緻密な秘密
と、ガゴン、とくぐもった音がし、え、え、と思っている間に、材料棚が横へと移動していくではありませんか。
これには、チキンも驚き、そして手を棚に入れたままなので、とっても焦りました。だって、何かにふれたら、とんでもないことなのですから。
「わわわわわ」
棚が横へ横へと動くのに合わせて、チキンも横へ横へ。
ああ、棚君、棚君、戻れ戻れ。
とチキンは念じてみましたが、棚はいうことをちっとも聞いてくれません。ずんずんずんずんと移動します。どれくらい移動したのでしょう。気づけば、棚が元あった場所に、ぽっかりと穴ボコがあるではありませんか。
「それに、実際はあんまり移動してなかったか……」
ええ、そうです。棚は、チキンの背丈分くらいしか動いていませんでした。
チキンは、大口を開けたような穴を覗き込んでみました。
貝殻に耳を当てた時のような音色が聞こえます。いいえ、音色ではありません。もし音色なら、聞けば心が弾むものでしょう。しかし、これはどちらかというと死者の泣き声に近いものがあり、聞くと心臓がキュッと縮こまりました。
思わず身震いし、チキンはゴックンと唾を飲み込みました。
この棚の奥にあったボタン。
けれども気づかれないように、置かれていたカエルもどきが入ったビーカー。
そして、不用意に棚に手を入れられない未知の材料たち……。
チキンの中で、切れ切れだった糸が、少しだけつながりました。もしかしたら、この穴は発見されてはいけなかったものなのかもしれません。
誰に見つかってはいけなかったのでしょう?
自分?
それとも子供に?
大人に?
老人に?
わかりません。でも、ただ一ついえることは、穴には危険な何かがひそんでいるかもしれない、ということです。
行ってみたくてうずうずするのですが、今はラタのためにできることを考えなくてはなりません。
チキンは心を鬼にして、その穴から離れ、丸机のそばに置かれている椅子に腰かけました。
ラタを救うためには、彼女に不浄石を使わせないのが一番手っ取り早いのです。ですが、ラタを説得することはできないでしょう。
だとしたら、チキンが何か発明して、それを解決するしかありません。でも、一体全体何を発明すればいいのやら。
うんうん、と考えてみましたが、こういう時に限って、アイディアが浮かんできません。いつもなら、ぽんぽんと飛び出してくるのに、です。
気分転換しよう、とチキンは考え、研究所を飛び出しました。