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魔眼の王~思考読解の邪視~  作者: くろふゆ
 プロローグⅡ 変化 dark eyes
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047話 狂気の双眸

 今日もパトカーで見回りをしていた亮介の元に緊急の連絡が入った。

 この近くの総合病院で、どうやら殺人事件が起きたらしい。

 被害者のナースコールにより駆けつけたときは、もう被害者の命はなかったが、死体は暖かく、まだ犯行から数分くらいしか経っていないという判断が下された。

 つまり犯人は病院内、もしくはその近くに今もまだいる可能性が高い。


「――って、その病院、さっき通り過ぎたとこじゃねぇか!」


 亮介は急いでハンドルを回して事件の起きた総合病院へ向かう。


「やっぱり、島津さんの勘、当たりましたね」


 隣で夏美が少し緊張した顔で呟いた。


「病院は目の前だ、すぐに着く。着いたらまずは病院の敷地内から出る人間を抑えるぞ」

「どうしてですか?」

「どうせオレたちが現場に一番乗りだ。もし犯人が病院内にまだ潜伏しているなら、あとから来る援軍が探し出してくれる。オレたちの仕事はそれまでなるべく病院内から怪しい人物を逃がさないことだ。気を抜くなよ」

「……わかりました」


 仕事になると、亮介の顔付きは変わる。

 普段の飄々とした掴みどころのない性格から、一転して燃え上がるように熱くなる。

 夏美が亮介とコンビを組んでから、亮介が犯人を逃がしたことは一度もなかった。


「それにしても、犯人は一体どんな人物なんでしょう?」

「さぁな。でも犯行は病室で起きているんだ。犯人は病院の関係者か通院もしくは入院している患者、はたまた知り合いのお見舞いに来た風を装った、全然関係のない人物かもしれない」

