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魔眼の王~思考読解の邪視~  作者: くろふゆ
 第五章 編入 encounter
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048話 編入

 舞台は藤堂アリサが理事長を務める、私立月詠学園へ。そこで九条透は新たな級友たちと本物の青春を送る。しかし、水面下では黛京香による九条透奪還計画が始動していた。愛憎渦巻く常人を超えた化物どもの戦いが再び幕を開ける。

「おかえり透君、任務達成ご苦労様! むぎゅ~!」


 総合病院の地下の秘密基地に帰って早々、俺は白衣を着た『ウロボロス』のボス、藤堂アリサに抱き付かれていた。

 超巨大な胸が遠慮なく俺の顔に押し付けられる。いい匂いがして興奮するからやめてほしい。めちゃくちゃ柔らかいし、こいつ絶対ノーブラだろ。将来垂れるぞ。


「そうだ! ご褒美に今夜は一緒に寝てやろう」

「なんで俺がお前と同じベッドで寝なきゃならないんだよ」

「まぁ、そう遠慮するなって。もう睡眠導入剤が効かなくなって、しばらくまともに寝ていないだろう? それにそろそろ人肌も恋しいはずだ」


 アリサが何もかも見透かしたように言う。

 実際、基地内での俺の生活はアリサに監視されているわけだが。

 あの六畳しかない閉鎖空間にもだんだん慣れてきたところだ。


「おかえり九条、お疲れ様」

「単独任務の達成、これでようやく透さんも一人前ですね」


 リビングルームの大きなソファにもたれながら、棒付きキャンディーを咥えた綴伊澄とフライドチキンを貪る熊谷朱里がこちらを向く。

 彼女たちは二人とも『ウロボロス』の三人しかいない戦闘員幹部の二人である。

 二人の少女は白と黒のツートンカラーの学生服に身を包み、長い緑がかった黒髪が艶やかな綴は、豊かな胸元に青のネクタイを、外側に元気よくハネた短い赤髪の朱里は、ほどよく膨らんだ胸元に赤のネクタイを結んでいる。

 高そうなソファの脇には、茶色い学生カバンが二つ立てかけてあった。


「というか綴、なんでお前の学生服は男用なんだ?」


 朱里の学生服はスカートにパステルカラーの桜色のパーカーを腰に巻いているのに対して、綴は男物の黒色のズボンを穿いていた。明らかに二人とも制服を改造している。


「ふっ、私は特別だ」

「あっそ」


 特に興味も湧かなかったのでそれ以上は追求しない。


「……そうか。昨日で五月の長期休暇、ゴールデンウィークも終わり。今日からお前たちは勤勉な学生に逆戻りというわけだな」

「まぁ、そういうことです」

「九条も、私たちと同じ学園に来たらいいじゃないか」

「馬鹿馬鹿しい。今さら学生なんかに戻れるかよ」


 そう嘆息をもらす。

 むしろ、こいつらが普通に学校へ通っていることのほうが驚きだ。

 てっきり普段は学校には行かず、仕事に専念しているものと思っていた。


「いいじゃん、来なよ」

「別に、私は透さんに来てほしくないですけど」


 綴が目を細めて誘うように、朱里が頬杖をつきながら気怠そうに言った。

 相変わらず、朱里は俺に対して冷たいというか、厳しいというか、険のある言い方をする。

 というか、絶対俺のこと嫌いだろう。……俺も嫌いだけどな。この大食い筋肉バカが。


「そのことなんだがな」


 アリサが大きな胸を揺らして俺のほうへと前のめりになる。


「……近い、近いっつーの。なんだよ、一体」


 こいつの距離感にはいまだに慣れない。

 スキンシップが激しいんだよ、このロシア人ハーフの巨乳美女は。


「透君。キミには、伊澄や朱里が通う高校、つまりはこの私、藤堂アリサが理事長を務める月詠つくよみ学園に編入してもらう」

「……は? 月詠学園? 確か、この近くにある高校だよな……」


 私立月詠学園。総生徒数七百人以上を誇る、文武両道を志す名門高校だ。

 そういえば、綴と朱里が着ている白黒の制服はなんだか見覚えがあるな、と今になって思う。


「お前、そんなところの理事長までやっていたのか」

「ふふん、凄いだろ?」


 大きな胸をさらに誇張するように張る。

 視界の端で朱里がそれを羨ましそうに眺めていた。


「それで? 今度は俺に、どんな任務で月詠学園に潜入してほしいんだ?」


 自分たちに敵対する組織をおびき出すために、俺を白麗院学院に呼び戻したこともあるアリサのことだ、また何か内緒で良からぬことを考えているのだろう。


「任務? いや、違うよ。今度は単純に、キミに高校生活を楽しんでもらおうと思ってね」

「……ふん、冗談を言うな。どうせまた何か裏があるんだろう?」


 俺は黒い眼帯で塞がれている左目を押さえながら軽く愚痴る。

 視界が遮られている以上、左眼に宿る力――『洞視眼』――『思考読解』は使えない。

 まぁ、直接相手の目を見なくても、覚醒した左眼の能力――『思考読解第二』で一定範囲内にいる人間の思考を読むことはできるが、これはアリサたちには知られたくない奥の手だ。

