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6.

「ミッシェル、ミッシェルってば!」

「何よ、兄さん」

 

 雷帝の来訪の日時でもある、王家主催の夜会の知らせの手紙を睨みつけていると、兄さんが私の肩を叩いてせっかくのシミュレーションの邪魔をする。

 

 せっかくこうきたらこう、こうきたらこう!とボクシングの要領で攻め方を考えていたというのに……。

 

「さっきから眉間のシワがスゴイけど、どうしたの?」

 

 兄さんに言われて、ハッとした私はシワよ離れろと念じながら眉間を擦る。

 そして手鏡で眉間を確認して、もう刻まれていないことにホッと一息をつく。

 

「雷帝迎撃方法をちょっと、ね……」

「ああ、なるほど……って迎撃しちゃダメだよ。人違いだったんだろう? そうだと、彼も納得して帰ってくれたんだろう? ならもうメイガスとは関係ないって」

「でも念には念をって、備えあれば憂いなしって言うじゃない?」

 

 どこの言葉だか忘れたが、そんな言葉があると昔本で読んだ記憶がある。

 

 なんともいい言葉だ。

 だが兄さんはムムムと顔をしかめるばかり。

 

「備えていたが故に雷帝と目が合った途端に彼に喧嘩をふっかける、なんてことがあったら俺の胃がもたないのでやめて下さい。それにその日はメイガスも出席することになってるんだから、頼むよ?」

「ああ、そのことなんだけどその日は私がメイガスと一緒にいるわ」

 

 ちょうど良かった。

 シミュレーションをして導き出した複数の行動パターンのうち、被害を最小限に抑えられると私が確信した最適な解答をちょうど兄さんに提案しようと思っていたのだ。

 

 その答えこそ、私とメイガスの2人が先に夜会を後にするという行動である。

 万が一、雷帝がメイガスを狙ってきた場合兄さんに対応役をさせるのはいささか心配ではある。


 だが雷帝がメイガスに近寄ってくるということは、私と雷帝との交渉が失敗に終わったということを意味する。


 そして今の私の状態は臨戦態勢と言っても過言ではない。自分でも何を口走るか分かったものではないのだ。

 

 そんな状態で敵前に出るなど状況を悪くする可能性が高まるばかり。

 

 幸運にも噂によると今回の雷帝の滞在期間はわずか3日。


 国に入り、夜会、国王陛下との交流の末の帰国で3日!

 

 つまりは耐えるのは夜会だけでいいのである。

 

「まぁいつもミッシェルに頼ってばかりじゃ悪いし、それは構わないけど……ミッシェル、大丈夫なの?」

「何が?」

「雷帝がまたこの国を訪れるなんて、なんかありそうな予感がするんだよね……」

「変なこと言わないでよ、兄さんの予感ってよく当たるんだから……。やっぱり物理的に迎撃するべきかしら?」

「それは本当にやめて!!」

 

 

 ――そう、軽口を叩けていたのはきっとシミュレーションなんかしながらも心の底では自分達は関係ないと思い込んでいたからだろう。

 

 

「ミッシェル=フランターレ、私と結婚してくれ」

 


 だってまさかメイガスの次は私を嫁にと言い出すなんて普通考えないでしょ……!?

 



 一旦、冷静になって今までの出来事を思いかえそう。

 

 以前雷帝が来訪した際に開かれた夜会の日と同様に、フランターレ家は私と兄さん、メイガスの3人で夜会に参加した。


 今宵はあの雷帝が嫁を探しに来ていると言うだけあって、婚約者がいるご令嬢方もその親も雷帝の元へと集まった。

 別に自分を、娘を嫁にしてほしいわけではなく、この時に顔でも売っておこうという魂胆だろう。

 なにせこの短期間で二度もこの小国を訪問しているのだ。

 繋がりを作れるものなら作って置きたいと思うのは貴族として当然の思考だろう。


 そのおかげでいつもはメイガスに集中する人の群れも分散し、私達の負担も軽くなっていた。

 

 多分メイガスの夜会滞在時間の記録を大幅に更新したんじゃないかな?と思えるほど。

 それでもやはりずっと対応し続けるというのは無理があって、疲れが見え始めたメイガスをとりあえずは休憩室に休ませようと兄さんや他の貴族達に断りを入れてその場を後にした。


 メイガスの脇に手を通して、肩を支えながら廊下を歩く。

 相変わらずメイガスの身体は羽根のようにとはいかないまでも、私よりもずっと軽いままだ。

 そろそろ消化のいいものだけじゃなくて、筋肉や脂肪が付きそうなものも食事に組み込むべきかしらなんて考えていると、右耳からはメイガスの暗い声が入って来た。

 

「ごめんね、姉さん」

「気にしないで。メイガスはよく頑張ったじゃない」

「いや、そうじゃなくて僕が言いたいのは……っこほっ」


 右手で胸を押さえ、苦し気に声を上げたメイガスは無理をして話そうとしたせいかせき込んでしまった。


「ごほっ、ごほ」

「メイガス、無理しちゃだめよ。あ、もう着いたわ。ほら寝てて。姉さんが水をもらってきてあげるから」

 まだ何か言いたげのメイガスに後で聞くからと言い聞かせて、布団を首元までかぶせると部屋を後にした。


 ――ここまではいつも通りだった。

 

 だが、部屋のドアを開いたそこに雷帝はいた。


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