「それだと、なかなか犯人像を掴めませんね」

「ああ、だからとりあえずオレたちは病院の敷地内から出ようとしている人間をすべて犯人だと思って行動するぞ」


 そうこうしているうちに、パトカーは総合病院の前にたどり着く。


「急ぐぞ、夏美!」

「了解です! 島津さん」


 車内から降りて敷地を進み中に入ると、意外なことに病院は落ち着いていた。

 どうやら、この殺人事件は病院内の混乱に繋がらないように、まだ病院内にいる患者には秘匿されているらしい。

 普通に病院の中庭を、老人や頭に包帯を巻いた青年、車椅子の少女が行き交っていた。

 亮介はその中で、一風変わった雰囲気を放つ、背の低い少女のような少年に声をかけた。


「君、少しいいかな?」


 その少年は深い緑色のジーンズを穿き、ジャージ生地の黒い薄手のパーカーを羽織り、そのフードを頭から被っていた。左目には医療用の白い眼帯がつけられている。


「あの……なんでしょうか?」


 警察官の格好をした二人組に声をかけられたことで、少年の右目がスッと細められる。


「この病院内で何かあったみたいなんだけど……君、知らないかな?」


 亮介がなぜわざわざ秘匿されていることをこの少年に明かしてまで尋ねたのか。

 それは彼の『直観』がこの少年は何か異質であると感じたからだ。

 今までに多くの犯罪者と対面してきたが、その中のどの犯罪者よりも、少年からは深く濃い闇の匂いが漂っていた。

 具体的な証拠や考えがあるわけではない。

 ただ、亮介の『直観』がこの少年には何かあると告げていた。


「いえ、俺はこの病院で何かあったなんて聞いていませんけど……。俺はただ、友達のお見舞いに来た帰りですから」


 微かに震える少年の唇からは、覇気のない弱々しい声が発せられた。


「友達のお見舞い? じゃあ、その左目はどうしたんだい?」


「……ああ、これはちょっとした怪我ですよ。瞼を少し切ってしまっただけです」


 少年は苦笑いを浮かべながら、左目を覆う医療用の白い眼帯を押さえた。


「それじゃあ、俺は暗くなる前に家に帰らなくてはいけないので。さようなら、警官さんたち。お仕事、頑張ってくださいね」


 少年が被っていたフードを取る。それに伴い、男にしては長い青みがかった黒髪が風に揺れた。

 儚げな顔で薄く笑い、亮介と夏美の横を足音も立てず、滑らかに通り抜ける。

 そのときに一瞬、ほんの僅かだが、亮介は異臭を嗅いだ気がした。この匂いは――


「――待て。君からは……血の匂いがする」


 確証など一切なかった。漂った香りも判別が付かないほど微かなものだ。

 しかし、それでも亮介の『第六感』はこの少年が怪しいと告げていた。


「少しだけでいい、話を聞かせてくれ。……悪いが署に同行してもらえないだろうか」


 亮介は通り過ぎた少年の小柄な後ろ姿に、若干の威圧感を込めて言う。

 そのとき、亮介は少年が纏う雰囲気が暗く冷たいものに変わったような錯覚を覚えた。

 静かな殺気が爆発的に空間を占めていく。

 生き物として、本能的な恐怖を感じた。


「……まったく、勘が良すぎるのも考え物ですよ。あなたは長生きしないタイプだ」


 振り向いた少年の右眼は、日の落ちた闇夜をバックに、赤く煌々と邪悪に輝いていた。

 そして、その紅の瞳に逆ペンタクルのマークが浮かび上がる。――『思考伝達第二』。


「――『幻視眼げんしがん』!」

「な、何……その眼……」


 今まで黙って隣に立っていた夏美が、怯えた声で問いただす。


(……カラーコンタクトか?)


 という考えが一瞬亮介の頭をよぎったが、少年の凶眼がそんなチャチなものではないことに、すぐに気付かされた。


「狂気とは流動するものだ。俺の狂気は他人に伝染し伝播する」


 少年がそう呟いたときには、すでに亮介の脳内を強烈な破壊衝動が襲っていた。


「うっ……ぐっおおおおおぉ!」


 そのまま止むことなく負の感情が流れ込んでくる。頭が狂いそうなほどの激痛が走り、思わずその場で身悶えた。神経を焼き尽くされていく感覚。

 身を引き裂かれるような痛みが全身を駆け抜ける。

 自身の脳を直接、誰かの見えない手で弄られて、犯される姿を想像してしまう。

 このままでは――発狂しそうだ。

 亮介が咄嗟に少年から目をそらして下を見ると、夏美が口から泡を吐いて気絶していた。


「どうやら、お前はほんの少し、心が強いみたいだな」


 すっかり顔付きと言葉遣いの変わった少年が、酷薄な笑みを浮かべながら、いつの間にか眼前に迫っており、左手で亮介の首を強く絞めてきた。


(――こいつ、なんて目をしてやがる)


