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真の浄化

 キンダーロボが、いつの間にか足元にいます。ピピスが何事かロボに命じます。ロボの腕が、ドラゴンの足へ、強烈なパンチを放ちました。

 メキャッ、というなんとも嫌な音、そして頭部にいるチキンにさえ伝わる嫌な振動。不安がチキンの心に浸透。

 ドラゴンは姿勢を崩し、そこへセブンによる一撃が叩き込まれてしまいました。

「     」

「        」

「           」

「              」

「                 」

「                    」

 何も起こっていないようでした。やけに静かです、なのでゼブルが改めて円盤の上で、必殺技を披露し、ドラゴンがそれをコピーしようとした時、見えるもの全てが遠くへと離れていきます。

「え? え?」

 チキンとゼブルの声が、重なります。

 何が起こっているのでしょう。しばし考えてから、チキンは答えにいきつきました。

 そうです、ドラゴンはものの見事に輪切りにされてしまったのです。ドラゴンは腹から下を大地に預け、それから上は滑って――



 頭が、はっきりとしてきます。チキンは、重い頭を起こし、自分が診療所の個室ベッドにいることを知りました。ここが、キンダーキャッスルの腹から下にある部分で、幸いでした。もし、上だったら、と思うと、ゾッとします。

「大丈夫かよ、おい」

 ゼブルの心配そうな声が聞こえました。しかし、姿が見当たりません。

「ああ、こっちだ、こっち」

 声のする方を見ると、ゼブルもベッドの上で、横になっています。個室ベッドだと思っていましたが、どうやら無理やり詰め込まれているようです。きっと怪我人が多いのでしょう。

 ゼブルは、包帯でグルグル巻きにされていて、まるでミイラです。

「俺たちは、負けちまったなあ……」

 浄化杖は、取られてしまいました。あれをブラフに使われ、世界から不老不死ではない人が消え――そこで、ふとチキンはあのことを思い出しました。

 浄化杖を振ったのに、反応がなかったこと。

 石原では、不浄石と浄化石の混じっているところの光の方が、強かったこと。

 チキンは、自分たちが結果として、負けてはいなかったことを知りました。

「僕たちは、戦いには負けたさ。でも、結果として勝てた」

 起き上がろうとして、左手に鋭い痛みが走ります。右手で布団をめくってみると、包帯でまかれていました。どうやら、骨折しているようです。

「あん? どういうこったよ。浄化杖は持ってかれちまった」

「確かに浄化杖は、その人が願う不浄を消してくれるものだよ、あの設計図通りに造ったのならね」

「あん? じゃあ、チキンは、そうしなかった、と?」

「まあね、というか、そうせざるをえなかったんだ。あの杖は、実はね、浄化石の他に、不浄石をすりつぶしたものを、ちょこっと入れなくちゃならなかったんだ」

「おいおい、じゃあ浄化杖じゃないだろ?」

 ゼブルが、ゲホゲホと咳き込みました。肺が、やられているのかもしれません。

「ううん、全くきれいなものなんてないんだよ。というか、『浄化』も『不浄』がなければ浄化の力を発揮しないんよ。だから、どうしても、不浄石が必要だった。それにね、ほら、僕、浄化杖を振ったけど、全然反応しなかったでしょ?」

「あ、そういや、お前セブンに浄化杖取られたけど、取られる前に、何度も振っていたよな」

「うん、それはね、きっと『不浄』がなかったからなんだ」

「は?」

「浄化杖が、浄化をするのに、不浄を必要としているように、振る者は不浄の者でないとだめなんだ。じゃないと、浄化杖は浄化の力を発揮しないんだ」

「とすると……」

「ブラフほどの適任者は、いないってこと!」

「うおおおお! すげええええ!」

 ゼブルは声を張り上げましたが、すぐに「イテテエ」と弱い声を漏らしました。

 今頃、ブラフは浄化杖を満面の笑みを浮かべて振り終えていることでしょう。それが、自分をも消し去る行いだとは知らずに。

 と、ドアがノックされました。誰でしょうか。

 チキンは、どうぞ、といいました。すると、そこには、ラタがいるではありませんか。

「ラタ姉!」

「ラタ!」

 チキンが叫び、ゼブルも叫び、そしてゼブルは「イテテテエ」と呻きました。

 チキンは、とっても嬉しく感じました。ラタの怪物化を止められたのですから。怪物なんていう不浄は、この世から消えたのです。

 しかし、ラタの顔はとっても悲しそうでした。いえ、悲し『そう』どころではありません、本当に悲しんでいます。その証拠に、彼女の瞳からは、とめどなく涙がこぼれています。

