シンジケートの懲りない面々
「アニキ、あの医者、一体何者なんです?」
のっぽが車を運転しながら、丸いほうに聞いた。
アニキと呼ばれた男は、それには答えずに「もう数年前の話になるかな」と言った。
「樹界深奥に一人で潜っては、レアハーブをごっそり採ってくる、凄腕の冒険者がいたんだ」
のっぽは、「一人で潜ってレアハーブを!?」と驚いて言った。
ダンジョンハーブの中でも、最深部にしか存在しないという貴重なものがレアハーブと呼ばれており、闇ルートで非常に高値で取引されている。
「ああ。そいつは最新鋭のプロテクトスーツを着込んでいて、フルフェイスのヘルメットをかぶっていたから、その正体を知っているのはごく一部の人間だけだった」
「アニキ、まさか、あの医者がその凄腕だっていうんですか?」
のっぽに聞かれ、丸いほうが「さあな」と答える。
「俺も、奴の正体は知らないんだ」
笑いながら言うのを聞いて、のっぽは「おどかさないでくださいよ」と言った。
「しかしな、そいつには、あだ名がついていた」
丸いほうが、ニヤリと笑って言う。
「ヘルメットも、プロテクトスーツも、そいつが身に着けているものは、すべて真っ赤だったんだ。その見た目のせいだろう。ついたあだ名が『ブラッディ・エリー』だ」
「ブラッディ・エリー?」
のっぽは、「ブラッディ・マリーじゃなくてですか?」と聞き返した。
「そうだ。なぜエリーになったのかは、俺にもわからん。しかし、なぜかさっきあの医者と話しているときに、ブラッディ・エリーのことを思い出したんだ」
丸い男は、「案外、ブラッディ・エリーは女だったのかもしれないな」とつぶやいた。
拙著『ダンジョンメンタルクリニック(3)』の、後日談です。
本編では、院長先生にコテンパンにやられていたシンジケートの二人組ですが、気になる言葉を残しています。
『ダンジョンメンタルクリニック』及び、スピンオフ作品の『医大に受かったけど、親にニューハーフバレして勘当されたので、ショーパブで働いて学費稼ぐ。』と併せてご覧いただければと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。