真実を信じる
嵐の前の静けさならぬ、嵐の後の静けさです。
「今日はね、とびっきりの授業をやります」
とびっきり、ってなんだろう、とチキンは、わくわくしてきました。算数だとか理科だとか、簡単すぎて、チキンにとってはつまらなかったのです。
「今日やるのはね、私たちについて、です」
ラタは、流れるように、「私たち」について語り始めました。それは、老人、大人、子供についてのことです。チキンが今まで何度も考えてきたけど、結局何一つわからなかった問題でしたから、ますます彼女の話に面白さを覚えます。
「私たちは、きっとこれからもずっと大人、そして老人とはわかりあえないでしょう。だから、戦争もなくならないはずです。
エルダリーキングダムの場所は、アダンティーキングダムの向こう側にあります。そう、場所的な関係で、今はまだ私たちと戦争していないけど、でも、もし老人たちが大人たちを倒したら? きっと、ここは狙われるでしょう」
子供たちは息を飲んで、ラタの話に聞き入っていました。今まで、どうしてこのような授業をしてこなかったのでしょうか。生徒たちは、内心で首を傾げていました。
いつも、決まってつまらない算数、国語、理科、社会、ばかりなのですから。一体全体どういう風の吹き回しなのでしょう。でも、誰一人として、その疑問を口にしません。
もし、聞いてしまえば、ラタが、あ、そうね、といって、せっかくの心躍る話が中断されてしまうかもしれないのですから。
「老人たちは、子供たちをも憎んでいます。この国も、子供しかいないとはいえ、元気一杯の国民ばかりで、植民地にされてしまう、と恐れているから、というのが理由です、と先生以外は閲覧禁止の本に書かれていました」
どうにかして自分もその本を借りられないものか、と考えているうちにも、ラタはみんなに真剣な面持ちで語りかけ続けています。
「近い将来、人間は滅びるでしょう。だって、戦争して人が減ることはあっても、増えることはないからです。そして、大人を除く私たちは子供を生めません」
子を生む。チキンは、そのことに関する書物を貸してくれ、とキンダーキャッスル内の図書館員に頼んだことがあります。でも、なぜかまだ早い、と断られました。
十五歳になったら、借りてもいいそうです。
「確かに、この国にも、たまーに赤ちゃんが生まれます。でも、戦争で死ぬ人、そして怪物化してここを去る人々を考えれば、減る方が明らかに多いです。だから、もうすぐこの国は滅びてしまうのです」
ずいぶんと深い話です。ここまで、いってもいいのでしょうか。チキンは不安に思い始めました。
「みんなも、もう知っているでしょ? あの怪物は、私たちの中から生まれる悪なのです。怪物になり、意思を失い、自分を見失い、心が真っ白になってしまいます」
ラタの声が、少し小さくなります。
「子供だけではなく、人間であれば誰でも、怪物になるかもしれないのです。でも……それでも、敵が誰なのかわかるんでしょうね。だから、私たちから生まれた怪物は大人の国へ攻めにいくのでしょう。そう……ここまで、私たちは憎み合っている。心底、嫌っている……。きっと大人も子供も、そして老人も歩み寄ることはないでしょう。和解による戦争中止は無理です。誰だって戦争はしたくないです。十八歳になった男の子たちを、戦地に行かせたくなんかありません……」