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13.

「姉さん、本当に分けてもらっちゃっていいの? シェトラッド王子からの贈り物なんでしょう?」

「いっぱいあるし気にしないで。というかメイガスがいやでさえなければ是非もらって欲しいの。さすがにこの量を部屋に置いておくと香りで酔いそう……」

 

 初めはいい香り〜とか思っていたのだ。

 そう、初めは。


 だがシェトラッド王子は何を思って、こんな香りの強い花ばかりを集めたのかと思いたくなるほどに部屋に香りが充満するまでそう時間はかからなかった。

 もしかしてこれ、お詫びの品とかじゃなくて嫌がらせなんじゃないか? と思うほどにはその香りは私の頭を刺激した。


 それでも香り自体がいいのは事実。

 密室で大量に置いてさえいなければこの香りを楽しめることは間違いない。

 

 だから私はお屋敷中に花を分散させることにした。

 

 ――というわけでメイガスのお部屋にもおすそ分けに来たのだが、メイガスは花瓶を胸の前で止めたまま、困り顔を浮かべている。

 

 メイガスは私よりもずっと可愛いものとか綺麗なものが好きで、花も好きだったはずなのだが……もしかしてこの花は好きじゃないのかしら?

 

 少量でも香りが強すぎるとか?

 

「あ、でも嫌なら無理しなくていいのよ。これは玄関先にでも飾ってもらうから!」

 

 姉としてもっと考えるべきだったかとメイガスの腕の中の花瓶に手を伸ばす。

 玄関先にはすでに大きめの花瓶に飾ってあるのだが、まぁそれはもうひと回り大きな花瓶に変えてもらえば済む話である。

 玄関先ならもう少し大きくても大丈夫、よね?

 ダメそうだったら、空気の流れが常にあるところとか飾るところは要相談な訳だけど、ユランに聞けば何とかなるでしょう。

 

「嫌じゃない、嫌じゃないけど……シェトラッド王子が姉さんに、って贈ったものを分けてもらうのは複雑、かな」

「そう?」

 

『お詫びの品』だし、愛する恋人だの婚約者だのに贈るものとはわけが違う。

『贈る』と『送る』のでは音は同じでも込められた気持ちには大きな違いがあるのだ。

 

「綺麗で、香りもいいし、シェトラッド王子は姉さんのためにこの花を! って選んでくれたんだと思う」


 花瓶に鼻を寄せて儚げに微笑むメイガスはいつもの5割増しぐらいで美しいが、その考えに「そうね」「ありがたいわよね」と答えることはできなかった。


 私は未だになぜあの『雷帝』がお詫び品といって花束を送って来たのかその真意をつかみかねているのだ。

 

 結局、私の部屋までわざわざ足を運んだメイガスは『姉さんの部屋にもちゃんとあるんだね!』と納得すると、嬉しそうに花瓶を抱えて自室へと戻っていった。

 

 花は気に入っていたが、私、というよりは雷帝の気持ちを気にして受け取ろうか受け取らまいか迷っていたようだ。

 

 メイガスは優しいからそこまで考えて行動できるのだろう。

 私も見習うべきか……。

 いや、でも図太い方がなんだかんだで便利だしなぁ〜。


 メイガスが部屋へと帰った後の自室で花の香りに包まれながら、お茶会の招待状の返事を綴りながらそんなことを考えていた。

 




 ――『雷帝からの贈り物』が週一のペースで送られてくることも知らずに。

 

 



「ミッシェル、シェトラッド王子からの贈りものだよ」

「また、なの?!」

「またとか言わないの! でもさすがにお詫びの品してはこうも毎週送ってくるなんて。律儀というか気にしすぎというか……。ミッシェル、お礼のお手紙は書いているんだろう?」

「ええ。毎回お礼と遠回しにもう止めてくれと書いた手紙を物が届いたその日には送っているからこれを送ってくる前には読んでいるはずよ」

 

 ただ次の贈り物と一緒に前回の贈り物を気に入ってくれて嬉しいだの、今度はこんな趣旨の贈り物をしてみただの、また気に入ってくれると嬉しいだの、私の気持ちが一切通じてはいないのが問題なのだ。


 しかも2回目からはちゃっかり『お詫びの品』から『贈り物』に変化していたし。


 雷帝は本当に私に好意的に思ってもらおうとしているのかしら?

 

 私、別に贈り物で心が揺らぐような女じゃないんだけど……と思いつつも、毎回毎回どこから聞き出したのかと思うほどに私の好みど真ん中の品を贈ってくるのだ。

 

 今回のこの小さなジュエリーケースに大事にしまい込まれていたイヤリングだって、私が自分には似合わないと分かっていてもつい手を伸ばしてしまう空に広がる透き通った青色のサファイア。

 これが金に物を言わせて大ぶりの石のついたものなら、たまたま私の好きな宝石を送って来たのかしら?としか思わないが、彼が送って来たのは雫の形をした小ぶりの可愛らしいものである。

 存在を大きく主張するわけではなく、けれども気品の漂うそれは私でも気軽に使えそうなデザインでさっそく私の心をわしづかみにして見せる。


 そんなことされてしまったら、彼らは私の好みなんてちっとも知ろうとはしなかったよなと、つい元婚約者達と比べてしまって、ほんの少しくらいは心が揺らいでしまうのも事実なのだ。

 

 

「はぁ……」

 どうしたら雷帝とのこの何とも言い表しづらい関係を終わらせられるだろうか?

 

 以前彼から贈られたバラの彫刻がなされた万年筆を手に、私は大きなため息を吐いた。


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