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23.

 シェトラッド王子へ渡す手袋が完成し、ノリに乗っているうちにと他の三人の分も完成させた。


 どれも数日で全てを編んだとは思えないほどいい出来に仕上がった。


 なんならメイガス用にもう一着くらい編んで贈りたいくらいだ。

 だがあんまり贈っても、夫婦仲が上手くいってなくて夜な夜な編んでいるのではなかろうかと心配されても困る。


 なにせメイガスも兄さんも変な時に鋭いのだから。



 レムさんには手紙と共に三人分の贈り物を渡した。

 ファティマさんがクロスカントラーの学園にいるのは知っているのだが、彼女がどこに住んでいるのかまでは知らされていない。だから兄さんへの手紙で、靴下と手紙はファティマさんに送って欲しいと頼んでおいた。

 意外と足下って冷えるのよね……と以前ぼやいていたから、寒さが本格化するよりも前には届くように祈っておこう。



 ――とこの三人への贈り物はさして難しいことではない。

 問題はシェトラッド王子にこの手袋をいつ渡すかなのである。


 実は数日前に一度だけシェトラッド王子と顔を合わせる機会があったのだ。……あったのだが、どうもなんだか調子が悪そうというか、後ろめたいことでもあるのか、早くこの場から立ち去りたいとあからさまに纏う空気で訴えていたので、手袋を渡すどころかろくに話もできなかった。


 城に帰ってきたばかりで疲れているのだろうとその時は話をサクっと切り上げたのだが、その後もすぐに仕事に取りかかっているらしく、王子専用の執務室から出てこないのだ。


 忙しいというのもあるのだろうが、そろそろ本命の相手が出てきてもおかしくないタイミングではある。


 そちらのことで何か立て込んでいるのかもしれないと思うと、覚悟していたことではあるが、ふぅっとため息がこぼれてしまう。



「ミッシェルさん、ため息なんて吐いてどうしたの?」

「ルシェッド、お前つい今しがたシェトラッドに会ったばかりでよく聞けるな……」

「ルシェッド王子!? それにサルファドール王子まで! あ、こんなところに立ったままで邪魔ですよね。すみません、今退きますので」

 

 声につられるように振り向くとそこには、心底心配していると言わんばかりに目尻を下げて小首を傾げるルシェッド王子と、そんな弟の行動が信じられないとばかりに目を大きく見開くサルファドール王子が立っていた。

 急いで端に寄ろうとすると、私の袖をルシェッド王子はぎゅっとつかんだ。


「悩みがあるなら聞くよ? だからお話ししてくれると嬉しいな?」

「ルシェッド王子……」

 まだ私よりも、弟のメイガスよりも幼いというのに……。

 こんな子どもにまで心配をかけるなんてダメだなと反省する。


「何でもありませんよ」

 そして即席の笑みを顔に張り付けて安心させようとした。


 ――けれどそれは私よりもうんと多くの社交の場を踏んでいるのだろう彼らには通用しなかったらしい。


「ミッシェル、君はお菓子とお茶が好きらしいな。今、用意させるから付き合え」

「え?」

「僕も!」

「ルシェッド、お前はこれからダンスのレッスンの時間だろう?」

「そうだけど……僕はミッシェルさんとお話したいな~」

「さぼるなよ?」

「さぼりじゃないよ! ただお姉さんっていうのは初めてだから! シェトラッド兄さんはあんなんだし、サルファドール兄さんに至っては…「ミッシェル、今度ルシェッドとのお茶の時間をとってくれるよな? な?」

 サルファドール王子はいきなりルシェッド王子の口をふさいだと思ったら、せっぱ詰まったような目でこちらへ頷けてと訴えるのだ。

 それにはもちろんとばかりにうんうんと何度も頷くより他はない。

 ここでルシェッド王子の言葉の先が非常に気になるとかは思ってはいても、聞いてはいけないことであるくらいの判断は利くのである。


 それにしてもこの会話から察するに、ルシェッド王子が習い事をさぼることはよくあることのようだ。

 初め見たときから真面目そうな王子だと思っていたのだが、そんなのはアテにならないと実感させられた。

 第一印象と言えば、サルファドール王子は初めはこちらを睨んでいたようにも思えて、あまりいい印象は持たなかった。


 だが今の彼はどうだろう?


 初対面から今に至るまで顔を合わせれば会釈はする、くらいの仲の義妹を心配して、お茶にまで誘ってくれている。

 ルシェッド王子は待望の義姉である私に興味を示してくれているらしいというのは分かるが、サルファドール王子もそうなのだろうか?


 でも特に好感度があがるタイミングとかなかったしなぁ……。


 あの日は緊張していたのではないか?という考えがふっと私の頭に浮かんではそのまま定着しそうである。



 そんなことを考えていると、無事ルシェッド王子を習い事へと送り出すことに成功したらしいサルファドール王子が声をかけてきた。

「ミッシェル、行くぞ?」

「え? 行くってどこに、ですか?」


 思っていた進行方向と真逆を目指そうとするサルファドール王子に首を傾げる。


「どこにってバラ園だが? すでに使用人にはお茶の用意をさせている」

「バラ園……ですか」

「? 行くぞ」


 バラ園なんてあったのか。

 まぁお城だし、バラじゃないにしろ何かしら草木が植えてある場所くらいあるか。


 着いてこいとばかりに少し先で待つサルファドール王子について、私は初めてのクロスカントラー王国城のバラ園へと向かうのであった。


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