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消えた二人

 乾いた静けさがつぶされ、悲しい声と、床を優しく叩く涙の音がしました。

「静かにして! それがこの国で決まっていることだからよ!」

 ラタの口調が、思わず砕けてしまっています。

「理由がないものなんて、守らなくていい!」

 フードの少年が、主張します。

「じゃあ、君は理由もなく、どうして大人を憎めるの?」

「それは……」

 理由のない憎しみを問われると、一気にフードの少年は、しゅんとなりました。

「私は幸せよ。だって、そうでしょ? 私は明日から大人になるかもしれないけど、大人を殺せるかもしれないんだから……そして、私は子供のままで死ねる……」

 そうです。二十歳を超える前、つまり十九歳の最後の日に、自ら怪物になって、大人の国を襲うのです。

 どうやって怪物になるのかというと、不浄石によって、です。浄化石を敵とするその石は、さわった存在を、汚してしまいます。

 例えば、新鮮なリンゴやノドをうるおす水は腐り、汚れた存在はもっと深い不浄へと落ちてゆきます。

 一見、とても危険なものですが、子供がさわっても、大丈夫です。ただし、大人がさわれば、不浄石は効果を発揮し、肉体を老化させるようです。

 以前、セブンの提案によって、投石機を用いて、大人へ投げつけたことがありました。

 すると、大人たちはみるみると老けていったのです。この作戦は大成功をおさめました。しかし、次回から大人は『清めの鉄』から作られた鎧を着ていたので、二度目の大成功はありませんでした。

 このように不浄石というのは、大人にとっては大敵です。そして、大人になりかけの者が、これに触れると、怪物となるのです。きっと、大人と子供の間にいる存在だからなのでしょう。


 死ぬ前に、せめて大人一人くらい道連れにしてこい。


 こういう考えは、確かにこの国では正しいのです。でも、いざ自分と親しい人、大事な人が、怪物になる、となると話はまた違ってきます。

「怪物になんかなっちゃ嫌だよ!」

 チキンは、ラタに訴えました。そうです、明るい群青色の髪、小作りな顔、ちょっとだけ日に焼けた感のある白い肌、そんな彼女が怪物になるなんて考えられません。考えたくもありません。

「でもね、チキン、自然に怪物になる人だっているでしょ? それに比べたら私はとっても幸せよ」

 ラタがにっこりしてみせるのですが、チキンはそれが嘘の笑顔だ、と察しました。心からの笑みではないのです。やはり、彼女は怖がっているにちがいありません。

「私ね、思うのよ。自然と怪物になる人って、この国のためになりたい、なりたい、っていう気持ちが強いんだ、って。だから、不浄石の力を借りずに怪物になって、大人たちをやっつけにいくのよ。でも、私の場合、その気持ちがちょっぴり足りなかったのね。だから、不浄石を借りて、大人を倒す……。

 ダメね、私って。教え子の……ピピス、やブレティの方が、よっぽど、私より、できて、いるわね。彼らは、怪物になった、んだから……」

 ゆっくりと、吐き出すようにラタがいいます。

「嘘だ!」

 チキンは、声を張り上げました。ラタのいうことが本心ではない、と彼は知っています。

 もうずいぶんと前のことになるのですが、このクラスには、ピピスとブレティがいました。

 ピピスは、緑のフードがトレードマークの気むずかしい男の子でした。自分と意見が合わなければ、意見が合うまで、話し続けたこともあります。チキンともたびたび意見がぶつかり、長々と話すことがありました。魔法が得意で、よくチキンに水鉄砲の魔法を撃ってきました。

 ブレティは、くたびれたショルダーバッグを愛用している男の子でした。いつも面白い冗談をいい、みんなに笑いを与えてくれました。勉強が苦手な彼でしたけれど、目はとてもいいので、カンニングをしょっちゅうしていました。たびたび、ラタに注意されていたものです。しかし、その目の良さを買われ、監視を任されていました。

 この二人は、怪物になって消えました。どうして突然怪物になるのかは、いまだにわかっていません。ただ、わかっているのは、子供だった怪物は大人へ牙をむき、大人だった怪物は子供と老人へ牙をむき、老人だった怪物は大人へ牙をむく、ということだけです。



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