053話 部活動Ⅱ
「それで、カズハはどこの部活に所属しているんだ?」
「あ、今度はボク? ボクは調理部だよ。放課後、時間があるときに、料理やお菓子を作ったりするんだ。作ったものは男子寮と女子寮におすそ分けしに行くんだよ」
「へぇ、凄いじゃないか。今度、何か俺にも作ってくれよ」
「うん、いいよ。ところで、トオルくんは料理とか好き?」
「俺は簡単な料理しかできないよ。そうだカズハ、料理のできる男はモテるそうだぞ」
「そ、そうかな。ボク、彼女とかいたことないんだけど……」
俺も大概女顔だが、お前は普通の女の子より可愛いからな。
カズハを相手にする女も萎縮してしまうのだろう。
「そうだ、今日の放課後も何か作るから、よかったら調理室に遊びに来てよ」
「ああ、わかった」
下手をすれば、少女と見間違えるほど可愛い、それでいてどこか幸薄そうなカズハの儚げな言葉に、俺は相変わらずの完成された作り笑いを返した。
「さて、最後はお前だ。カイト、お前は何をしているんだ?」
「ナニってお前、そりゃ決まっているだろ。今、隣に座っている女子のブラジャーが見えそうで見えな――」
「いや、部活の話だよ……」
「……おっと、この俺様としたことが、つい女子の胸元に現を抜かしてしまったわ。ははははは! げふんげふんっ!」
咳払いをし、カイトはいつものように高笑いする。
「ふはははは! それで? 部活動の話だったな。俺様はそこにいる一般入学のムサシやカズハとは違い、スポーツ特待生として陸上部に所属している」
「陸上部か。種目はなんだ?」
「よくぞ訊いてくれた。種目は短距離走だ! 男子百メートル競走、男子二百メートル競走、男子四百メートル競走、計三種目に出場している。ふふっ、意外か?」
「いや、予想通りだな。はっきり言って、お前はチームスポーツに向いていない」
「……ふん。ま、まぁ、この俺様が俗物に合わせるなど、あってはならぬことだしな」
若干の冷や汗をかきつつ目をそらすカイトを、俺は右目で憐れみを込めて見つめた。
「ちなみに、記録はどれくらいなんだ?」
「去年、一年生にして大会メンバー入りし、個人で全国大会まで行ってやったわ!」
「ぜ、全国!? それは凄いな。素直に感心するよ」
「クックック、いずれはオリンピックに出場して、金メダルを取る予定になっている」
「夢でも目標でもなく、予定ときたか。お前らしいな。大した自信だよ」
それも実力に裏付けられた自信だ。
高笑いをしながら、紫色のメッシュが入った金髪を掻き上げるカイトに、俺は純粋に尊敬の念を抱く。カイトはバカで変態だけど、何か一つ、自分が決めたことを真剣に頑張れる、いい男なのだろう。
ムサシにカズハにカイト、三人とも、俺よりよっぽど魅力的なやつらだよ。
自分の過去を振り返り、本当に俺はこいつらと付き合っていいのか、と疑問に思っていたところ、左肩を軽く叩かれた。
「よっ! 転校生の九条透だっけ? トオルって呼ぶね。ところで隣いいかい?」
黒い眼帯で覆われた左目の死角から、女の声が聞こえた。右目でギロリと睨むように胸元を見ると、青色のネクタイをしている。二年生か。
……っていうか、おっぱいデカっ!
これは京香よりも大きいな。凄いサイズだ。もしかしたらアリサ以上かも……
「ん? ああそうか。クラスメイトっていっても、さすがにまだ全員の顔と名前は覚えてないよね。アタシは前田朋美。トモでいいよ。そこの三馬鹿とは、一年生のときからクラスが一緒なんだ」
「……そうか。俺ではこいつらを扱いきれないかもしれん。そのときはよろしく頼む」
俺の返答を受けて、トモは大きな胸を揺らしながら、自然と俺の左隣りに座った。
身長は161センチくらいだろうか。肩にかかるくらいの茶髪を黄色いリボンで短いポニーテールにしている。つぶらな瞳は大きく、身体は若干筋肉質だ。おそらく何か、スポーツをしているのだろう。
そしてなにより、おっぱいが凄く大きい。
視界を胸が覆い尽くす。まさに暴力的なまでのおっぱい。
トモのおっぱいにおっぱいビンタされたいです。
なんてくだらないことを考えていると、トモが俺の肩に寄りかかってきた。
「トオルは成績特待生なんだよね。ふーん、頭いいんだ。ついに三馬鹿を導く知将が現れたってとこだね。あ、体も結構引き締まっているね。制服の上からでもわかるよ」
「そういうお前は、スポーツ特待生か?」
「へぇー、わかるんだ。なぁに? こいつらから聞いたの?」
俺の左隣りに座ったトモが、カイトたちを見ながら言う。
「いや、体付きでなんとなくわかる」
「体付きって……ちょっと、トオルまでアタシをエロい目で見るのー?」
トモはわざとらしく体をくねくねさせる。彼女の両腕に挟まれた胸元がさっきより強調され、俺の右目が自然と吸い寄せられてしまう。
「……別に、そういう意味じゃない」
「あの、顔めちゃくちゃ赤いよ」
それにしても大きなおっぱいだ。もはや誘っているとしか思えない。その体付きで迫ってこられると……あれ? これ何をされても文句言えないんじゃないの?
「……くっ! しかし、古代ギリシアの哲学者アリストテレスはこう言った。私は敵を倒した者より、自分の欲望を克服した者のほうをより勇者と見る。自らに勝つことこそ、最も難しい勝利だからだ、と。つまり、ここは自分の内なる欲求を抑えるときだ……!」
「何をぶつぶつ言っているの? へへーん、さっきトオルがアタシの胸を見てたの、わかっているんだからね。女子は結構そういう視線に敏感なんだよ。気を付けないと、トオルもそこの三馬鹿の仲間入り。そして晴れて変態四天王の誕生! ってことになっちゃうよ」
トモが馴れ馴れしく、俺の左目を覆う眼帯をツンツンとつついてくる。
――こいつ、遠慮って言葉を知らないのか。
普通、初対面で眼帯をしている人間の目元を弄ろうとするやつなんていないだろ。
「ちなみに、アタシはトオルの予想通り、スポーツ特待生だよ。二年生にして、ソフトボール部のエースを務めています! 自分で言うのもなんだけど、ピッチングだけじゃなくて、バッティングも上手いんだよアタシ」
「ハッ、でもなぁトオル。俺様たちのことを三馬鹿三馬鹿ってバカにしてくるけど、こいつの成績も俺様たちと大差はないぞ」
自慢げに語るトモに、カイトが前髪を掻き上げながらつっかかる。
「うっさいなー! アタシはちょっと知識が足りないだけで、あんたたちみたいに頭の悪いド変態じゃないの!」
「ケッ、貴様の栄養は、すべて胸にいっているんじゃないのか?」
「キーッ! 言わせておけば! カイトのくせにムカつくぅううう!」
トモが体を揺らして怒りをあらわにする。それに伴い大きな胸も揺れた。
……いや、眼福、眼福。ナイスだ、カイト。




