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魔眼の王~思考読解の邪視~  作者: くろふゆ
 エピローグ 魔眼の王 fake end → change the world
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045話 再始動

 俺は詩乃の記憶改竄能力の解除により、本来覚えていたはずの、しかしその事実が認められないほどショックなもので、自ら脳裏に鍵をかけていた記憶を思い出していた。

 それは、昔、俺を助けてくれた少女――アーシャがすでに死んでいるということだ。

 詳細は不明だが、確かに彼女の活動はその事実が判明した一年前から止まっている。

 ことここに至って、いまさらながらにそれを思い出していた。


 俺が漠然と世界の革命を急いでいたのは、無意識のうちにアーシャがもうこの世にいないことを察していたからかもしれない。彼女が世界を変えられない状態に陥ったとき、それを実行するのが俺の役目であり、それが彼女とのたった一つの約束だったから。


 ……見慣れない天井だ。どうにも科学薬品臭い。ここは一体――


「おや、ようやく目が覚めたかい? お寝坊さんにもほどがあるよ、キミは」


 白衣を纏った金髪の美女がこちらに語りかけてくる。

 覚えている、彼女の名は藤堂アリサだ。


「キミがあの日、意識を失ってからもう一週間だ。そして、その状態のキミを看病してやったのは私だ。感謝したまえ」


 どうやら、俺――九条透は死に損ねたみたいだ。

 だが、体を動かそうにも上手く機能しない。目だけで状況を確認すると、全身に血が滲んだ包帯が巻かれ、体のあちこちに様々な医療機器が取りつけられていた。


「限界を超えた『鬼神化デーモンイゼーション』の発動による代償か。それ相応に大きな対価だな」

「今回キミは私の予想以上の成果を見せてくれた。だから、もう少しだけ大人しく養生していたまえ。ゆっくり休んだら、また働いてもらうさ。もうキミに無茶はさせないよ。本来キミは頭脳派だろう。肉弾戦は朱里と伊澄に任せたまえ。これからはブレインになれ」


 そう言って、アリサは笑みを浮かべながら白衣を翻し、俺のいる医療室を後にした。

 そして、俺はもう一度深い眠りにつく。どうやら今回は悪夢を見なくて済みそうだ。

 しかし、これは後で知ることになるのだが、俺が詩乃を庇って組織を一度裏切ったせいで、アリサによって例の秘密を、朱里と綴に包み隠さず盛大にばらされていた。




 あの壮絶な戦いから四週間。つまり、およそ一ヵ月。時日はすでに五月に入っていた。

 早朝。眼帯を外して顔を洗った俺は、鏡で自分の瞳の奥底を覗き込んで見た。

 俺は鏡を通して『洞視眼』で己の右目の深淵を探り、自分自身に問いかける。


「俺の前では何人たりとも嘘はつけない。答えろ、お前は――――」


 一瞬の静寂が場を包み、その後、俺自身の低く邪悪な嗤い声が響いた。


「フッ、ハハハハハ、やはりそうか。近い未来に……俺は『王』になる」


 俺は自身の左目を覆うように、黒い眼帯のバックルをカチッと音がするまで締める。

 その黒い眼帯には、以前はウロボロスのマークに刻まれていた、鎌鼬のような半円の三つの傷が消えていた。これは俺が正式に『ウロボロス』の一員となった証としてアリサに新しく支給された、前とは別の、少し素材がいい高価な眼帯だった。


 縦の薄いストライプが入った戦闘用の黒スーツに着替えて昇降機に乗り、病院の地下基地から地上へと出る。すると、いつものモヒカンが送りの車をよこしていた。


「本日もよろしくお願い致します」

「おう、今日も頑張れよ」


 モヒカンが俺の肩を軽く叩いてきた。割といい関係だ。でもこいつ、ホモなんだよな。


「じゃあ、出発するぞー」


 モヒカンが軽く言い、車のアクセルをかける。やがて静かに景色が動き出した。

 そして、目的地に到着する。車内にいる間、なんとも言えない雰囲気だった。


「じゃあ、行ってくる。帰りも生きていたら、迎えを頼むよ」

「おう、今日も死ぬんじゃねぇぞ、坊主」


 モヒカンマッチョの返答を聞き、俺は気の昂りを抑えて静かに車を降りた。

 ここからは戦場だ。気の緩みや甘い考えは許されない。

 俺は『ウロボロス』の暗殺者として、あくまでも仕事に徹する。

 とは言っても、まだ完全に回復しきっていない俺は今回、戦闘には参加しないのだが。


 アリサが言うに、俺がいると捕まえた敵をわざわざ地下基地に連れて帰って拷問する手間が省けて助かるらしい。なにせ、俺の左眼に宿る力は『思考読解』だからな。

 指定されたビジネスホテルに一人で入ると、ロビーには白衣を着たアリサと、俺と同じく黒いスーツのような戦闘服に身を包んだ朱里と綴がいた。


「まったく、遅いですよ。透さん」

「またいつもの重役出勤か、九条。あまり私を待たせるなよ」

「まぁまぁ、そう言いなさんな。さて、全員そろったことだし、お仕事と行こうか」


 戦闘員幹部の熊谷朱里、戦闘員幹部の綴伊澄、『ウロボロス』のボス、藤堂アリサ。

 再び異なる三者三様の返答を聞き、いまだにただの戦闘員である俺は、彼女たちの後ろを肩で風を切りながら豪快に進行した。なぜなら、俺はいつか『王』になる男だからだ。


「待たせたな。行くぞ」


 まだ俺の右目の力――『幻視眼げんしがん』に気付いている人間は、俺を除けば詩乃しかいない。

 だから、この力は世界を変革する奥の手になりうる。俺が『王』へと至る第一歩へと。

 未来は曖昧で、過去は変えられない。ならば変革するのは今、この瞬間から――


 これは、ある少年の終わりの始まりにして、始まりの終わり。

 九条透の『王』へと至る物語は、ここから紡がれる。

――――――Re:START……


これにて第一部完結。

いままでありがとうございました。

感想、評価、お待ちしております。

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