チキンポット
チキンポットは、キンダーキャッスルができた時から、ずうっとあるようです。だって、鉄板を組んで造られたものなのですが、痛みが激しくなって、雨漏りする時もありましたから。そんな時、チキンは鉄鉱石から鉄板を作って、上から重ねました。こういうことは、以前にも行われたようで、チキンポットはちぐはぐな色をしています。くすんでいる鉄板、きれいな鉄板が混じっているのです。
さて、チキンは今日から明日に変わる前に、なんとしてでもラタの怪物化を止めなくてはなりません。
どうすればいいのだろう、とチキンは研究室にある設備を、なんとなく見回しました。
棚にきちんとしまわれているビーカー、フラスコ。
深みのある茶色の木製試験管立て。そこには、試験管が数本突き刺さっています。
そして、材料棚。そこには、チキンと、それ以前の誰かが集めてきた実験材料が詰め込まれています。もうこれでもか、といわんばかりに、です。
チキンは、きっちりと片づけなければ気が済まない男の子でしたが、ここばかりはどうにもなりませんでした。
というのも、チキンでさえ知らない、しなびた草の束、赤と青の斑点を背負ったカエルに近い生物のビーカー詰め、珊瑚の形をした黄ばんだ骨。
この中に、毒があるかもしれません。未知の材料ほど危ないものはないのです。ですから、チキンは決してそこに手を入れませんでした。
しかし、いつまでも放っておくのもどうだかな、とチキンは窮屈そうに身を縮めている材料棚の戸を開けてみました。
少し鼻にツン、とくるものがあります。慌てて、チキンは戸を閉め、用具箱に、直行します。そこには、厚手の軍手、防毒マスク、実験用保護ゴーグルなどが入っています。
用具箱はしまい忘れていたので、中央にある丸机に、ぽんと置かれたままでしたので、ものの数秒でチキンは防毒マスクを装着できました。厚手の軍手もしようとしましたが、浸透するような毒だったら意味がないし、棚の物にはさわらないでおこう、と思い直しました。
さて、気を取り直して、再び材料棚の戸を開けました。今度は防毒マスクをしているので、異臭もわかりませんし、悪いガスでも、へっちゃらです。
「でも、僕は、なんだかツメが甘いよなあ」
そうなのです。徹底するなら、それこそ『守護石』から作られた防護服でも着ないとダメです。でも、そこまでは面倒なので、彼はしたくありません。それに、やはり材料棚に、猛毒を置くなんて、少し考えにくいです。
でも、さわるのだけは、チキンはしませんでした。ゆっくりと、棚の中を見ていきます。おや、右奥の方に、見慣れないものが見えます。
そうですそうです、扉を開けた振動で、右にあったカエルもどきのビーカー詰めが、少し左にずれて、その赤いものが見えるようになったのです。
なんだろう、とチキンは目を凝らして見ると、なんとそれは赤いボタンでした。少し曇った赤色ですが、ちゃんとしたボタンです。
おそるおそるチキンは手を伸ばし、そのボタンを、ポチンと押しました。指に伝わるちっちゃな反発が、少し心地よいです。