052話 部活動
午前中の、四限目までの授業が終わった昼休み。
俺はカイトとムサシとカズハと一緒に、四人で校外の学生食堂に来ていた。
校外といっても月詠学園の敷地内だ。
学習棟の裏側。男子寮と女子寮の間にある男女共用の食事スペース。
寮生は朝晩とここで食事をとり、昼は通学生にも開放されている。
「おお、ここのオムライス結構美味しいな。卵がふわふわで口の中でとろけるようだ」
「ふははははは! やはり女子と同じ空間で食う学食の飯はウマい!」
「でも購買で買ったパンを、屋上に続く階段の下で食すのも乙でござった」
「あー、あれね。屋上に行こうとする女子のパンツが、見えそうで見えないんだよね」
「……お前ら、さっきから一体なんの話をしているんだよ」
カイト、ムサシ、カズハ、三人の会話に、オムライスを食べていた俺だけが一人冷静に突っ込みを入れる。
「あれさ、ムサシくんが首を傾けて覗き込みすぎたせいで、女子にバレて、五十嵐先生にこっぴどく怒られたよね。竹刀でボコボコにされたのが懐かしいなぁ」
「え? あれは小生のせいじゃないでござるよ。あれはカイト殿が上級生のパンツを見て、思わず『あ、縞パンだ。ガキくせぇ』って呟いたせいでござろう」
「あれ? そうだったっけ?」
「そうでござる」
「はぁ? ちょっと待てよ! ということは何か? 俺様のせいかよ! そんなこと言ったら、なんだかんだでカズハだって――」
「いや、もうその話はいいよ」
俺の冷めた目に、ムサシとカズハは平静を取り戻す。
「そもそも、この俺様は世界に選ばれた存在であってだな、本来は貴様らとは違う――」
カイトだけが、まだごちゃごちゃと言い訳をしていた。
これはたぶん、五十嵐先生に怒られたのはこいつのせいだな。
その現場を知らない俺でもなんとなくわかった。
「そういえばトオル殿は、部活動は何をする予定でござるか?」
ハイテンションで喋り続けるカイトを無視して、ムサシがさりげなく話題を転換する。
「この月詠学園では、生徒はどこかの部に所属しなければならないのでござるよ」
「ああ、そんな説明も受けたな。で、ムサシは何をやっているんだ?」
「小生は剣道部でござる」
「……なるほどな」
ムサシの落武者みたいな姿を見て、俺は頷く。
「実はこう見えても小生、入学当時、剣道部にスカウトされているのでござる」
「へぇ、凄いじゃないか。ムサシは以前から剣道をしていたんだな」
「え? いやいや、小生……剣道は高校に入るまで、未経験でござるよ」
「…………は?」
「それどころか、ろくに運動なんてしたことないでござる。通知表の体育の科目は、五段階評価で常に2でござったしな」
「ん? いや、でもお前、剣道部にスカウトされたって言ったじゃないか」
「あぁ、それは小生が入学した年は剣道部に一年生が少なくてな。剣道部の先輩も小生から溢れる武士オーラを感じ取り、思わず声をかけたのでござろう」
なんだそれ。それってただ、ムサシが落武者みたいだったから、とりあえず人数合わせでスカウトしてみたってことじゃないのか?
「お前、それでよく練習を続けられるな。辛くはないのか?」
「正直、つらいでござる。それにはっきり言って、小生は弱いでござるからな。二年になって後輩ができたはいいのだが、新しく入ってきた一年生にも負ける始末……」
俺の右隣りに座る、ムサシの黒縁メガネが曇る。
「しかし! 小生には憧れの同輩がいるのでござる! その生徒は同じ学年の女子で、所属は二年六組。名前は綴伊澄殿! 素敵な名前でござるよ」
「――ぶっ!」
俺は食べていたオムライスを思わず噴き出した。
「き、汚いでござるよ、トオル殿」
「ごほっ、ごほ。……へ、へぇ、綴伊澄ね」
「そう! 彼女は剣道部副部長にして、同学年の星! 常に凛々しく生徒の前に立つ存在でござる。身長は168センチ。体重は五十七キロ。バストは88センチで、生徒会役員をなさっているのでござる。あぁ、拙者もはやく強くなって、綴殿に褒めてもらいたいのでござるなぁ……あの綺麗な足で踏まれたいでござる」
「この際、なんでお前が綴のバストサイズまで知っているのかは訊かないとして……そうか、ムサシは綴のチームメイトだったんだな」
「むむっ! なんでござるか、その反応? まるで、綴殿をあらかじめ知っていたかのような……さてはお主! 綴殿の知り合いでござるな!?」
「……ははっ、えっと、そうなるのかな」
ムサシの剣幕に、思わず俺はたじろぐ。
「貴殿! 一体、綴殿とどういう関係でござるかッ?」
「あー、あれだ。前の学校で、俺も少しだけ剣道をしていてな。大会でたまたま綴に出会って、ちょっと話をしただけだよ」
「羨ましいでござるぅ! トオル殿ぉ、ぜひ、ぜひ綴殿を紹介してほしいでござる」
「いやお前、男女別とはいえ、同じ剣道部なんだから、自分から話しかけろよ」
「……む、無理でござる。拙者ごとき矮小な存在が、綴殿に自ら話しかけるなんて失礼なこと、できないでござるよ!」
「あっ、そう。じゃあ永遠に遠くから、憧れの綴伊澄を眺めときな」
「そんなぁー、トオル殿ぉ、拙者を見捨てないでくだされぇえ!」
俺の学生服の裾に泣きつくムサシを無視して、俺は正面に座るカズハに右目を向ける。
ちなみに俺の斜め右前、カズハの隣にいるカイトは、隣に座った女子の胸元をガン見していた。なんで普段は傲慢で不遜な態度を取るくせに、こいつは己の性欲にはまったく抗えないんだろうな。不思議で仕方ないわ。カイトにプライドというものはないのか。
どこかで透と京香の初めてを書きたい
それまで投稿続けるか知らんけど……