 それにいざとなれば、俺には覚醒した右眼を通して視線の合った人間の脳内を侵蝕し、狂気を感染させて精神を破壊するというもう一つの奥の手――『幻視眼』――『思考伝達第二』があるわけだが、それをこの場で使うつもりは毛頭ない。

 しばらくはアリサたちの『ウロボロス』に世話になるつもりだ。他に居場所もないからな。


「ひ……酷い。この信頼のなさ……。まったく、泣けてくるね。ちょっとは私の言うことを信じてくれよ。うえーん」


 アリサが嘘泣きをしながら、おおげさにそして露骨に悲しみをアピールしてくる。

 嘘をつくとき、男は目をそらすやつが多いが、女は逆に「私のことを信じて」って見つめてくるやつが多い。世の中の男性諸君、そういう女性に騙されてはいけませんよ。

 鬱陶しい女だな、そう思いながら俺はアリサの肩に手を置いた。


「はいはい、とりあえず今は信じてやるから話を続けろ」


 どうせこいつの思考は読めないんだ。ひとまず話だけでも聞こうじゃないか。


「キミには伊澄と朱里が通っている月詠学園へと編入してもらう。まぁなんだ、これからも任務は続けてもらうが、仕事は基本的に夜の場合が多い。昼間は年相応に学校生活を謳歌してもらおうとわけだ。いい息抜きにもなるだろう」


 それに、とアリサは続ける。


「月詠学園に在籍している生徒の半分以上は推薦入学だ。つまり彼等は、一芸に秀でた者が多い。だから、キミのような少し変わった生徒だって簡単に溶け込めるさ。ちなみに、伊澄も朱里もスポーツ特待生だ。伊澄は剣道部、朱里は陸上部に所属している。そして彼女たちは、月詠学園の名誉ある生徒会役員でもあるのだよ」

「ふん、生徒会役員……ね。要するに、変人の巣窟ってことじゃねぇか。現に綴と朱里が通っているわけだしな」


 横目で二人の様子をうかがうと、新しいフライドチキンを頬張る朱里と目が合った。


「こっちを見るな、脳味噌まで筋肉でできている女、略して脳筋。単純バカ」

「だ、誰が単純バカですか!」


 朱里が猿のように喚く。その姿を見るのは愉快だ。

 そして、アリサは笑いながら俺の言葉に答える。


「だって、そのほうが面白いだろう。私がこの世で最も嫌いな言葉は退屈だからね」

「そりゃあ、変わり種のモルモットたちを管理するお前は楽しいだろうけどな。俺にとってはそんな学園、面倒の一言だな」

「ふふん、退屈はしないよ。キミの薄汚れた灰色の人生を、少しでも色鮮やかにしてやろうという親心じゃないか。ちゃんと受け取ってくれよ。青春しようぜ☆」


 グッ! っと、親指を立ててウインクしてくるのがウザい。

 正直、思いっきりぶん殴りたいところだが、ここは我慢だ。


「何が親心だ。俺と二つしか歳は変わらないだろ」

「じゃあ、私はキミのお姉さんだな。遠慮なく甘えてくれたまえ義弟よ」

「なら、今すぐこの腕輪を外してくれ、お姉ちゃん」

「お、お姉ちゃん……ぶふっ、萌える」

「う、うるさい! これを外せ!」


 俺は黒い薄手のパーカーの袖元に隠れた、堅甲なる黒き腕輪をアリサの眼前に晒す。

 こいつを嵌められている以上、俺はアリサに逆らえない。

 組織に反旗を翻した瞬間、手首から猛毒が全身を駆け回り、十五分後には死に至るそうだ。


「残念ながら、それはできないな。鎖を外して飼い犬に逃げられるのはごめんだ」

「その通り。俺はお前に飼われている犬だ。だから、無駄な馴れ合いはいらない。お前が月詠学園に通えと命令するのなら、俺は大人しくそれに従おう」

「……まったく、嫌なやつだな、キミは。私はあまりキミに命令をしたくないから、こうして遠まわしに可愛くお願いしているというのに……」


 可愛いというところは引っかかるが、この際無視する。


「お願い、ね。まぁいいさ。ようやく白麗院での戦いで負った傷も完治したところだ。お前が言うように、俺も綴や朱里が通っているという月詠学園へとやらに通おうじゃないか。少しは楽しめそうだしな」

「ふむ。分かってくれたか。では、さっそく明日から通ってくれたまえ。手続きはもう済ませてある。ようこそ月詠学園へ。キミは成績特待生として編入することになる。月詠学園では編入生は特待生枠でしか受け入れていないからな。キミの学力なら余裕だろう」


 両手を広げてアリサがおおげさに歓迎のポーズを取る。

 どこまでも芝居がかったやつだ。……胡散臭い。

 そう思いながら、俺は左眼を覆う眼帯に手を当てて呟いた。


「……というか、手続きが済んでいるってことは、最初から俺が月詠学園に通うのは確定事項じゃねぇか……」


 どう足掻いたところで、俺はアリサには逆らえないらしい。

 チッ、食えない女だ。

 ちょっとおっぱいが大きくて美人だからって、なんでも許させると思うなよ。

 と内心愚痴るのだった。


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