「どうしたの? もうラタ姉は、怪物にならなくていいんだよ」

「違うの……ごめんね、今まで嘘吐いていて。実はね、私もね……不老不死の身体なのよ。大人の回し者なの!」

 空気が凍りつきました。

「私の役目、それは子供たち、特にあなたのような賢い子に、浄化杖を開発するように持っていくこと」

「じゃ、じゃあ、ピピスやブレティが怪物になって、泣いていたのは……」

「違う! ピピスやブレティが、怪物になったというのは嘘だし、そのことは知っていたわ。でも、悲しかったのは本当よ! 私は、もうこんなことはしたくなかったの。怪物になる、といいながら、本当は生きていて、子供たちが全員死んで、新たな子供が送られて、それでまた私が嘘を吐くなんてことはしたくなかった……私は、セブンのように強くはなれなかった……できるものなら、本当に怪物になって、大人を殺して、自分も死にたかった……」

 ラタが、その場で泣き崩れました。

 ラタのいっていることは、本当のことでしょう。心から、子供たちを愛していたに決まっています。それは、ラタの子供たちへの接し方からもよくわかることです。

「じゃあ、あの戦争とか平和の授業も……」

「あれは、私が勝手にやったことよ。今までの授業が全て、大人たちによって決められていたものだから……本当に私がいいたかったこと、教えたかったことがいえないでいたから……」

「でも、もう大丈夫だぜ。ブラフがなーんにも知らずに、浄化杖を振って――」

 ゼブルの言葉が、止まります。

 そこには、信じられない、いえ信じたくない光景が生まれていたからでした。

 ラタの身体が、白く光り、足からどんどんと消えていっているのです。

「私がもっと早く大人たちに反抗していれば、こんなことには……」

 ラタは、チキンの頭を優しくなでました。彼女の頬から、ぽつぽつと落ちる涙がチキンの頬を濡らします。その涙も、白く光っていました。

「いずれあなたたちは大人になる……でも、同じ歴史を繰り返さないようにしてね。私は思うの、ブラフを王とする大人たちも、多分昔は――」

 ラタの言葉と涙は、ふっつりと切れ、後にはゼブルとチキンが残されるだけでした。


 本作は、我が人生における初の児童文学作品、です。対象年齢小学校四年生以上を想定しておりますが、友人からはその年代からしてみれば、やや難しいのでは、いや、待てよ、そもそもその年代というと、読解力にばらつきが、かなりあるような……という具合に、果たしてどこまでが小学四年生以上にとって難な表現であるか否かが、かなり私を苦しめました。思い返すと、私が小学三年生だった時、小学五年生以上対象の「モモ」を読んで、さっぱりだったことがあり、そうすると、やはり本作は五年生以上にすべきか、とも考えました。結局、わからないんですけどね。

 ところで、本作は何かと初の試みが多いのです。短編における「です・ます調」を使用したことも、イラストから小説という逆パターンというのも初めてでした。色々と小説的なことに関して頭を痛めるのは、前々からなので、さしたる問題ではないといえばないので、別段特筆すべきことはありません。

 ただ、最大の問題は、やはりキンダーキングダムのイラストにおいて、相当程度の世界観が構築されていた、ということが自分にとっては問題でした。

 Cats The Moke氏のイラストには、ある程度の世界観が構築され、なおかつキャラクターの性格まで決められていたのです。京大に通う知能に優れた友人にそれを言うと、「ちょ、その絵師でしゃばりすぎ(笑)。お前から発想(設定)を抜いたら、何が残んの?」と言われました(友人言い過ぎ)。設定や世界観だけは、酷評二人組のみならず、ネットにおいても、意外と高評価を得ております。

 しかしながら、積極的に自分から書く、といったのだから、自分に責任があるわけで、なおかつ展開が奇遇にも脳内で再生されたから、というのがありました。

 早速、書き終えてみると、どうにも導入部分の弱さが目立つかな、というのが率直な気持ちです。つまり、言ってしまえば陳腐な世界観でも、導入部分で読者を引き込む、という技術が私にはなかったのです。それでも、なるべく努力しましたが、奮迅の甲斐も虚しく、失敗したようです。

 後、児童文学のくせして、小学生の読者なんているわけがなく、その反応が欲しい今日この頃。


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