死は無駄に……
そうだ、そうだ! チキンのいう通りだ! ラタ姉は、ピピスやブレティの方がよくできたやつらだって、思ってないじゃないか!」
クラス全員が立ち上がり、主張します。
そうなのです。ピピスとブレティが怪物としてここを去った時、ラタは自分の部屋で、夜な夜な泣いていたのですから。
食もノドを通らず、体調を崩して、授業どころか、日常生活もままならない状態に落ちてしまいました。その間、別の先生が代わりに授業をしていたのでした。
「え? ど、どうして、そ、そう思うの?」
ラタの言葉が、もたつきます。
「今まで黙っていたけど、俺たちはラタ姉が、夜中に泣いてんの知ってんだ」
彼らの目と耳は、鋭いのです。ラタは隠れて、静かに泣いているつもりでしたが、授業を三日連続休み、不審に思った数人の子供が偵察に乗り出して、知ってしまったのでした。
「だから、ラタ姉がいってるのは嘘だ!」
フードの少年の声は、やや荒れていました。よほど、心の中がぐちゃぐちゃになっているのでしょう。
「あの二人がいなくなって、俺たちも悲しかった。キンダーキングのセブンが、なんといおうが、俺たちはやっぱり悲しい。怪物になって、友人が消えるのは悲しい。そして、ラタ姉がいなくなるのも、やっぱ悲しいし、寂しい」
一気に、フードの少年が話しました。
それを聞いたラタは、口元を両手で押さえました。目に涙がたまってゆき、もう少しでこぼれそうです。
彼女は、ふいに走りだしました。そしてそのまま茶色の扉を乱暴に開けて、出ていってしまいました。
「ラタ姉!」
チキンが叫び、追いかけると、残りの生徒たちも、だだだっと、押し合いへし合いしながら、扉へ突進します。
あれから、ラタは自室にこもったままで、子供たちが何をいおうと、返事してくれませんでした。何時間もねばりましたが、一向に出てくる気配もなく、チキンは諦めました。といっても、ラタを部屋から出すのを諦めただけです。ラタをそのまま怪物にしてこの国からいなくなる、というのを放っておく気はちっともありません。
チキンも、本音をいえば、ラタが出てくるのを待ちたいのです。でも、それよりも、もっとやるべきことがある、と彼は確信したのです。
彼が今いるところは、チキンポット。それは、彼の研究所です。キンダーキングダムから歩いて五分の場所に、ぽつんと建っています。
形は、立てた卵を横から真っ二つに切って、その断面をえいやっとばかりに地面とくっつけた感じです。
この研究所は、偶然にも名前がチキンポットでした。まるで、チキン専用の研究所のように思えるのですが、実際は前からあったものです。とはいえ、中にはチキンが望んでいる設備がちゃんとあります。まるで、チキンの頭の中にある理想の研究所を取り出して、作ってみました、というくらいでした。