050話 新たなクラスメイト
アリサに月詠学園への編入を持ち掛けられた翌日。
五月上旬の天気の良いある日。
俺は月詠学園の白と黒のツートンカラーの学生服に身を包み、二年生の証である青いネクタイを胸に締め、四組と書かれた教室の前で待機していた。
教室の中からは騒がしい話し声が漏れている。
先程、職員室ですでに挨拶をした、二年四組のクラス担任である五十嵐時子先生が「今から転校生が入ってくるので静かにしなさい」と生徒たちに注意するのが聞こえた。
五十嵐時子、二十八歳。身長は俺とちょうど同じくらいで胸は結構大きい。短い髪を青く染めていて、綺麗なおでこを出している。
「おーい、九条! 入ってこーい!」
「……はい」
俺は五十嵐先生の呼び声に応じて、クラスの扉を開き教室へと足を踏み入れた。
左目は黒い眼帯で覆われているため、横目でクラスメイトを視認することができず、少し顔を傾けて生徒たちの様子を伺う。
どうやら、このクラスに綴はいないようだ。朱里は月詠学園ではちゃんと一年に在籍しているらしく、唯一クラスが被るとしたら綴だったからな。
つまり、このクラスに俺の知り合いが一人もいないことになる。
「ねぇ、背はちょっと低いけど、結構かっこよくない? 私、好みかも。狙おうかな」
「えー、絶対あれは可愛い系だよ。女の子みたい。でも可愛さはカズハ君のほうが上かな」
「顔の割に意外と体が引き締まっているね。何かスポーツでもやっていたのかな?」
「……そう? 僕は頭脳派だと思うよ。彼、ずいぶんと知的な目をしているじゃないか」
「つーかあいつ、左目に黒い眼帯つけてねぇか? ぷっ、どっかの軍人かよ」
生徒たちの囁き声が耳に入ってくるが、俺は特に気にした素振りを見せない。
ふん、お前ら有象無象どもに興味なんてないんだよ。
そのまま真っ直ぐ教壇の前へと歩き、俺は黒板にチョークで自分の名前を書いた。
「九条透だ。成績特待生で月詠学園に編入することになった。よろしく頼む」
そう短く告げ、軽く頭を下げた。
別にこの学園で友達を作るつもりもなかったから、少しぶっきらぼうな自己紹介になってしまったかもしれない。
「……おい! オイオイオイ! なんだ、その眼帯は……超カッコイイではないか! 貴様、まさか能力者か!? その眼帯の下にある瞳には、秘められた力が眠っているんじゃなかろうな? それは、この俺様と同類ということ! もしや……仲間か!?」
――なんだ、こいつ……
俺が自己紹介した直後、窓際の後ろから二番目に座る生徒が、興奮した様子で立ち上がった。身長は175センチくらい。色の抜けた金髪の頭、その前髪部分に紫色のメッシュが入っている。制服のズボンにシルバーアクセサリーを複数つけており、見た目はガラの悪いチンピラみたいだ。
そして、右目は普通の色だが、反対の左目――その眼球は金色に輝いていた。
「ふふふふふ、ふはははははは! ハッ、貴様、不思議そうな顔をしているな、九条透。まぁ、無理もない。何を隠そう、この俺様は、世界中のありとあらゆる闇の組織から狙われている、史上最強の超能力者にして『神眼』の持ち主、狗神海斗だ。名字に『神』という字が入っていることから分かる通り、俺様は世界に選ばれし存在。貴様ら下等な平民とは違う、一つ上のステージに生きる、神に等しい万能の――」
「狗神、その話……長くなるか?」
自分のことを神に等しいと声高々に名乗った狗神の声を、五十嵐先生が遮る。
「また始まったよ……狗神の自分語り。しかも全部妄想……」
「狗神の中二病はいつになったら治るんだ?」
「黙っていればイケメンなのにもったいないよな」
「あの金色の左目、カラーコンタクトでしょ?」
「毎日瞼をぴくぴく震わせながら、三十分かけてコンタクトしているらしいよ」
「なにそれどこ情報? 超ウケるんですけど」
「海斗の妹情報。ほらあいつ、一つ下に狗神真央っていう妹がいるじゃん」
「でも狗神って確か寮生でしょ、剣崎と相部屋だったはず」
「じゃあ、中学のときからカラーコンタクトしてたんじゃないの?」
「それにしても、妹の真央ちゃんは兄貴と違ってしっかりしているし、超可愛いよなー。成績特待生で入学して、一年生にして生徒会書記もやっているし」
「あー、あの子可愛いよなー、海斗には興味ないけどオレ真央ちゃんには興味あるわ」
いつの間にか、クラスメイトたちの話題は狗神海斗の話から、その妹である狗神真央という子の話にシフトしていた。
「き、貴様ら! この俺様を差し置いて、愚かなる愚妹の話をするなぁあああ!!」
顔を真っ赤にした狗神が叫ぶ。
……うるさいやつだな。
「狗神……愚かと愚妹では意味が重複しているぞ。もう少し国語の勉強をしろ」
五十嵐先生は狗神に小さく突っ込みを入れ、彼の存在を無視して、俺が入ってきた廊下側の一番前の席に座る生徒を指さす。
「九条、彼女の名前は春野伊吹。このクラスの委員長をしている。何かわからないことがあったら彼女に訊くといい」
「はい、春野伊吹です。伊吹でいいよ。でも私は名字で呼ぶね。よろしく、九条君」
そう言って、彼女――伊吹はフレンドリーに笑った。シャープなメガネに長い黒髪を後ろで三つ編みにしている。メガネ属性委員長萌えの人間にはたまらない存在だろう。
まぁ、俺は違うから関係ないけど。
ちなみに俺は巨乳の年上美人が好きだ。姉力と母性があるとなおのこといい。
「九条、狗神の後ろに新しく席を作ってある。今日からお前はそこに座れ」
「わかりました」
「クックック、よろしく頼むぞ、我が同胞よ!」
「……ああ、よろしく」
俺はひきつった苦笑いで、狗神海斗の後ろの席についた。




