表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔眼の王~思考読解の邪視~  作者: くろふゆ
  第一章 九条透 daily life and old days
6/65

005話 九条透と変態メイド

「今日もお疲れ様。いっぱい頑張ったね。偉いよ。良い子、良い子。ふふっ、可愛い♪」


 誰かの声が聞こえ、優しく頭を撫でられている感じがして、俺は静かに目を覚ました。

 すると、目の前に京香の顔がある。……ん? なぜだ?


「珍しいですね。泣いているのですか?」

「……え?」


 手を目元に添えると、生暖かい涙が頬を伝って流れ落ちてきた。

 昔の夢を見て、あのときの辛さを思い出し、泣いていたとでもいうのだろうか。

 涙なんて、もうとっくの昔に涸れていたと思っていたのに。


「な、なんでもないよ。――って、え、は? な、なんで!?」


 今の状況を把握して、俺は戸惑いの声を上げた。

 俺が泣いていたことはこの際どうでもいい。問題なのは、いつの間にか俺は横向けになっていて、俺の頭が京香の膝の上に乗っていることだ。


「よく眠れましたか?」

「……え、あ……はい……」


 清楚なメイド服越しに京香の体温を感じ、なんだかとても安心する。


「透様が眠りについたあと、すぐに横になられたので、私が膝枕をしていたのですが、ご迷惑でしたか?」

「――ひ、膝枕っ!」


 いや、全然迷惑なんてしていない。むしろ優しく包まれている感じがして落ち着くくらいだ。京香の温もりが伝わってくる。あと京香の太股がすべすべしていて柔らかい。


「い、いや、別に迷惑じゃないよ」


 視線が泳ぎ、声が上擦ってしまう。自分でも頭が混乱しているのがわかった。


「そうですか。なら良かったです。私も透様の可愛い寝顔が見られて役得でした」


 京香の声が上から覆い被さるように聞こえてくる。視線を上に向けると、豊かな胸越しに京香の顔を見る格好となり、気恥ずかしさを感じ思わず目をそらしてしまう。


「ちなみに、今日の私の下着は黒色です。……あ、今、想像しました?」

「――ぶっ! ば、バカ言うな! 誰がそんなこと……」


 顔に触れている京香の太股のすぐ近く、そのスカートの下に黒いパンツが……

 俺は心臓がバクバク鳴っているのを、京香に悟られないように必死に抑えた。

 京香はどんなときでも側にいて支えてくれる。それでいて、たまにこういう大胆なことをしてくるから、俺はドキドキさせられる。本当にこいつは――


「……なぁ、なんで俺なんかに優しくしてくれるんだ?」


 確かに以前、京香は俺の力になってくれると約束した。

 でも、こんな風に誰かに大切にされることは、今までの俺の人生にはなかったことだ。


「ご自身の能力を使われれば、私の本心がわかるのではないですか」

「……おい」

「冗談です」


 京香は表情を変えずに言う。


「あなたが作り笑いをしているとき、あなたはいつも心で泣いている。あなたは今までに、どれだけの涙をその心に隠してきたのですか?」

「……………………」

「これでも私、両親に愛されていたんですよ」

「それが、どうかしたのか?」


 ……なんだ。親に愛されなかった俺を憐れんでいるのか。

 くだらない。そんなものがなくても、俺は――


「だから、あなたが得ることのなかった愛情を……私が注いであげたいのです」


 俺の頭に優しく手を置いた京香の目に、俺に対する憐れみの感情はなかった。


「……ふん。勝手にしろ」


 俺は気恥ずかしさを感じて、京香に膝枕されたまま顔を横に向けた。


「では、勝手にさせていただきます」


 京香が俺の頭に乗せた手で軽く髪を撫でてくる。


「透様の髪の毛、サラサラですね。とてもいい匂いがします」

「あ! ちょっ、汗を掻いたから、匂いを嗅がないでくれ!」

「大丈夫ですよ。むしろ興奮します。私、この匂い大好きですから」


 俺の頭に顔を寄せ、すんすんと匂いを嗅いでくる。京香からも甘い香りがした。

 さらに顔を近づけることで、京香の豊満な胸が俺の顔に押し付けられる。


「む~~っ! こ、この変態メイドぉ……」


 俺は上目遣いで京香を睨む。普段の俺なら、他人にこんなことは絶対にさせない。

 でも、京香にされるのは、なぜか嫌じゃなかった。

 どうして、こう大人しく従っちゃうのだろう。これが惚れた弱みってやつか。


「ふふっ、私のツンデレご主人様可愛すぎ♪ よしよし、頭撫で撫でしてあげますね」

「だ、誰がお前のだっ! お、俺は……誰のモノでもない」

「いいえ、私のモノです。私だけのモノですからね。ちゅっ♪」


 長い前髪を掻き上げられ、突然おでこに優しくキスをされた。


「……へ? なっ……!? な、な、な、何するんだ、このエロメイド!」

「私のような、エッチなメイドさんはお嫌いですか?」

「うぅ……うるさい……」

「私、やっぱり透様が好きです。大好き。ときどき抑えきれなくなる。好きだから、あなたのすべてが欲しくなる。その温もりも、心も……全部、だから――」

「~~~~~~~~~~ッッ! 待って……く、唇は……ダメっ……」


 わかっています。と余裕ありげに微笑みながら、京香は俺の頬に軽くキスをする。


「それにしても、相変わらず押しに弱いくせに、あと一歩のところでガードが堅いですね」

「口づけは、生涯この人と一緒にいると決めた者にだけ許すものだ」

「……乙女ですか。なんで透様は女の子じゃなく男に生まれてきたんでしょうね。透様が女で私が男だったら、この場で強制的に孕ませていますよ」

「なっ、生々しいことを言うな! お前みたいな変態、俺が女だったら貞操の危険を感じてとっくに解雇しているわ! というかそもそも雇ってないわ!」


 いいように弄ばれ顔を真っ赤にしながら、俺は早く家に着いてくれと祈っていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