだ。
これは……防御スキル、なのか?
助かる。
このまま、守りに集中する。
2回ほど、コボルトの攻撃を貰ったが、違和感を覚えた。
防御に徹してるとはいえ、攻撃に巧さを感じなくなった。
このまま避け続けていると、コボルト同士が接触して攻撃のタイミングがずれたりしている。
そうか! コボルトのパフォーマンスを活かすのは1対1での戦闘なのかも知れない。
フローとフェイがコボルトを倒して、加勢に来てくれた。
「フロー、フェイ。 1対1じゃなく、2対2で戦えるか?」
「にゃっ」
「ニャッ」
2人の戦いを見ることにした。
間違いない……
コボルトにはチームワークどころか、お互いが邪魔になっている。
代わりに、フローとフェイのチームワークは抜群だった。
結果、同数で戦っていたのに2人は被弾なしで、コボルトを撃退してしまった。
「フロー、フェイ、良くやった。コボルトは別々で戦うよりも、まとめて戦った方が戦いやすいみたいだ。当然俺も連携して戦うのはやったことがないから、この階で練習しようと思う。手伝ってくれるか?」
「にやぁ~」
「ニヤァ~」
しゃがんだ俺の顔に向かって、顔をぶつけてくる、すごく癒される。
今回は早めに切り上げて、帰ることにした。
今回倒したコボルトは15体。
コボルトスパイスを3つも見つけた。
家に戻ったら、早速肉を焼いて、例のコボルトスパイスを試してみる。
相変わらず、食欲のそそる香りだ。
焼き上がった、モンスター肉ステーキに岩塩と同じ感覚で振り掛ける。
もちろんフローとフェイにも同じくコボルトスパイスを振りかけた。
当然、四谷さんにもお裾分けをする。
「弥さん、言ってくれれば私がやりましたのに。ありがとうございます」
「気にしない、気にしない。いただきます」
「いただきます」
ん? んんっ!?
味はもちろん美味しくなってる。
驚く程の変化はないけど、違いは歯応えだ。
以前より弾力があるのに、噛みきりやすい。
「ちょっと、弥さん。なにこれは? どんな調理をしたのよ!?」
四谷さんの人が変わったような。
「えっ? いや……ダンジョン産の調味料を使っただけ……」
結果、解ったことはコボルトスパイスは、食感が良くなるってのが判明した。
ただ、この『コボルトスパイス』はダンジョン産の肉だけじゃなく、通常の食材にも効果があった。
ケーキに振りかければ、甘味が増してフワフワに。
生野菜に使えば、味に深みが出て、しゃきしゃきになる。
焼き物に使うと、カリカリになったり、プリっとしたり、なんとも言えない不思議な調味料だった。
俺はコボルトスパイスを1つ、記念として、四谷さんにプレゼントした。
コボルトスパイスをさらに手に入れるため、しばらく地下2階で、経験値を貯めてレベルアップを図ることにした。
ステータス
ネーム……六角橋 弥
レベル……6
ジョブ……一般人
ヒットポイント……154
ストレングス……29
デクスタリティ……35
マジックポイント……58
スキル……回復魔法1、火魔法0
パッシブスキル……早熟、アイテム鑑定、消費MP半減、転職
コレクション……孤児補正、双子補正、四兄弟補正
なんと2週間連続投稿でした。
応援があればもう少し、がんばれるかも……