【十階層】第一のスキル、治癒
探索者登録をしてから2日が経った。
昨日は、親の残した小さな畑を弄っていたから、短時間しか潜れなかったが、今日は弁当も用意してダンジョンに挑んだ。
かなり、ダンジョンの奥まで進むことが出来たが、ちょっと失敗をした。
理由はフローとフェイだ。
この子達の成長度がすごいんだ。
目に見えて、動きが速くなっているのが分かる。
『負けていられないな』
そう意識したのがまずかったのか、不用意に動いたのかもしれない。
そのせいか、どうしても避けられない攻撃を貰い、ダメージを受けてしまった。
だけど、失敗をなかったかのように、そのまま強引に押しきって倒した。
「ふう、油断……したんだよな」
わざと思った事を口に出して反省しようとした。
ただ、俺にダメージを与えたモグラを倒した時、受けたダメージが少し回復したような気がした。
さらに頭の中に情報が入る。
『回復魔法『治癒(微)』を覚えました』
おおっ!? スキルを覚えた?
それに、何となくだけど使い方が解る。
丁度いいことに怪我をしてる、早速試してみよう。
「治癒(微)」
軽傷とは言え、治るまでに1週間はかかると思う怪我の痕が、たった数秒で消えてしまった。
「おおっ、怪我が治った」
「にぃ~」
「ニャァ」
なんか、フローとフェイが褒めてくれている気がする。
1日に何回使えるか、解らないが、出口に近い場所でモンスターを探してみよう。
被弾覚悟で、大モグラと戦っていると、少しずつ戦闘が楽になってきた気がする。
戦いに慣れてきたつもりでも、怪我に対してビビった戦い方になっていたんだろう。
結果、回復魔法を使う機会が減ってしまった。
お陰で、今日1日で、80体近いモンスターを狩ることが出来た。
明日は半日ほど潜る予定だから、明後日は丸1日使って、魔石とモンスター肉を集めよう。
◇
◇
◇
今、四谷さんと例の肉を食べている。
四谷さんに、素材の味を活かしたまま、色んな調味料を使って食べてもらいたかったんだ。
このモンスター肉は、そのまま食べてもかなり味わいがあるのに、ニンニク醤油や岩塩と胡椒のブレンドを加えると、さらに美味しく食べられる。
そういえば、モンスター肉の他に、モンスタースパイスもあるってネットで見たけど、気になってくるな。
今は、モンスター肉が過剰気味になってるから毎日焼いて食べている。
100グラム1260円(アイテムショップ計算)の肉を毎日食べてるかと思うと、どこのセレブだ? と思うが、たくさんあるんだからしょうがない。
俺は近所の人に分けてあげようと言ったんだが、意外にも、四谷さんから『待った』がかかった。
『お裾分けは、基本1回にした方がいいです。後は特別に何かあった時ですかね。後は、自衛隊の方が来てから考えた方が良いでしょう』
と言っていた。
たぶん、人間関係の変化や、予想外のトラブルを避けるために言ってくれたんだろう。
四谷さんは面白い人だけど、真面目なところも多い。
「弥さん、この家のダンジョンですが、本当に弱いのですか? 私でも倒す事が出来そうですか?」
まさか、ダンジョンに潜る気じゃないだろうな。
思い止まらせるように説得するか。
「四谷さん、実は最初の1匹を倒してレベルアップするまでは、最弱のモンスターでも倒すのはむずかしいよ。 俺も今だから言うけど、初めて戦った時は色々とヤバかった。今は、本当に楽勝なんだけどな。 だからダンジョンに、潜ろうなんて思わないでくれよな」
四谷さんは残念そうだった。
「噂ですと、モンスター産の肉は健康食品らしいので、私も狩りをしてみようかと思ったんですが。その証拠に、毎日肉を食べてるけど、太らないんです。 むしろ体重が100グラム減りました」
「四谷さん、だからって勝手にダンジョンに入るなよな」
「わかっています」
「四谷さんの契約は、あと1週間くらいでしたっけ?」
「はい、あと10日ですね。寂しくなります」
本当は、両親の初七日が過ぎたら、四谷さんの仕事は終わる予定だったんだけど『貰った分は働きますので』と強く言われた。
別に畑のせいで、再就職出来ないわけじゃないんだけどな。
◇
◇
◇
昨日は軽くダンジョンを探索して終わらせたが、今日は、1日中は潜ってる予定だ。
時間の感覚をつかむために、数年ぶりに腕時計を装着した。
マッピングをしながら、あちこち進んでいくと通路の先に大きな扉を見つけた。
このパターンは階段手前の部屋で、小ボスとの戦いってのがセオリーだよな。
ここまで来るのに ダメージはほとんど無し。
フェイとフローもモグラ程度じゃ、遊び半分で倒せる。
一応フローとフェイにも聞いてみるか。
「フロー、フェイ。 もしかしたらこの先のモンスターは、強いのが出るかも知れない。いけるか?」
「にゃっ」
「ニャッ」
頼もしいな、フローとフェイに回復のスキルがあれば、少々強いくらいなら問題ないだろう。
扉を開けると、学校の体育館クラスの大きなスペースで、モンスターは1体もいなかった。
拍子抜けしていたら、扉が自動で閉まった。
「あっ……」
出口が閉ざされた。
もしかして戻ることが出来ない? そう思うと緊張が走った。
扉が閉じて少し経つと、涌き出るように巨大モグラが大量に出現してきた。
その数は9体だった。
ちょっとほっとしたが、もしかしたら個体の強さが違うかもしれない。
などと考えていたら、巨大モグラはまとめて、俺に向かって突進してきた。
知能低いなと思いつつ、逃げ道を探す。
だが道は1つ、飛び越えるしかない。
タイミングを見て、思いきりジャンプする。
「うわっ、とと」
予想外に高く上がりすぎて、着地でバランスをくずした。
だが、巨大モグラも勢い余って壁にぶつかったり、密集したまま後ろに方向転換しようとして、転んでいた。
「……俺の緊張感を返せよな」
俺は容赦なく、体勢のくずれた巨大モグラを始末していった。
フローとフェイも数を削ってくれて、無傷で全てのモンスターを倒してしまった。
すると、モンスター肉と魔石のドロップとほぼ同時に、横幅の広い地下に降りる階段が『ゴゴゴゴ』と地響きと共に出現した。
階段の出現に息を呑んだが、降りたい衝動にかられる。
よし、この階段を下りよう。
何十段降りたか解らない、マンションで例えると4、5階分だろうか、ついに2階層に到達した。
ステータス
ネーム……六角橋 弥
レベル……5
ジョブ……一般人
ヒットポイント……134
ストレングス……27
デクスタリティ……32
マジックポイント……54
スキル……回復魔法1、火魔法0
パッシブスキル……早熟、アイテム鑑定、消費MP半減、転職
コレクション……孤児補正、双子補正、四兄弟補正