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魔眼の王~思考読解の邪視~  作者: くろふゆ
  第四章 君が代わりに泣いてくれたから true memory
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038話 『ウロボロス』VS『ハウンドドッグ』

 白麗院学院、西棟一階、保健室。

 輝く金髪を手で梳きながら、アリサは着々と作業を進めていた。

 しかし、先程から廊下がやけにうるさくて気が散る。


 アリサはこの保健室で無線とノートパソコンを使い、白麗院にあらかじめ配置しておいた戦闘員の指揮を取りつつ、自分がこの学校に存在していたという証拠を消していく。

 戦闘員の位置確認や戦闘状況は『ウロボロス』の地下基地に残した部下に任せてある。

 よって、アリサが今一番気にしているのは――


「粟国鋼鬼は、今は誰かの下についているが、常に野心を燻らせている。明け透けのようでいて、自分の本心をすべて他人に話すことはない。無愛想で傲慢な自信家だが、一部の部下からは熱狂的に慕われている。対して、透君には『純正の人間』ではない疑いがある。彼の正体はもしかすると……魔じ――」


 思考の途中で、伊澄から連絡が入る。


『アリサ、だいぶ手間取ったが、こちらは片付いたぞ。堂林陸という男を排除した』


 無線から伊澄の落ち着いた声。しかし、少し息が荒れていた。


「お疲れ様。悪いが、急いで透君の元へ向かってくれ」

『あいつは今どこにいる?』

「うーん、それが腕輪に仕込んだGPSは、長距離でも反応するように改造していてね、校舎内にいることは分かっているんだが、詳細な場所は把握できないんだ」

『おい、それじゃあ……』

「うん、校舎中を歩き回って探してくれたまえ」


 ブツッという音がして無線が一方的に途切れた。

 まぁ、伊澄のことだ。怒ってはいても結局彼を探しに向かうだろう。

 それに彼女の配下の美少女暗殺部隊『キラーガールズ』が後処理をしてくれるはずだ。

 さて、もう一人はというと――

 白衣のポケットがバイブで振動する。スマートフォンに電話がかかってきた。


「……もしもし」

『あ、アリサさん。ようやくこっちも仕事が終わりました。なんか、今回の敵はトラップとか仕掛けてきて、かなり鬱陶しい相手でした。確か、名前は綾辻優でしたっけ? 所詮、記憶に残らない相手です。でもそいつのせいで、足を怪我しちゃいましたよ』


 スマホから朱里の声。どうやら頭脳派の敵と当たったようで、かなり苦戦したようだ。


「それはさておき、朱里、連絡は電話ではなく無線でしろと何回言えば分かるんだ?」

『……え? あ、すみません、すみません、私つい――』


 途中で朱里の声がアリサの意識から途切れる。


「そこの保険医、電話を捨ててゆっくりと両手を上げろ」


 背後から男のくぐもった声。アリサの後頭部には硬い物が押し付けられていた。

 おそらく、それは拳銃だろう。そして、背後にいる人間の気配は二人。


「はぁ……まったく、電話ぐらい静かにさせたまえ」


 アリサは空中にスマホを高く放り投げた。

 男たちの視線が上にいった瞬間、低くしゃがみ込み背後の男に足払いをかける。

 男が体勢を崩したところに屈めた膝を一気に伸ばし、その勢いを生かした掌底を男の下顎にぶち込んだ。


「ぐ……がぁ!」


 咄嗟に拳銃をこちらに向けたもう一人の男の手首に目にも留まらぬ速さで右手刀打ちをくらわせ、握っていた拳銃を叩き落とす。そしてそのまま男のわき腹に左中段回し蹴りをくらわせた。男が体勢を崩したところにムエタイの『首相撲』。

 両手を男の首の後ろに回して抑え込み、顔面に右飛び膝蹴りをかました。


「ぶべぇ、ごぉうぉ」


 うつ伏せに倒れる男の背中に左肘を振り下ろし、完全にとどめを刺す。

 そして、宙から落ちてきたスマホを右手で軽々とキャッチした。

 藤堂アリサの『完全記憶能力』は、一度覚えたことを二度と忘れない。

 それは知識や記憶だけでなく、体で覚えた技術も含まれる。

 すでに、彼女は三年前、数多の武術を浅く広く『覚えて』いた。


『……さん、アリサさーん。なんかそっちで音が聞こえたんですけど、大丈夫ですか?』

「問題ないさ。それより朱里、仕事が終わったなら透君を迎えに行ってやってくれ」

『うぇー、なんで私がそんなことしなくちゃいけな――』

「何か、文句があるのか?」

『……あ……ありません。あー、なんか私、急に透さんに会いたくなってきたなー』

「私もすることが終わり次第、ここを出る。合流する前に彼を回収しておけ」


 今度はアリサが、朱里からの反論を許さず一方的に電話を切った。


「透君、キミは私の所有物なんだ。私の許可なく勝手に死ぬんじゃないぞ……」


 そう呟いたアリサの足元には、気絶した二人の男が白目を向いて倒れていた。


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