表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔眼の王~思考読解の邪視~  作者: くろふゆ
  第四章 君が代わりに泣いてくれたから true memory
37/65

033話 殺意

 四限目の授業が終わると、教室が急に騒々しくなる。いつもなら各自昼食を取りにほとんどの生徒が食堂へ向かうはずなのだが。


「ほらっ、九条。ぼうっとしてんなよ。今日は新入生歓迎会の本番だぜ」

「……ん? 新入生歓迎会?」

「なんだ? 忘れてたのかよ。お前が風邪で休んでる間もオレたちは準備してたんだぜ」


 俺の疑問に田丸が突っ込みを入れる。

 そうか、今日が新入生歓迎会か。去年は俺たちがもてなされるほうだったな。


 白麗院で毎年恒例のこの行事は、生徒会主体による体育祭・文化祭に次ぐ一大イベントだ。内容は体育祭と文化祭が軽く入り混じったようなもので、部活動勧誘もこの日に行われる。新入生歓迎会は午後二時から七時まで開催され、最後は生徒会主催のステージパフォーマンスがあるんだったな。


「……悪いな。迷惑かけて」

「いや、別に全然構わねぇよ。ただ、お前も楽しみにしているだろうと思ってな。去年も凄く楽しそうにしていたじゃねぇか。確か、あのときオレたちは仲良くなったんだよな。さぁ、とっとと準備始めようぜ。お前がやりたそうなことは残してあるんだ。友達だからな。お前が考えていることなんて大体わかるぜ。このクラスのみんながな」


 そう言ってバカみたいに楽しそうに笑いながら、その田丸は俺の肩を叩いて足早に廊下へと駆けて行く。俺はその背中をナイフで後ろから突き刺すような鋭い目で睨む。


「……俺の気持ちが、わかる……だと」


 幸せな家庭で育って、何不自由なく温かい世界で笑顔を浮かべて、周りのみんなに助けられて励まされて優しくされて、悲しみの涙に溺れる俺を嘲笑うかのように全身で喜びを感じて、溶けるような幸福感を味わっていた、そんなお前たちに俺の気持ちがわかる?


「なら、気付いていたか? 俺はずっと、ずっと――」


 誰にも知られないように必死で抑えていた感情が、小声になって漏れた。


「お前たちのことを――殺したいと思っていたんだ」


 自らの血を凍らせるような冷たい狂気が、体の奥からジワジワと湧き上がってきた。

 場に殺気が充満する。田丸はただの一般人だ。殺そうと思えば、今すぐにでも殺せる。


「お、おい、九条! ちょっとこっちに来いっ!」

「……は? ちょ、何をする。みんなが見ているだろ」


 急に現れた綴が、俺の腕を取って、強引に教室の外へと連れ出す。


「いいから来い!」


 綴の真剣な顔に気圧され、俺は大人しく人通りの少ない階段の陰に連れていかれた。


「お前、どういうつもりだ? あまりむやみに殺気を振り撒くな」

「はぁ?」

「まさか、気付いてなかったのか?」


 俺が無言で睨むと、綴は短く嘆息した。


「昨日、アリサが言っていたことだが、九条、お前は自分の思考力がここ数日で急激に落ちていることに気付いているか?」

「……………………」

「お前、自分の行動をちゃんと頭で制御できているのか? 例えばだ、お前は初めてアリサと顔を合わせたとき、不快だという理由だけでアリサを殺そうとした。それは普段のお前なら選択するはずのない愚行だ」

「……思考をコントロールすることができなければ、行いをコントロールすることはできない。とはアメリカの実業家、アンドリュー・カーネギーの言葉だったか」

「お前が殺し屋、または暗殺者についてどう思っているのかは知らないが、殺し屋には特殊な性癖を持つ者や、二重人格者が多い。それは彼等も人間である証だ。どこかでスイッチを切り替えなければ、道徳的な壁を越えて人を殺すなんてまねはできないし、人を殺したあと、何もなかったかのように、のうのうと日々を過ごすこともできない」

「そうやって、どんどん常人としての感覚が麻痺していくのか?」

「いや、人を殺すことに罪の意識を感じなくなれば、やがては命を奪うことの快楽に身を流され、その魂は地に堕ちる。私たちにとって、殺しは趣味などではない、ただの仕事だ。そう割り切れ。思考を放棄した獣のような殺人鬼にはなるな。自我を失った殺人鬼に仕事は務まらない。そうなってしまえば、手遅れになる前に処分する必要がある」


 綴の目が鋭く細められる。その目には俺を脅すような凄みがあったが、少なからず心配の色も含まれていた。そもそも、そうでなければわざわざこんな話をしていないだろう。


「気付かないうちに、俺は少しずつおかしくなっているのかもしれない」

「それなら今夜、殺意のコントロールについて、私がじっくり教えてやろう。その代わりと言ってはなんだが――」

「いや、遠慮しておくよ」


 俺は綴の善意をやんわりと断る。見返りを求めた時点で、それは善意ではなく打算だ。

 それにこれは俺自身の問題である。誰かにどうこうしてもらうものじゃない。


「でも、ありがとう綴。忠告感謝するよ。お前、なんだかんだで優しいよな」

「そう思っているなら、是非とも女装をして私とセック――」

「悪いがそれは断る」


 俺は綴の発言を間髪入れずに拒否し、気分を入れ替えにトイレへと向かった。


次回―――戦闘開始!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