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萎まない疑問

 どれだけの間、石原を走っていたのでしょうか。チキン本人も、もうわかりません。わかっているのは、ようやく前方にキンダーキャッスルが見えてきた、ということだけでした。

「ああ……」

 子供の子供による子供のための国、それがキンダーキングダムです。

 安心して、チキンは走るのをやめました。ここまで来れば、怪物が襲ってきても、心強い仲間たちが助けてくれるはずですから。

 普通の城と違い、キンダーキャッスルは大変個性的です。

 普通、壁は切り出された岩から造られるのですが、子供たちの城は、青、黄、赤の巨大レゴブロックで組み立てられていましたし、尖塔は溶けかけたアイスのようにぐにゃりと曲がり、中央からはドラゴンに見立てた楼閣がそびえ立っています。これは、矢倉としての役目も果たします。ええ、そうなんです、口を開けば、そこには望遠鏡があり、ここに敵が攻めてこようものなら、すぐに発見できるのです。

 また、遊び心として、口からブランコを垂らしているので、暇な時は遊ぶこともできます。チキンは、よくそのブランコに乗りながら読書に明け暮れています。

 さて、こんなにも変わった城を持つ国、キンダーキングダムにいる多くの国民は、大人を、そして老人もちょっぴり嫌っています。

 嫌っている理由は、なんなのでしょう。チキン自身、そこのところに首を傾げています。歳だけが違うという理由で、どうして人間は離れ離れにならなければならないのでしょう。なぜ、同じ種族なのに争うのでしょうか。

 いえ、理由はしっかりわかっています。そう、大人はずる賢くて、冷たくて、子供をバカにします。子供には権利がない、といわんばかりのことをしてきました。

 自分たちは日頃から遊んでいるというのに、子供にはやれ勉強だの、やれ手伝えだの、嫌なことをたくさん押しつけてきます。

 ――というようなことを、チキンは本で知りました。実のところ、チキンは大人にも老人にも会ったことがありません。歳に関係なく、人々が笑い合っていた時代というのは、それはもう遙か昔の物語なのです。今となっては、その時代を知る方法は、読書しかないのです。そして、それが真実かどうか……子供たちは、すっかりそのことを信じていますが、チキンは違いました。

 彼は、どうにも過去の真実がちぐはぐな気がしてなりませんでした。例えば、大人であっても、当然、子供であった時代があったはずなのです。それは、老人にもあてはまります。ですので、勉強や手伝いは、大人もやってきたことなのです。なにも、今の子供たちにだけ押しつけられた厄介ごとではありません。

 さらにいうと、どうして大人の国は滅びないのでしょうか。年齢別に世界が分かれてから、すでに五百三十七年が経った、と書物にはあります。もし、この書物が正しいのなら、とっくの昔に、アダンティーキングダム――大人の国――は滅んでいるはずなのです。でも、現に、アダンティーキングダムは存在し、気まぐれに、チキンの住む国と戦っています。

 エルダリーキングダム――老人の国――についても、よくわかりません。老人の国は、それこそ大人の国より早くつぶれているはずなのに、まだ存在します。これは、子供の国にもいえることです。赤ん坊はどこからも出てこないし、人数は減っていくばかりなのですから。

 老人と大人は、敵対しています。今はにらみ合ってばかりで、目立った戦争を起こしてはいないものの、いずれ近いうちに戦が起こる、とチキンは考えています。

 なぜなら、老人が大人に攻撃を加えなくなったのは、単なる資金と人員不足だからです。戦争を続けるのには、お金と人が水のように流れていって、消えてしまいます。老人たちは、身体こそ弱いものの、頭はキルダン大陸一なのです。考え抜かれた戦略、蒸気を動力として戦うロボット、それが彼らの強力な武器です。

 一通り、老人と大人のことについて考えていたチキンへ、ふいに光が向けられました。どうやら、城の守衛がこちらに気づいたようです。

「化け物か?」

「いや、違う。あれは人だ」

 僕だよ、とチキンは大声でいいました。

「ああ、わかってる」

 守衛が、怒鳴り返します。息を激しく弾ませるチキンは、すたすたと歩いて、開かれた城門をくぐりました。


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