 その瞳は、亮介が今までに遭遇してきたどんな犯罪者よりも冷え冷えする、完全に気が狂った者の目だった。


「その目……お前、人を殺したことがあるのか?」

「…………………………」

「……質問に……答えろ……っ!」

「悪いが、お前の記憶……破壊させてもらうぞ」

「……がっ! ぐぐぐぐ、お、お前は……ぐっ、が……ぁ……」


 より近くで絡む両者の視線。血のように赤く輝く少年の右眼を通して、壮絶なる孤独と絶望、世界を塗り変えてしまうほどの狂気が、亮介の脳裏に流れ込んでくる。


「ぐっ、あ、ああ、あぁ、お前は……一体その身に……何を、飼っている……ん……だ」

「綺麗に舗装されたアスファルトの上と、暗い谷底に架かる今にも切れそうな細い綱の上。お前と俺じゃあ……生きてきた道のレベルが違うんだよ」


 絞るように吐き出された少年の言葉。口の端が吊り上がった歪な笑み。

 顔のない腐った無数の死体によって、底のない血の池に引きずり込まれる幻覚を見ながら、亮介はそっと意識を手放す。

 そして、許容できないほどの精神的苦痛を味わった亮介の脳は、このときの記憶を失うことで、なんとか自我を保とうとした。


 ★ ★ ★ ★ ★ 


 俺は目の前で気絶して倒れている警官二人を、冷酷な眼差しで見下ろしていた。

 一人は男。恵まれた体格に容姿。相対したときに感じた雰囲気から、本来はかなり実力のある警察官なのだろう。

 今までの人生も順風満帆と言った感じで、怖いもの知らずという印象を覚えた。

 もう一人は女。小柄だが胸は大きく、その顔は幼い。女性と言うよりは少女と呼んだほうがいいのかもしれない。

 こいつは今までなんの苦労もせず、幸せな人生を送ってきたのだろう。そして、そんな自分が少しでも他人の役に立てたらいいな、などと考えて警察官になったに違いない。


「……チッ、虫唾が走る」


 舌打ちしながら、凄絶な笑みを浮かべる。

 警察。本来なら国民を守ってくれる正義の味方。

 なら、なんで俺のことは助けてくれなかった? あのときもあのときもあのときも、そして今でさえ、こいつらはなんの役にも立たない。

 俺を暗闇から救い出す光にはなってくれはしない。それならいっそのこと――

 ギリギリと奥歯が擦り減るほど噛み締め、両の拳に爪が喰い込み、血が滲むほど強く握ることで、体内で暴れる『狂気』をなんとか抑え込む。


「……はぁ……はぁ、危ない。もう少しで、こいつらも殺したくなるところだった」


 黒いパーカーのポケットから、アリサが作ってくれた即効性のタブレットタイプの精神安定剤を口内に放り込み、勢いよく噛み砕く。

 それから体内の『気』を調整して心を静め、周囲に人がいないのを確認しながら、俺は静かにその場を後にした。


 もうすぐ、モヒカンが運転する迎えの車が来る予定だ。

 被っていた薄いパーカーのフードを外し、偽装のために付けていた医療用の白い眼帯を左目から剥ぎ取る。

 すると、その下から銀の刺繍でウロボロスのマークの入った、漆黒の眼帯が姿を現した。


「これで、今度こそ今日の任務は完了だな」


 ふぅ、と短いため息を吐いて、俺は病院から少し離れたところにとめてある、黒い防弾のワンボックスカーに乗り込んだ。


 ★ ★ ★ ★ ★ 


 時々、唐突にどうしようもなく、孤独を感じることがある。

 そんなときは、頭の中がぐちゃぐちゃになって、思考がまとまらず、無性に泣きたくなるんだ。

 両親に必要とされず、捨てられ、そして最後には自分から繋がりを断ち切った過去。

 その記憶が耐え難い孤独感と無気力を生み、他人からの愛を求め続ける。

 それでも誰かに愛されるということを信じられなくなった哀れな子供。

 自分には誰かに愛される要素も魅力もない。そう思っている。


 それが――九条透。身長164センチ。体重59キログラム。高校二年生。

 過去に母と弟を事故で亡くし、父を自らの手で殺害した。

 艶のある長めの青みがかった黒髪に、腐海のように濁った黒い目。『魔眼』の超能力者。


 左眼の能力――『思考読解』――左目が毒々しい紫色に染まり、目を合わせた者の思考を読み取る。

 覚醒した左眼の能力――『思考読解第二』――紫色に染まった左目に蜘蛛の巣状の不気味な模様が浮かび上がり、一定範囲内にいるすべての人間の思考を読み解く。

 その左目の名を『洞視眼どうしがん』という。


 右眼の能力――『思考伝達』――右目が紅色に染まり、目を合わせた者に自分の考えていることを伝える。

 覚醒した右眼の能力――『思考伝達第二』――赤く染まった右目に逆ペンタクルのマークが浮かび上がり、目を合わせた者全員に超強烈なショックイメージを流し込み、現実から切り離した幻覚を見せることが可能。

 脳に過度なストレスや負荷がかかると、その人間が見る現実は崩壊し、本来あるはずがないものを知覚し始める。それこそが幻覚。

 その右目の名を『幻視眼げんしがん』という。


 ――備考。能力の副次効果として、完全な暗闇でも『視る』ことができ、興奮時は両目とも静止視力と動体視力が劇的に向上し、その膂力も数倍に跳ね上がる。

 勝負所では『狂化』を超えた、脳のリミッターを外す限界突破――『鬼神化デーモンイゼーション』を扱う。

 身体能力、知能指数ともに優秀。欠点は背が低いことに伴うリーチの短さ。


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